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宮廷漫画家の王国再興-リナーシタ-  作者: 小松那智
第2章 大女優と脚本家
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25話 獣人VSゴーレム遣い

 港町ノークは、貿易の中心地である。

 造船場や、大量の商材を保管する倉庫を多量に抱える都合上、総面積は王都よりも広い。


 メルとナーシアは、エリクソン商会の保有するある倉庫施設に目をつけて、現在は稼働していないはずのその建物に接近していた。

 ナーシアの嗅覚が、そこに数人の人間が蠢く気配を感知したのだ。



「っ!」

「メルティーナさん?」

「平気……ちょっと魔眼に負担がかかりすぎたわ」



 道中、不意に目頭を押さえたメルは、足を止めてその場にうずくまる。

 ナーシアが「では、私一人で行って参ります」と、再び駆け出そうとすると、メルは「僕も行く」と立ち上がった。



「……ですが」

「僕は……あの子を助けなきゃいけないのよ……あの子を、助けなきゃ」



 ふらつくメルの肩を支え、その場にすらわせたナーシアは、何らかの事情があることを察しつつも、あえて静謐な声で告げる。



「気合だけでなんとかなるものではありません。回復を待って、それから追いかけてきてください。でなければ、力づくでも休んでいただきます」

「……わかったわよ」



 木陰でメルを休ませたナーシアは、目標地点へと駆けた。


 メルの転移魔法は、移動先の状態を魔眼で精査することで、ようやく実用的なものとなる。王都から何百回という転移を繰り返すうちに、眼球に宿る魔力が枯渇してしまったのだろう。

 それがどの程度で回復するのかは、ナーシアにはわからない。

 ただ、メルの様子を見るに、十分な回復を待たずに突撃してくることは想像に難くなかった。


 早く、片付けてしまわなくては。

 倉庫に向かって駆けるナーシアであったが――その目の前に、突如、土の壁が現れる。



「っ……これは」



 土の壁……いや、違う。



「ゴーレム!」

「ご名答」



 眼前にそびえ立つ土の巨人。

 その肩に乗った男がニヤリと笑った。

 

 彼だけではない。ゴーレムの足元には、十数人の荒くれ者が武器を構えていた。



「……エリクソン商会に雇われた傭兵、といったところですか」

「いかにも。我らはモグラ団! 土魔法の遣い手で構成された精鋭よ!」

「…………だ、ださ」



 ださい、と言いかけて、慌てて口を押えるナーシア。

 ふざけた名前だが、油断できる相手ではなさそうだ。ゴーレムは、低級の術者が使役する人間サイズなら脅威でもないが、建物よりも巨大な規模となると、攻撃力、防御力ともに強大なものとなる。


 また、ゴーレムの肩にはもう一人男が乗っており、彼が魔方陣を展開すると、魔力でできた障壁が周囲に張り巡らされた。

 敵を回避して倉庫へ向かうことはできないようだ。



「……参ります」



 戦闘を余儀なくされ、まずは雑兵からだと気を引き締める。

 そう判断したナーシアは、わずかに腰を低く落とし、その反動で飛び出した。

 獣人としての身体能力だけでなく、身の動かし方の巧さがナーシアの武器だ。最適化された動作は、女性としては決して軽くないはずの肢体を、一瞬にしてトップスピードにまで押し上げる。


 その速度に反応できる人間は限られる。全人口の中で、反射能力に優れた、上位0.1パーセント……それが、ナーシアとまともに戦闘するための最低条件だ。


 3.7秒。

 雑兵が全滅するのに要した時間は、たったそれだけだった。



「……これは、ちょっとやべぇか」



 敵の首魁は、瞬く間に殲滅された部下を見て、ぎょっと目を見開く。


 だが、諦めの意思はないようだった。



「大人しく投降する気はありませんか」

「まさか」



 ゴーレムが腕を振り上げた。

 思っていたよりも、その動作はずっと軽やかだ。


 巨大な土の塊が、地面へと叩き付けられる光景は、圧巻の一言につきた。

 鋼鉄を容易く砕くであろうその一撃は、少し身を動かした程度で回避できるものではない。

 腕の直系だけで、馬車の横幅よりもずっと太いのだ。それに加えて、地面の崩壊が想定されるので、巻き込まれない距離まで跳躍しなければならない。


 しかし、大きく横に跳んだ瞬間、気づく。

 ゴーレムの肩に乗ったもう一人が、障壁を作り出しているために、十分な距離を取ることができないのだ。



(なら……っ!)



