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3話 真夜中

 夜中、どうにも眠れず、固い床から身を起こす。

 無防備極まりない二人の美少女――その寝顔をしばし堪能してから、のそのそと寝床を抜け出した俺は、アイラが発見したという隠し部屋に赴くことにした。


 この世界には魔法というものがある。

 魔法を利用した魔導科学という学問も近年発達してきたそうで、ライターのように火をつける魔道具を、二人は所有していた。それを拝借し、ランタンに光を灯す。

 二人を起こさぬよう、忍び足で寺院を闊歩した俺は、ほどなく隠し部屋に到着する。



「……どう見ても」



 コンピュータ……だよなぁ、これ。

 アイラがうっかり起動してしまったという装置。ディスプレイのような壁掛けの板と、キーボードのような手元の板。左右の円柱状の物体が、本体なのだろうか。

 あのお姫様が体重をかけたためか、起動スイッチと思われるレバーはぽっきりと折れてしまっている。


 地球でも、かつて現代より高度な文明があったという話はよく耳にする。が、それは想像の域を超えるものではない。

 一方――この世界では、古代文明が明確に現代以上の技術力を持っていたのだ。


 その繁栄は、この寺院の見た目が、正面性の薄いものである点からも見て取られる。

 読者諸兄は、パルテノン神殿をイメージできるだろうか。多くの人は、柱の立ち並んだあの建物を想起するだろうし、そうでない人も、検索すれば一発で「ああ、あの建物か」と納得するはずだ。だが――パルテノン神殿の『正面』を想像できる人間は少ない。

 なぜか。

 それは、小高い山の上に建つパルテノン神殿は、周囲のどの土地から見上げてもその威光を発揮できるよう、あえて正面も側面も背面も似通った外観にデザインされているためだ。


 この古代寺院も同様と思われるが――しかし。内部の構造は、ある明白な特徴を持っている。

 左右対称。

 そう、中心軸に対して、同様の配置で、部屋と部屋が連なっているのだ。



「となれば、だ」



 夜中の暗さというのは、妙に冴えた思考をもたらす。


 この隠し部屋とちょうど間反対の位置へ――工場のラインを流れる製品みたいな足取りで移動。体を動かしているのが自分の意思なのかどうか、判然としなかった。



「ここか」



 ぼんやりと口を動かす。

 辿り付いた部屋は、壁が崩壊しており、麓の村がわずかに見える。

 夜風の心地よさに打たれながら、俺はそっと壁に手を伸ばした。


 壁。煉瓦と同じように、角ばった石を組み合わせただけの簡素な壁。

 アイラはどうやって隠し部屋を見つけたのだろう。しばし考え込む。


 ランタンで壁を照らしてみるが、仕掛けの類は見当たらない。

 目では捉えられないものがあるやも、と思い立ち、指先で丹念に壁をなぞってみるも、まるで手がかりは発見できない。


 うーむ。きっとこの先にもう一つの隠し部屋があると思うのだが――と。

 腕を組んで考え込んでいると。


 不意に、甲高い女性の声が聞こえたような気がした。



「……?」



 悲鳴――だったような気がする。

 アイラやナーシアの声ではない。


 崩れた壁を乗り越え、草叢を少し歩くと、村が見下せる。

 夜露に濡れる足を引き摺り、目を凝らすと、何かの影が動いているのが見えた。


 手元のランタンはラ・トゥールのごとく。その温もりの反動のように、遠方で蠢く影は、未知なる恐怖をにわかに掻き立てる。


 一歩。また一歩。

 正体不明の悪寒に脚を叱咤され、近づいて行くと、何が起きているのか、おぼろげながら把握できた。


 影は数人の人間だった。

 いかつい男が数人、村からこそこそと抜け出し、周囲を伺いながら歩いている。

 人数は――三人だ。先頭を歩く男は小柄。続く二人は偉丈夫で。


 そして――そして。

 大男の片割れは、かよわい少女の腕を、強引に引っ張っていた。



「っ……」



 息を呑む。どう見たって、合意のもとに少女を連れ出しているとは思えない。誘拐だ。


 少女が弱弱しく抵抗の意思を見せると、男は彼女をぶん殴り、気絶させる。そして、俵でも抱えるようにして、肩に担ぎ上げると、平然とした態度で歩き出した。


 そんな光景を見て――冷静でいられるはずもなく。



「おい! そこのお前ら!」



 後先考えず、俺は草叢から飛び出していた。

 

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