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クラス分けというのは、とても大切なものだと思う。
たとえば、入学したばかりの学園で知り合いがクラスにいたらそれは心強いだろう。
その点、私はとても心強い。何故ならクラスには攻略対象共が集まっているからだ。
エイデン、マーク、私。そして担任となるドS教師アイザック。
マリュンの弟で年下癒し系?のノアは勿論違うし、騎士団長の堅物息子ルイス(こいつとは一応面識がある)も二年生の先輩だけど、その二人以外はこのクラスにいる。
主人公アリスも、このクラスだ。何故庶民のアリスがこの身分が特に高い奴らばっかりのクラスにいるのかは知らない。ご都合主義とかいうやつだと思う。あるいは王子であるエイデンに庶民の意見を聞かすためとか。まあ元々庶民のマークもいるし、そんなに気にすることでもない。
あとは当然マリュンも同じクラス、エリザベスも同じだ。
クラス内でのイベントもあるから、アリスの動きに注意したいところ、なんだけど。
今、私はそれどころではなかった。
何故かって?
ドS教師であるアイザックの外見のせいだよ。
入学式の後、教室に入って来たアイザックを見て、私は思わず吹いた。入学式ではアイザックの姿はよく見えなかったのだ。
ゲームでは、アイザックはクラス皆の前では普通にいい先生だ。主人公の前でだけ、隠していたドS性を発揮させる。
私はアイザックを最後まで攻略してないけど、性格くらいは分かっている。
その、アイザックが、だ。
ハゲていた。
いやそこまで言う程ハゲてはいないけど、明らかにゲームよりその藍色の前髪が後退していた。
大丈夫かあんた...。ストレス?
イケメンなのにハゲてるって、勿体ないね本当に。残念。同じクラスの女の子達が揃ってため息吐くくらいには残念だ。
いや...正直に言おう。超笑った。隣の席の女の子に「ケイン様、大丈夫ですか?」と言われるくらい笑った。ごめんアイザック。見る度笑うかもしれないけどどうか許してほしい。
貴族が通う学園なんて、そんなに厳しいところじゃない。
授業だって真面目に受ける奴がどれだけいることか。
それも当然だ。だってこの学園に通うのは、婚約者を見つけるためみたいなところがあるから。本当に学を極めたい奴は、研究所(魔法使いが行く所とは別だ)に通う。ただしそこは完全に貴族王族専用なんだけどね。
エイデンもそれは同じだ。第二王子であるエイデンは、この学園でいい人を見つけられなかったら、本人の意志とは関係なく誰かと婚約を結ぶことになる。ていうかそれが普通だと思う。
学園の中から自分で選べるなんて自由過ぎる。エイデンマジラッキー。良かったねエイデン。まあ流石に男爵令嬢とかだったら城の方で審議されるらしいけど。
ただ、エイデンにはその心配はいらないだろう。どうなるかは分からないけどね。
クラスの雰囲気が悪い。
理由は簡単、アリスがいるからだ。
どうもこのクラスはプライド高い子が多いらしい。そんな子達が、庶民なアリスを嫌悪しているのだ。
マリュン、あんた大丈夫?休み時間になった途端に、クラスのほとんどの女の子達に囲まれてるけど。
耳をすませてみると、「マリアンナ様、あの特別枠の娘に思い知らせましょう!」、「あんな娘がこのクラスにいるなんて、おかしいですわよ!」などどいう声が聞こえた。
マリュンはこのクラス、いや学園の女の子達の中で多分一番身分が高い。だから他の女の子達はマリュンにアリスを差別するよう言っているのだろう。
ただ、残念ながらマリュンはそんなことしない。
別にあいつはアリスが可哀想とか考えてる訳じゃない。面倒くさがりなのだ、あいつは。
あとアリスが可愛いのも良くない。あいつは可愛い女の子にはひどいことをしない。エリザベスがいい例だ。そのエリザベスは女の子達に囲まれてるマリュンを自分の席から無表情で見つめている。
あいつが見かけだけで人を判断してるとは言わないけど、大きな割合を占めているのは事実だ。
だから女の子達、そんな無駄な努力はしない方がいいよ。
それだったらエイデンに吹き込んだ方がいい。エイデン馬鹿だし、簡単に信じるからね。それを防ぐためにいつもマークが隣にいるんだけど。
おっと、マークが手招きしてる。ちょっと行ってくるか。