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宮廷漫画家の王国再興-リナーシタ-  作者: 小松那智
第2章 大女優と脚本家
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22話 魔眼遣いと多重魔法

 翌日、目が覚めると、俺の寝台の隣には椅子が置かれ、ジルが座っていた。


「あ。起きた」

「……おはよう。どうしたんだ、朝から」

「寝言でうなされてたから、心配で」


 おおぅ。

 俺はなんと素晴らしいメイドを雇ったのだろう。

 ちょっぴり頭を撫でてやると、ジルはくすぐったそうに目を細めた。


「大丈夫?」

「ああ。寝言は寝言さ。心配かけたな。もしかして、夜の間、ずっとここにいたのか?」

「うん」

「……まじか。じゃあ、朝食は自分で作るから、ジルはゆっくり寝ておけ。ご主人様命令だ」


 今度ご褒美をあげなきゃな。

 メイド服、スク水ときたから……次はナース服で行こうか。





   ◆



 


 デカい態度をとってはみたものの、どうしたものか。

 グレイから依頼された仕事をこなすため、王都近郊の森にやってきた俺は、腕を組んで唸っていた。



「ちょっと。隣でじめじめした顔しないでよ」



 ビジネスパートナーは、メルメル。

 彼女は、サラの背後にブロル商会がいるのを突き止めた張本人だが、俺と同様に法外な金額を吹っ掛けられたのだそうだ。

 そういうわけなら、その条件を緩和するための行動である今回の案件、彼女を巻き込むのは当然だった。

 サラの解放は、メルメルがアイラに服属する上での条件であるが、だからといってメルメル本人の力を借りてはならない決まりはない。

 王国がブロル商会の運営に介入してはならないので、獣人メイドの戦闘力は借りられないが。



「悪い。目の前のことに集中するよ、メルメル」

「その呼び方やめなさいよ」



 つっけんどんな彼女の態度にも慣れてきた。

 本当に怒っているわけではないとわかってしまえば可愛いものだ。


 そんなメルと仲良く口喧嘩しながらやってきたのは、森の奥の廃屋。

 通称ーー幽霊工場。



「ここね」



 かつては、下絵カルトンをもとにタピストリーを織り上げる、手工業の工場だったらしい。その文化が廃れてからは、工場ごと廃棄されたのだが、森をさまよう悪霊の住処となってしまったらしい。



