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バレンタイン短編

本編を読んでからどうぞ。

お遊びの殴り書き短編なので、パラレルワールド的なアレです。

 チョコレートというものはこっちの世界にないらしい。

 くそったれ――とは思ってみたものの、考えてみればチョコレートを貰うことが重要なのではなく、女の子と接する機会であることが重要なのである。

 ときメモの世界では数々の美少女からチョコを手渡されてきた俺だ。やってやれないことはない……ということで、とりあえずチョコでなくてもいいので、てきとーに料理をせがんでみることにした。


 以下に記すのは、或る一日を生き抜いた、俺という戦士の記録である。




【ジルの場合】



「そうだ、それでいい。力を入れすぎるなよ」

「う、うん……なんだか緊張する」



 昼下がりの我が家。

 ジルと俺は、薄暗い一室で身を寄せ合う。



「意外と、固い……力を入れるなと言われても、加減がわからない」

「大丈夫だ。直線的に動かすんじゃなくて、ちょっと奥に動かす感じ。わかるか?」

「うーん……」

「あんまり顔は近づけない方がいいぞ。白いのが飛び出るからな」



 慣れない作業に、ジルは頬を上気させている。

 俺も、彼女が緊張して周囲に注意を払えないのをいいことに髪のにおいをかぎまくっているうちに、変な気分になってきてしまった。


 と。

 そのとき。



「あっ」



 どぴゅっ。

 真っ白でどろどろの液体が飛び出した。

 ――ジルの切った果実から。



「うー……よごれた」

「あーあー。ちょっと難しかったか」

「もっと簡単な食材がよかった」

「仕方ないんだ。こいつじゃないとダメだった」



 日本の暦に従うならば、今日はバレンタインデーのはずである。

 そこで、俺が王都中の食材屋を巡って探し当てた、味がチョコに近い果実を調理させているわけである。

 調理スキルを持ち合わせていない彼女なので、結局、二人で台所に立っているのだが。



「あー、もう。指まで切れてるじゃないか」

「うー」

「ちゃんと猫みたいに左手を丸めるんだ」

「にゃー……」

「いや鳴き声はいらん」



 可愛いけどさ。



「ご主人、ごめん」

「……いや、いいよ。ジルなりに頑張ってくれたんだもんな。また今度いっしょに料理しようぜ」



 応急処置をしよう、と手を引いてみるが、失敗がよほど恥ずかしかったのか、しゅーんと落ち込み、「自分でやる」と引っ込んでしまった。

 恥ずかしがり屋さんめ。


 もらえなかったが、まぁ仕方がない。

 気持ちは十分にもらった気がするので、ジルに関してはコンプリートしたことにする。




【モニカの場合】


「はい、言ってたものにはなるべく近づけてみたつもりだけどー」

「うん、うまい。普通に」

「普通にって何さー」



 のほほーんと手渡されたお菓子をむしゃむしゃと食べる。

 が、期待値以上ということもなければ期待値以下ということもない。

 ネタ的な意味の取れ高がないあたり、ある意味ジル以下なのかもしれない。



「……もうちょっとオイシイ感じならなぁ」

「え? だめだった?」

「いや、そういう意味のオイシイじゃない」



 うーむ。

 味は普通によかった。それはいい。

 ただ、チョコに近い味とはいえ、食感はまるで違う。


 やはり、本物のチョコレートを食べねば、バレンタインは始まるまい。


 とりあえず、モニカ・フルヴィッツ……コンプリート。




【ナーシアの場合】



「トリックオアトリート!」

「はい?」

「間違えた、チョコを寄越せ」

「……あの、レン様?」



 旅をしている最中のアイラ&ナーシアのところへ押しかけると、ナーシアが宿屋のベッドでごろごろとくつろいでいるところだった。

 バレンタインなのだ、時空を捻じ曲げて王都からワープするくらい容易い。



「さぁ! 今すぐにチョコを渡すんだ!」



 アルディラ大陸にやってきてから、なまじ女の子に囲まれているので、生まれてから一度も女子にモテたことのない心の闇が、俺の思考を捻じ曲げていたことは間違いないだろう。

 鼻息荒く迫る俺に、ナーシアは獣耳をぴくぴくさせながら、声を上ずらせた。



「レン様? 落ち着いてください! チョコとは何なのでしょう?」

「茶色いアレだよ! わかるだろ? 食べると美味しいあのアレだ!」



 俺の言葉に、ナーシアは「なるほど」と頷くが、なぜか顔を赤らめる。



「それは承知しましたが……あの、本当に、そんなものがほしいのですか?」

「ああ。市販のじゃだめだ、手作りのを頼む! ナーシアの手作りが欲しいんだ」

「手作り……うーん、こういうのも手作りというのでしょうか……というか市販品ってあるのでしょうか……」

「何をぶつぶつ言ってるんだ。渡すか、渡さないか……どっちかだ!」

「う……わ、わかりました! そこまでレン様が情熱的に私をお求めになるなら、その熱意に応えて見せましょう! 大丈夫です、私、特殊な性癖には理解がある方です!」

「えっ」



 嫌な予感がした。

 と思った瞬間。

 ベッドから立ち上がったナーシアが、裾をシュバッとたくし上げ、はいていた下着を神速でずり下す。



「では、失礼いたします!」

「あ、いや、ちょっと待っ……」



 獣人の身体能力を相手に逆らえるはずもなく。

 あっという間に組み伏せられた俺の眼前に、ロングスカートの裾が近づいてきた。

 あと数センチで、スカートの内側が見えてしまう。


 茶色いアレとか表現してしまったことを、激しく後悔。


 救いの女神か――あるいは滅びの破壊神か。

 すんでのところで扉が開き、よく見知った顔が現れた。



「な……何をしておるお主ら」



 アイラだった。



「あっ」

「げっ」



 顔を見合わせる俺とナーシア。


 そして。



「……用事を思い出しました! 失礼します!」



 驚異的な敏捷性で窓から飛び出していったナーシアに文句を言う暇もなく。

 アイラの怒りに満ちた魔力が、部屋中の空間を震わせる。


 ゴゴゴゴゴ、と彼女の背後に文字が見えた気がした。

 雷電がアイラの体の周囲で弾け、ドアや壁に火が付く。



「ちょ……アイラさん? 本編で未登場の魔法とか使うのはずるくない!?」

「問答無用!」



 そして――ギャグ時空でしか許されない規模の雷撃が、俺を襲った。




【アイラの場合】




 声が聞こえた。



「レンの様子はどうじゃ?」

「死んでる」

「そうか。さすがにやりすぎたかの」

「ギャグ時空だから問題ない」

「そうじゃの。ジルよ、そのうち目が覚めるはずじゃから、これを渡しておいてくれ」

「これは……ちょこれえと?」

「うむ」

「この世界にはないはずなのに。どうやって」

「なに、バレンタインパワーと王族特権を駆使すれば、世界を超える程度は造作もない」



 なにぶん死の縁にいるもので、話している内容はよくわからなかったが、何やら良いことが起きたことだけはわかった。






 それからしばらくして、俺は自宅の寝室で目覚めた。

 枕元には、小さな包みがある。

 アイラより、と何故か日本語で書かれたカードが添えられているので、期待しながら包み紙を破る。


 中から現れたのはチョコレート。

 チョコレート……なのだが。



「ブラックサンダーか……」



 なぜブラックサンダー。

 雷の魔法を使うからか?


 釈然としない思いの中、もそもそと食うブラックサンダーは、悔しいけど美味かった。


 来年のバレンタインは……もうちょっといい感じの一日になるといいなぁ。

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