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コメント、ありがとうございます!
ああ、そうだ、これイベントだ。
ゲームでは、エイデンと猫かぶりマリアンナが話をしている時に、主人公が割って入ってきて、媚びてくるマリアンナにうんざりしていたエイデンは主人公を優先して話をしてしまう。
それに怒ったマリアンナが、このことをきっかけにして主人公に嫌がらせをするようになるのだ。
ここ、重要だよマリュン。クラスほとんどの人に見られてるんだから、あんたがここでアリスに敵対するような言動をしたら、あんたもそういう側の人になってしまうからね。
ただ、エリザベスはゲームでは存在しなかった。だから私は一瞬これがイベントだとは分からなかったんだけど、さてどうなるかな。
私とマークは、エイデンとエリザベス、マリュン、そしてアリスを見つめた。
「...ああ、アリス嬢か。そうだな、マリアンナ嬢の庭は素晴らしいぞ」
ちょっと、早速エイデンがアリスに受け答えしてんだけど。ゲームではまずマリアンナが主人公に対して「何だお前消えろ」的な発言をする。そしてエイデンがそんなマリアンナをいさめ、主人公と話す。
エイデンあんたアリスと面識あったっけ?あれなの?「クラス皆の名前覚えたぞ~ドキドキ」みたいな?少年か。
「私、サクラ、好きなんです!綺麗ですよね...!」
「......(俺は桜よりヒロインちゃんの方が可愛いと思うぜ!)」
おい、マリュン。あんた無言で何考えてんの?
「昔、サクラが似合うって、言われたことがありまして...」
アリスが頬を染める。初々しいね。ゲームではそんなこと言ってなかったよ。単に「桜って綺麗だね」って話をしてた。
「...私はサクラに似合うのはエリザベスだと思うが。どことなく儚い感じがするからな」
「え...私、儚い...ですか」
「いっいや!褒め言葉だぞ!?」
こっちはこっちで何やってんの。青春か。
「ま、まあ俺はサクラはエリザベスに似合うと思うぞ!うん!」
「い、いえ...そ、そんなこと、ない、です」
エイデン、一人称が素に戻ってる。気を付けなよ。あと本当にエイデンあんた初日から何なんだ。エリザベス困ってんじゃん。場をわきまえようね。
「ケ、ケイン?何か顔が怖くなってないかい?」
「悪いなマーク、我慢してくれ」
小声で話しかけてきたマークは私を怯えたように見てくる。いやマジでこれはごめん。
「エイデン様は、その方と仲が良いんですね...!」
アリスがきらきらした目で二人を見る。ああ、乙女だね。
マリュンはエイデンに完全にメンチ切ってるよ、大丈夫かあんた。
「ケイン」
「どうしたマーク」
「あれ、ちょっとまずくないかい?」
マークの視線の先には、アリスを睨み付けている女の子達。あー、あれはキレてるわ。
そりゃあね、第二王子に馴れ馴れしく話しかけた挙げ句、ちょっと自慢っぽいことも言ってたからね。これは仕方ないね。
幸いにも女の子達の頭の中にはエリザベスのことは入ってないんだろう。エリザベスは伯爵の娘だけど、マリュンともエイデンとも仲良いから女の子達に嫉妬されないか心配だったんだけど、アリスがいるせいでエリザベスのことは抜け落ちてるみたいだ。
さて、どうしようか。
マリュンはさっきからだんまりを決め込んでいる。アリスに関わらないというのを守ってるんだね。
アリスは周囲の視線に気付かず、無垢な表情でエイデンとエリザベスに話しかけ続けている。
エイデンとエリザベスはそんなアリスに律儀に答えながらも、和やかに二人で会話している。
これはちょっとな。アリスの印象がますます悪くなるし、エイデン、エリザベスと仲が良いと思われているマリュンが何もしないことで、女の子達の反感を買うかもしれない。表立ってマリュンに反抗する子はいないだろうけど、どうなるかは分からないし。
アリスの印象が悪くなるのも良くない。仮に女の子達がゲームのマリアンナのようにアリスに嫌がらせをしたとして、アリスが攻略対象の誰かとくっついたら、女の子達は嫌がらせの指示をマリュンからされたとか言うかもしれない。
そんなんなったら最悪だね。アリスとくっついた攻略対象が怒ってマリュンを断罪する可能性がある。公爵の娘であるマリュンは簡単に断罪はされないかもしれないけど、証人を名乗る子がいっぱいいたら厳しいからね。
どうするべきかな。
「どう思う、マーク」
「マリアンナさんのフォロー。それをするべきだ。マリアンナさんの影響力は強い。だからマリアンナさんは、彼女を、否定はしないが容認もしない。そういうスタンスでどうかな」
うん、本当にすごいねマークは。私の考えを分かってる。
でも従わない。私はこの空気をぶち壊してやるよ。そして、皆の記憶に、強烈なのを上書きしてやる。
「マリュン」
「ケイチー?」
私は沈黙していたマリュンのそばへ行くと、強引に抱き寄せた。
「今、私以外の人に心を寄せたね」
「はっ?」
「駄目だろう?君は私の婚約者なのだから」
そう囁くように言って、マリュンの頬にキスした。こういう時イケメンだと絵になるから便利だね。
「きゃあぁああ!」
アリスを睨み付けていた女の子達が黄色い声を上げる。さっきまで我関せずとしていた男子達も、どよめいている。
おいマリュン、何笑ってんだあんた。
私だって恥ずかしいわ、どうしてくれんの。
「アリス嬢」
「はっ、はい!」
「私のマリュンに、手を出さないでくれよ。私は君にマリュンを近付けさせたくないんだ。君は不思議な人だからね」
アリスは顔を真っ赤にして、こくこくと頷いた。
よし、これでマリュンはアリスに関わらない、私が関わらせない。女の子達、マリュンがアリスに関わらないのはそういう訳だからね。
女の子達は私の奇行にアリスのことなどそっちのけでざわめいている。
マークはちょっと呆然としてる。エイデンとエリザベスは二人して顔を見合わせている。あんたらも結構こんなもんだよ、多分。
願うならばアリス、どうか普通の学園生活を送ってね。