「あちらさんは難題を吹っかけたつもりなんだろうけど、俺達なら瞬殺だ。幽霊にも魔法は効くんだろ?」

「ええ。ゴースト系の魔物は魔法が弱点ね」



 メルは工場の見取り図を広げ、方眼鏡モノクルを外す。

 すると、その瞳に赤い光が広がり、魔眼が起動された。

 同時に、俺もリベラリタスを取り出し、魔法の準備をする。



「この部屋からいくわよ。まずこの辺り、天井の近くに一体。暖炉の近くにも一体」

「了解」



 魔眼の能力で工場内を探り、幽霊の位置を特定。そこに雷撃を叩き込む。

 それだけ。

 我ながら非常に単純かつ有用な作戦だった。


 メルの魔眼がなければ成立しない手法。彼女の特異性は、並大抵ではない。


 とーー十数体を消滅させたとき、どうやらあちらさんも俺たちを発見したらしく、壁をすり抜けて突進してきた。

 黒い影のような、曖昧な人型の魔物。その数、約30。

 空中を滑るように近づいてくる幽霊たちを見ながら、メルは呟く



「全部出てきたみたいね。単純な連中」



 俺たちは接近戦にめっぽう弱い。大量の敵が向かってきている状況は好ましくない。

 そこで活躍するのが、メルの転移魔法だ。


 俺の肩に彼女が手を置いたかと思うと、足元に桃色の魔法陣が広がる。直後、ぐにゃりと視界が歪んだかと思うと、何の前触れもなく、俺たちは工場の屋根に立っていた。



「おー、すげー」

「感心してる暇はないわ。さっさと片付けて」

「おう」



 俺たちがテレポートしたことで、幽霊たちは目標を失い、その場で困惑したように動きを止める。


 意識を集中し、その上空に、雷撃の魔法陣を生成。加えて、複製の魔法を起動することで、空に大量の魔法陣が展開される。



「よっ、と」



 そして、指揮棒を振るように、リベラリタスを縦に一閃すると、雷鳴が轟いた。

 数十の雷の奔流が降り注ぎ、幽霊たちを蹂躙した。



「……終わった?」

「いえ、待って。あれは……」



 不思議なことが起きた。

 幽霊たちの不鮮明な体は、霧のように散ったかと思うと、一か所に集まって巨大な塊を形成していく。

 それは、奇妙に上半身ばかりが大きな巨人の形状となり、存在しない目で俺たちを睨みつけた。



「あれ、かなり強力な魔法じゃないと通じないわ!」



 メルが焦った声で叫ぶ。

 彼女の魔眼が読み取った敵のステータス的な情報は、雑魚幽霊のそれと異なっているらしい。アイラの体質と同様、魔法のダメージを軽減するのだろうか。

 雑魚が合体してボスモンスターになるというのは、定番っちゃ定番だが、現実的には厄介だな。



「……逃げる?」

「いや。ひとつ、試してみたいことがあったんだよな」



 アイラから聞いた話だ。

 この巨大ゴーストのように、危険度が高い魔物を討伐する際は、軍の中で同種の魔法を遣う兵士を集めるのだという。

 そして、彼らは魔法を『合体』させて、強力な攻撃を行うらしい。


 具体的な方法は聞いていないが、想像はできた。


 先ほどは、複製した魔法陣を大量に展開したがーー今回は、何十という魔法陣を、まったく同じ位置に展開していく。



「ちょ、ちょっと! 早くしなさいよ!」

「静かにしてくれ、集中したい」



 敵はこちらに迫ってきているが、スピードは遅い。

 大丈夫だ、間に合う。


 ひとつ、またひとつ、慎重に魔法陣を乗算する。重ねれば重ねるほど、頭の中がピリピリと焼き切れそうになってきた。

 それでも、なんとか目標数の魔法陣を重ね合わせて。



「喰らえ! 必殺!」



 理屈だけで、まだ試したことのない技法だったが、その効果は予想以上だった。


 音だけで鼓膜が消し飛ぶかと思うほどのエネルギー量。

 一瞬で吹き荒れた雷撃は、目を焦がしかねないほどで、巻き込んだ木々の一部をどろりと溶かしていた。


 無論ーー敵の巨大ゴーストは、影も形も残っていない。



「ふぅ。すっげぇ疲れるな、これ。1日1発が限界って感じか」



 くらりと目眩がした。

 疲弊が激しい。準備に多少の時間を要するのも欠点だ。

 倒れそうになる俺の隣で、メルは「な……何なのよ、今のは」と間抜け面を晒す。


 メルの仏頂面を崩したことに妙な感慨を覚えつつ、俺は王国軍で遣われるその技法の呼び名を答えた。



「同系統の魔法を重ね合わせて強力な一撃を放つ技術…多重魔法だよ」





   ◆





 一息つくのもそこそこにして、王都に戻り、『春風』で待ちあわせていたグレイに報告する。



「これまで、多くの人員を送り込み、失敗を繰り返していたのですが。これほど容易く成し遂げられるとは」



 聞けば、商会がタピストリーの再興に手を出すつもりのようで、あの工場の設備を求めていたらしい。

 つまり、この仕事をこなすことで、グレイが味方としてダグラス・ブロルに口添えしてくれるというよりは、単純に利益として提供できるということなのだろう。

 工場を手にすることで生み出せる金を考えれば、ある程度、サラを解放するための金額を緩和させられるはずだった。



「上に話は通しておきますよ。明日の朝、ブロル商会に来てください」



 どうやら、交渉はある程度有利に進められそうだ。

 すべてがうまく行っている、というほどでもないが、少しだけ安堵して、俺は家に帰るのだった。


 ーーそこに、密かな悪意が渦巻いているとは知らずに。


勝手ながら、更新は隔日ということにさせていただきます。

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