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宮廷漫画家の王国再興-リナーシタ-  作者: 小松那智
第2章 大女優と脚本家
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29話 漫画計画、始動

 事件がひと段落してからの顛末を話そう。



「ふむ」



 紙束に目を通したアイラが唸る。



「良いできじゃな。これが、明日の新聞に載るわけじゃな」



 アイラの執務室には、

 いつも通りの、俺・ジル・ナーシアというメンバー。

 晴れて仲間に加わったメル。

 そして――ブロル商会首領・ダグラス。

 その上――新聞記者のブランドンまで揃っていた。


 なぜこのメンバーが揃っているか、というと。



「それにしても、大きな収穫じゃな。物語担当の作家。作画担当の画家。製品化担当の新聞屋。そして流通担当の商人。素晴らしい組み合わせじゃ」



 要は、そういうことである。


 エリクソン商会の準幹部クラスが、王立劇場の花形女優を誘拐した――そんなニュースを売ってみれば、至極あっさりと「漫画を載せてくれ」という交渉も成功した。

 印刷技術が未熟なこの世界で、いったいどうやって新聞を刷っているのか。その答えも同時に判明した。エリシアと同じ『複製』の魔法を遣える社員がいるのである。獣人の魔法よりはるかに精度は高く、複製可能な量も多ければ、時間経過で消えることもない。その魔法によって、1枚の原稿を数百枚に増やしているのだ。

 種が分かれば納得できる手口だった。


 そして、だ。

 温泉事業に本格的に乗り出したブロル商会に、俺はさらなる提案を持ちかけた。

 新聞というものは、社会情勢に興味を持つだけの余裕がある準富裕層以上しか購読していなかったのだが、これを、ブロル商会傘下の店に配り、一般人が目を通せるようにしようというわけだ。


 ただ、俺の提案を呑んだダグラスだが、未だに疑念は残っているようで、アイラを相手に問いかける。



「それにしても、姫さんよ。おれみたいな無法者を加えていいのかい? あんたの目的は、国の大掃除なんだろう?」

「うむ。じゃが、悪事をこの世から消し去ることは敵わん。善と悪をうまく秤にかけることのでき、それなりの力をもつ人物が、小悪党どもを統括した方が、結果的に治安はよくなると考えておるのじゃ」

「悪を消すのではなく、管理する、か」

「左様じゃ。悪というものにも種類があろう。必要悪もある。金を稼ぐための手段としての悪もある。わらわが消し去りたいのは、国家としての悪行――もとい、そこから生まれる理不尽な悲しみなのじゃよ」



 ダグラスは、少し驚いた表情を見せてから、自嘲気味に笑った。

 裏社会に通じる大商人でも、アイラの瞳に宿る輝きは、眩しく見えるらしい。



「して、レンよ。どれくらいの頻度で連載できる?」

「とりあえずは、10日に1話くらいを目途にしようと思ってる。余裕があれば増やすし、なければ減らす。ただ、10日ってのはあくまで目途で、8日だったり15日くらい空けたり、不定期な形式にするつもりだ。完全に定期的な掲載にすると、間が空いちまったときに読者が不満を持つからな」

「ふむ。妥当じゃの。あ、儂にも読ませるのじゃぞ。新聞屋、真っ先に王宮に届けるのじゃ」

「りょーかい」



 配達は俺の役割じゃないんだけどなぁ、とブランドンはぼやく。

 ただ、王宮の事情を探ってやろうと言う新聞記者としての野心も見え隠れしていた。

 それも、アイラの意図のうちなのだろうが。


 ともかく。

 こんなメンバーによる漫画計画が始動した。


 計画の目的はプロパガンダだ。が――直接アイラを讃えるような漫画を描いても、実績が伴っていなければ受け入れられまい。

 そこで、メルと俺は、まず社会に蔓延る問題を浮き彫りにすることで、世論を『改革』の方向へと誘導することを試みた。

 主人公はアイラをモデルとした架空の少女。普段は雑貨屋で働く、ごく普通の庶民という設定だ。

 しかし彼女は、夜な夜な街に蔓延る悪――これは、社会の問題を擬人化した怪人だ――に立ち向かう裏の姿をもつのだ。


 と――そんな物語のフォーマットは、日本にちょうどいいものが普遍化している。

 連載される漫画のタイトルはこうだった。



 「ふふ……『魔法少女アイリーン』、か。楽しみにしておるぞ、レン」




【第2章 了 ◆ 第3章に続く】

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