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「主人公と会うのは学園に入ってからだから...あと九年くらいは平穏に過ごせるよ。学園に入学するのは十六歳の時だからね」
学園に入学するのは十六歳...やっぱオリヴィア姉さんと第一王子が入るとこなんだな。二人が入るのも十六歳って聞いたし、実際に二人が入るのは六年後くらいか?
「なあなあ、ケイン智秋」
「ちょっ...止めて笑う、ケイン智秋笑うわ...!てかあんたはマリアンナ潤になんじゃん」
「んー...じゃあ、ケイチー」
「んんっ?何で急にそうなった?」
「分かりゃいいんだよ、分かりゃ。俺のことは、そうだな...マリュンとでも呼べよ」
「だから何でそうなった!...まあいいや。マリュンって呼ぶわ」
どうだ俺のネーミングセンス、すごいだろう。
「それで?どうしたのマリュン?」
「あ、そうそう。お前が攻略対象ってのは分かった。けど、俺は何なんだ?モブキャラなのか?」
「あ...」
...どうした、ケイチー。何か気まずそうだな。
「えーとね...あんた、ライバルって分かる?」
「馬鹿野郎、そんくらい分かるぞ。あれだろ、何かにつけて勝負挑んで負ける奴だろ?」
「いやまあ、うん...あんたがそれ」
...ん?は、はい?
俺がライバル!?
「いやライバルというか...何というか...悪役令嬢ってやつだよ」
あくやくれいじょう...?あくやくって、悪役?
はあ!?俺が悪役!?ふざけんな何だそれ!!
「ゲームの中のあんた...マリアンナは、特別枠として入学した庶民の主人公が気にくわなかった。主人公は攻略対象のイケメン達と関わる機会も多いし、それも相まって...ね」
「何だ、俺何したんだよ」
「どのルート選んでも、主人公に悪質な嫌がらせをするんだよ。主人公の持ち物隠したり壊したり嫌味言ったりハブらせたり、主人公の根も葉もない噂流したり、主人公を階段から突き落としたり...」
「マジかよ俺最低だな」
「うん、だからプレイヤーにはマリアンナ嫌われてたんだよねー、見た目は結構可愛いんだけどさ」
「うえぇ...」
「それにマリアンナ性格悪くてさ。高飛車なのにイケメンに対しては猫かぶるし...。この前のパーティーでエイデンが言ってたでしょ?あんたを危ない人だって。私が忠告したんだよ、マリアンナはやばいかもって。まさか潤だとは思ってなかったからさ」
「俺は、最終的にどうなるんだ?」
「えっと、マリアンナは最後主人公に今までやってきた嫌がらせを皆の前でばらされて、怒った攻略対象達に学園から追放されて、ゲームから消える。その後は描写されてないけど、ファンの間では家没落して落ちぶれたことにしてる。報いを受けさせたかったんだろうね」
うわぁ...。没落って...。
...いや、でも。
「じゃあ俺は主人公に関わらなければいい話じゃねえか」
「そうだけど...主人公のハッピーエンドには悪役令嬢の存在必須だよ?」
いやいやいや。
「そんなん知らねえよ。何で俺が主人公の幸せのために没落しなきゃなんねぇんだ。主人公が恋愛したいってんなら勝手にやってりゃいいだろ。俺には関係ねえよ」
当たり前だろそんなん。他人の幸せより自分の幸せ!俺は他人には迷惑かけないようにするけど、感謝されるようなこともしない。俺が楽しければそれでいい。第二の人生、自分のため、もしくは身内のために生きていきます。
「...別にいいんじゃない。周りがそれを許すかは分かんないけどね」
何だよケイチーその呆れた顔は。
ケイチーはそのまま大きなため息を吐いた。
「...あんたはそれでいいかもしれないけど、私は攻略対象だからね、主人公には絶対関わるんだろうな...」
おう、大変そうだな...あ。
「...なあケイチー、お前は、平穏な学園生活を送りたいか」
「当たり前じゃん。そもそも私現実で恋愛とか無理、恥ずかしくて死ぬ...」
「ならば策を授けてやろう!そう、俺と婚約するのです!さすれば主人公はお前に手を出しにくいであろう!」
ほんっと俺冴えてんな!これで俺の婚約者問題も解決、ケイチーの悩みも解決、一石二鳥だぜ!
ケイチーはぽかんとした後、唐突に爆笑した。びっくりしたじゃねえか...。
「あはははははは!ちょっと、マジウケんだけど!あんたと婚約とか...!あはははは!」
そんなに笑うことか...?
「はー...お願いしていい?マリュン」
「おう、任せろ」
「...ありがとう」
ケイチーははにかんで言った後、キリッとした顔になった。
「マリアンナ・ルーシム様、私と婚約してください」
「ええ、ケイン・ウィリアクト様、引き受けますわ」
そうして、俺とケイチーは婚約することにした。
この時俺とケイチーは七歳であり、子どもが何勝手に話進めてんだと言われるだろうことに、後で気付いた。