表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宮廷漫画家の王国再興-リナーシタ-  作者: 小松那智
第2章 大女優と脚本家
28/34

24話 街道の戦い

しばらくして、ナーシアが連れてきた兵士たちに負傷者を任せた俺たちは、怪我が軽かったダグラスさんと話をした。



「エリクソンの野郎だ」



 低い声でダグラスさんは唸る。

 ニールス・エリクソン。エリクソン商会という、ブロル商会のライバル団体を取り仕切る男らしい。



「ちょっと前から、エリクソンの息がかかった奴がうちにいることだけは突き止めてたんだ。グレイがそうだったに違いない」

「根拠は……あるんですか?」

「ある。あの廃工場は、うちとエリクソンのところで取り合いをしてた経緯があるんだよ。決着がつく前に幽霊どもに乗っ取られて、両者ともやむなく手を引いたんだ。グレイの奴、俺たちが工場の再稼働に向けて準備を進めていた書類を丸ごと盗んでいきやがった。つまりは、エリクソンにまんまとしてやられたってことだ」



 そのエリクソン商会というのは、ブロル商会と違い、港町を拠点として交易を中心に活動しているらしい。

 俺とメル、そしてナーシアの3人は、短距離の転移魔法を繰り返しながら、港町ノークへと向かった。



「本当は、軍の到着を待つべきなのかもしれないけど……」

「まぁ、軍というのは行動が遅くなってしまいますからね。せめて、アイラ様が、すぐにやって来られる状況ならよかったのですが」



 転移を繰り返している――とは言ったが。

 メルの負担を軽減するため、同時に転移するのは俺だけで、ナーシアは走っている。それで遅れずついてくるのだから、彼女の走行能力は、単に獣人というだけの理由では説明のできない、ずば抜けたものであると言えよう。


 と――港町ノークの近くにやってきた俺たちは、思わず立ち止まることになった。



「止まりたまえ」



 そう言って、街道を塞ぐように立ち尽くしているのは。

 王立劇場で俺と交戦した、サラファンクラブとでも呼ぶべき団体の会長――ランド・デューラーだった。



「……ふん。エリクソン氏からサラ様の御身を狙う不埒な輩がいると聞いてみれば。まさか、また君とはな」

「…………あんたは騙されてるんだ。と言って、聞いてくれそうな雰囲気じゃないな」



 メルが目を細めて、転移しようとするが、ランドの鋭い剣技が俺とメルの間を狙うように放たれ、やむなく回避。メルの手が俺の肩から離れてしまう。



「……2人は先に行け。後から追いつく。こいつは、どうも俺だけは逃がしてくれなそうだ」

「承知しました」

「わかったわ」



 ナーシアは跳び、メルは転移する。

 それを追うこともなく、ランドは憎悪に満ちた視線を俺に向けていた。



「行くぞ!」

「一応言っておくが、俺はサラに危害を加えるつもりはないぞ、っていうかむしろ……うおっ!?」



 俺が無駄と知りつつ弁明を試みようとする間に、ランドは魔方陣を起動し、その魔方陣の魔力を剣に纏わせていた。

 叩き付けられたその剣をかわしながら、距離をとって体勢を整える。



「話を聞かない奴だな!」

「平民などに使う耳は持ち合わせていない!」



 おそらく、彼の魔法は、魔力そのものを武具に纏わせるというものだ。それを解放する際、エネルギーの奔流が溢れる現象を攻撃にも転用できる。

 前回は、魔力を解放した直後、再チャージするまでの隙を突くことで勝利できた。が、今回は、剣に魔力を纏わせたまま、それを解放する様子はない。


 剣技自体はそれほど卓越しているわけではないので、なんとか回避できるが、決定的な隙がないのは厄介だった。



「だったら――力づくで話を聞いてもらうぞ!」



 雷撃。

 だが、強化された剣は、雷撃を受けきってしまう。


 俺にとって、ほぼ唯一の、強力な攻撃手段。

 それが、まさか容易くガードされるとは。


 冷や汗を流しながら、俺は必死に距離をとる。



(ひとつの魔法に固執するのは危険だ――)



 雷撃の魔方陣を展開。そして複製。

 相手を取り囲むように雷撃の発射口を用意するも、いざ攻撃を放った瞬間には、ランドが剣を掲げており、避雷針の機能に導かれた雷撃はそこに寄り集まってしまった。

 そして、その雷撃は、強化された剣を撃ち破ることができない。



(エミリアの『複製』で、あいつの剣をコピー……いや、そもそも俺は剣術が遣えない)



 効かないと知りながら、絶え間なく雷撃を放つ。

 その間に後退することで、俺とランドの間には、次第に距離が開いていく。



(モニカの火焔魔法も、まともな攻撃手段にはなり得ない……)



 ならば。

 残るのは。



(ナーシアの『身体強化』だ!)



 ナーシアの魔法は、単体円の低級な魔法だ。しかし、俺には多重魔法がある。

 咄嗟に、俺はナーシアの魔方陣を重ね合わせ、身体強化を試みた。


 彼我の距離は、十分にある。それがなくなる限界まで、魔方陣を重ねていく。



「覚悟っ!」



 ランドが剣を振り上げた。

 ギリギリまで引きつけて、三重、四重、五重……そして。


 ランドが一閃すると同時。

 強化された体を躍動させ、突進。



「が、は……っ!?」



 ランドの体が吹っ飛び、地面を転がる。

 彼の手を離れた剣を拾い上げた俺は、それを敵の喉元に突き付けるようなことはせず、投げて返してヤッタ。



「な、何の真似だ……?」



 ふらふらと立ち上がるランドに、俺は有無を言わせない口調で告げた。



「俺はあんたと敵対するつもりはない。だから剣を返しただけだ。お願いだから話を聞いてくれ。サラの一大事なんだよ」



 少し、迷った様子を見せるランド。

 俺が真剣な声で「頼む」と目を見つめると、彼は魔法を消して、剣を鞘に戻した。



「……話してみたまえ」



 尊大な態度は気に食わないが。

 悪人でないことくらいはわかる。


 俺が事情を伝えると、彼はしばしの間、エリクソンと俺のどちらを信じるべきかと迷っているようだったが、「……拝金主義の商人よりは、薄汚くとも真摯な平民の方が信じられるか」と判断し、俺についてくることになった。


 鼻持ちならない奇妙な仲間を背負って。俺は魔法で強化された肉体の全力を使い、ノークへ至る街道を駆け抜けた。


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