 着地と同時、もう一度跳ぶ。

 入れ代わるように、ゴーレムの巨腕が地面を穿った。


 地面にいては、巻き込まれてしまう。だから、振り下ろされたばかりの腕へと着地する。

 振動と土煙が世界を蹂躙する中、ナーシアは巨人の腕を駆け上る。

 もとより、ゴーレムを破壊することは、ナーシアの攻撃力では不可能だ。なら、術者を叩く。


 しかし。

 敵もそんなことは想定済みだった。



「!?」



 突如。

 巨人の肩のあたりで土煙が上がったかと思うと、ナイフで斬ったように綺麗な断面を残して、腕が本体がから分離する。

 落下する腕から咄嗟に跳んだナーシアだったが、どこに着地すべきかわからない。

 空中で隙を作ってしまった彼女に、ゴーレムのもう片側の腕が叩き付けられた。



「くっ……」



 体のひねりでうまく衝撃を逃がすが、それでも地面へぶつかることは避けられない。

 崩壊した大地に背から落ちたナーシアは、衝撃と苦痛に顔をしかめた。


 なんとか体勢を整えようとするが、ゴーレムの腕が立て続けに迫る。

 限定された領域では獣人の脚力を活かすこともできず、次第にナーシアは追い詰められていった。


 度重なる攻撃にバランスを崩し、瓦礫の上に倒れ込む。

 その瞬間、ゴーレムの肩の男が、勝利を確信した笑みを浮かべた。



「終わりだ」



 ゴーレムが脚を持ち上げた。

 ゆっくりと、その影がナーシアを覆う。

 踏みつぶそうとしているのだ。


 そして。



「待っ……」



 ナーシアが悲鳴を上げる声は、誰にも届くことはなかった。

 代わりに、ゴーレムの脚が地面に叩き付けられる轟音が響き渡る。


 数秒の沈黙。

 

 勝利に肩の力を抜いた2人の傭兵が、それぞれの魔法を解除する。

 ゴーレムが地面に沈み込むように消え、障壁もまた消えたときだった。



「あまり王女直属の護衛をなめないでくださいね」



 どこからともなく現れたナーシアが、二人の襟首を掴み、軽々と持ち上げる。



「なっ……貴様、どうして生きて……っ!?」

「あなたが地面を破壊してくれたからですよ。瓦礫の間にたくさん隙間がありましたから、踏みつぶされても軽傷で済みました」



 2人の頭をぶつけ合わせ、気絶させたナーシアは、その場に2人を放り出す。

 破れたメイド服の裾が地面を擦っていると気づいた彼女は、裾をビリビリと破り捨ててから、長く息を吐き出した。



「これは少し、並の相手じゃなさそうですねぇ」



 この強さの相手を雇えるだけの金銭的余裕があるというのは、恐ろしいことだ。

 自分の手元に護衛として置いているのは、より強い相手という可能性も高いだろう。


 できれば、自分以外の人々が怪我をする前に幕を引きたい。

 このまま先に進んでしまうと、倒した2人が気絶から醒め、逃げてしまうかもしれないが――優先すべきことを放り出すわけにはいかないだろう。


 ナーシアは、気を引き締め直すと、再び駆け出した。

 一人で戦うために。



 だが、その正義感が彼女の目を曇らせる。

 倉庫に辿り付いた彼女は、扉を開けた先を十分に確かめずに踏み込んでしまったのだ。



「っ!?」



 一歩、倉庫の床を踏んで。

 そこに魔方陣が広がっていることに気づく。



「ようこそお越しくださいました。ですが――」



 目の前に立つ男が、手首を反転させ、掌を天井に向ける。

 すると、ナーシアの体はふわりと浮き上がり、そして加速した。



「く……ぅっ!?」



 はじめはゆっくりと。

 そして次第に強く。

 ナーシアの体は天井に押し付けられ、圧迫されていく。


 呼吸も身動きも儘ならない。

 意識が朦朧としていく。

 


「――残念ながら、お通しすることはできないのです。獣人のお嬢さん」



 ナーシア・べスは。

 浮遊の魔法によって、容易く意識を失った。



 

新作を掲載開始しています。

もしよければご一読ください。

http://ncode.syosetu.com/n0988de/

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