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森崎智秋。
俺の、幼馴染み。家が近くて幼稚園から中学まで、同じだった。
あの時、智秋は、おそらく俺と同じく、トラックに轢かれて死んだと、そう思っていた。
もしかしたら、智秋も生まれ変わっているのかもしれないと考えたことだってあるけど、まさかこんな近くにいるとは...。
「えええええええ!??貴方...あなた...!?ええええ...!!」
「あっひゃひゃひゃひゃ!!あんた...あんたやっぱ潤だったんだ...!まさか潤がマリアンナになるなんて...!!」
叫ぶ俺と爆笑するケイン。
当然部屋の外で待機していた使用人が突入して来て、俺とケインは慌てて弁解する羽目になった。
「...はー、笑ったー...」
使用人に今のは本当に何でもないからと言い聞かせて、俺とケインは再び部屋で向き合っていた。
「改めまして...私はケイン・ウィリアクト。前世の名前は森崎智秋」
「ああ...私はマリアンナ・ルーシムと申します...。前世の名前は高山潤ですわ」
「ちょっ...止めてその口調、また笑うから...!」
「そう言われても...私の口調はこれがデフォなのです...(脳内のは普通に前世のままだけどさ...)」
「えー、でも中身があんたって知ったら違和感がすごいんだけど...」
「...分かった、頑張り...頑張るぜ...」
「うん、頑張れ」
この野郎...簡単に言ってくれるな...。
今まで俺はずっと外面はお嬢様で通してたんだよ!
「私はトラックに轢かれて目が覚めたら、ケインになってたんだけど、あんたはどう?」
「私...俺も同じだ」
「そっか。それで、あんたに重大な発表があるんだけど」
「重大な発表?何ですの...何だよ?」
くそこいつ笑ってやがるぞ...!
「ここは乙女ゲーの世界なんだよね」
...ん?何、どういうこと?
「前世であんた見たでしょ?『僕の恋を叶えて』っての」
「あ...ああ...?」
何だっけ...よく覚えてねぇな...。
「その世界なんだよ、ここは」
「...ここがゲームの中とでも?」
「いや、神のいない現実ではあると思うけど、設定が同じなんだよね」
成程分からん。あ、でもそれなら日本語が共通語になってるのは納得出来るな。
「で、私はその乙女ゲーの攻略対象のケインになったってこと」
「はあ...」
「あんたちょっとは不思議に思わなかったの?自分の周りにイケメンが多かったこと」
「ああ!」
そういやそうだ!ケインもそうだし第二王子エイデン、その右腕魔法使いマークもそうだな!
え、てことは...
「まさか庭師のイケメンも!?」
「誰それ、違うよ」
あっ...違うんですか...。
「そいつらが攻略対象って訳だよ」
「何人いるんだ?」
「六人。隠しキャラもいるらしいけど、私は知らない」
「多くねえ...?」
「そんなに多くもないでしょ」
そうなのか...でも自分の周りにイケメンが六、七人もいるって結構すごいと思うぞ。
「ゲームの舞台は学園。庶民な主人公はその頭の良さから身分の高い人達が通う学園に、特別枠として入学して、イケメン達を攻略することになる」
「へー...(その学園って、オリヴィア姉さんと第一王子が入るらしいとこかね)」
「攻略対象の奴らを言ってくよ。まず、王道の王子様、エイデン」
「王道...(あいつただの馬鹿じゃねぇのか...?)」
「ヤンデレ魔法使い、エイデンの腹心マーク。マークは元々庶民だから主人公とも気が合う」
「えっあいつヤンデレなのかよ!?」
意外だな。町で会った時はそんな風に見えなかったけど。
「まあそこらへんは後で説明するとして...。続き。女たらし寂しがりや、ケイン」
「おおう?女たらしで寂しがりやって何だよ?」
「私にも色々あるんだよ。続きね。年下癒し系、ノア」
「はあっ!?」
ノアだと!?俺の弟も攻略対象だと言うのか!?
「続き。堅物騎士団長の息子、ルイス」
あ、名前は聞いたことはあるな。
「ドS教師、アイザック」
うん、知らない。誰それ。つか教師って...。教師が生徒に手出していいのかよ...。
「以上六人が攻略対象。隠しキャラもいるけど知らない」
「何で知らねえの?」
「...隠しキャラを出すには六人全員を攻略しないと駄目なんだよ。私はアイザックを最後の方まで攻略してた時に死んだから。アイザック以外は終わってたのに...」
ああ...何か、すまん。
「六人を攻略したら逆ハールートが出るんだよね」
「逆ハー...?何だっけそれ」
「逆ハーレム。それ終わったら隠しキャラが出る」
成程、そういうことか。
へえええええ...俺達がいるこの世界が乙女ゲーとは...全く、面白いわー。
...あれ、そういや俺は何なんだろ?モブなのか?