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宮廷漫画家の王国再興-リナーシタ-  作者: 小松那智
第2章 大女優と脚本家
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15話 諍い

「き……貴様ぁぁあっ! サラ様に何をしているっ!」

「いや、誤解……うおおっ!?」



 ランド・デューラーが問答無用で腰の剣を抜き放ち、俺に斬りかかる。

 咄嗟に床を転がり、なんとか回避して起き上がる。

 冷や汗をかきながら「危ねぇな、何しやがる!」と怒鳴り付ける。



「ふん。薄汚い庶民め。狼藉をはたらいておきながらその態度か。サラ様、お怪我は」

「ないですけど……あの、勘違いっていうか。たまたまですよ?」



 先ほどの発言から察するに、こいつ、ファンクラブの会長的な立場なのか。

 だが、当のサラが場を収めようとしているのだ。無用な争いに発展するおそれはないはず――



「転んだところまでは、なるほど事故なのかもしれません。ですが、この男、お胸を揉みしだいていたではありませんか」

「……」

「……」



 ド正論だった。



「それに、このような男が魔法錠の開け方を知る立場とは思えません。何らかの邪な手段で立ち入ったに違いない」



 まったくもってその通りであった。



「……覚悟はいいか、狼藉者」

「いや、ちが、話を聞いてく――」



 サラは俺の味方だ。まだ、舌先三寸・口八丁で場をひっくり返すことは可能……と思ったところで、ランドは魔方陣を展開した。

 剣の切先に生まれた真っ赤な魔方陣は、根本まで移動していく。魔方陣を通過した刃は、赤熱し、莫大な熱量を纏った。



「問答無用!」



 刺突。


 同時に。



「うおおおおおおぁあああああっ!?」



 赤き閃光が迸った。

 熱と風、衝撃波――凄絶なまでのエネルギーが吹き抜け、

 

 かわすことができたのは、偶然に依るところが大きい。

 魔方陣の魔力を剣に纏わせるその過程がなければ、確実に死んでいた。


 壁はぶっ壊れ、瓦礫が外の通りへガラガラと落ちていく。


 ランドの展開した魔方陣は、一瞬見ただけだが、二重の円になっていた。

 単体の円ならまだしも、高位の魔法を扱うことのできる二重円の魔法遣いを相手に、この狭い空間で、説得を試みることなどできない。そんなことをしていれば、攻撃に巻き込まれて死んでしまう。


 ランドが次の一撃をチャージし始めたとき、話し合いの余地はないと判断した俺は、やむなく反撃の道を選んだ。



「くそっ!」



 リベラリタスを握り、アイラの雷撃魔法を、小規模に展開。

 相手がチャージを終えるよりも、魔法の出は早い。


 一瞬、室内をカッと照らして、雷撃はランドの額を捉えた。

 死ぬような威力ではないが、一瞬で昏倒し、彼の魔法は途中で解除される。


 安堵のため息をつく俺だが、まだ状況は終息していなかった。



「さっきの音は何だ!」

「こっちから聞こえたぞ!」



 ランドの魔法が壁を破壊した音で、人を呼び集めてしまったようだった。



「……仕方ない。サラ」

「う、うん」

「この人も正義感からの行動だった。悪者にするわけにもいかない。押し入った不審者が逃げたってことにしてくれ」

「わ、わかった!」



 ってことにしてくれ……っていうか、実際、そうなのだが。


 俺は、壁際から外を見下すと、下に茂みがあることを確認し、意を決して飛び降りた。

 目を閉じ、ほんの一瞬、風を体に感じる。


 そして、全身に訪れる痛み。

 まず、衝撃。

 それから、枝葉で切れた皮膚が悲鳴を上げた。



「っ……」



 よろよろと茂みから這い出る俺の耳朶に、「あっちから音がしたぞ!」という声が届く。続き、ガチャガチャという鎧の音。

 戦って勝てないことはないと思うが……戦うという選択肢自体が得策とは思えない。

 だが、あまりにも土地勘がなさすぎて、逃げられる自信もない。


 さて――どうしたものか。

 念のため、リベラリタスを握り、こそこそと物陰を探す。


 その途中で。



「こっちよ」



 ふと、夜風をすぅっと裂くような、涼やかで鋭い声音が聞こえた。


 暗くてよく見えないが、女性だろうか……とにかく、正体不明の影がそこにあった。



「何してんの。早く逃げないとまずいんでしょ?」



 踵を返し、駆け出す女性。

 鼓膜を包み込むようなアルトは、不思議と俺に安心感を与えるものだった。


 なぜだか、信頼できるという確信があった。


 彼女に追従して走り、路地裏へ。

 右に曲がり、左に曲がり、誰もいない廃業した酒場を横切って。

 この王都に、こんな場所があったのかと驚いてしまうような、穏やかな月光が降る広場に辿り付いた。


 そこでようやく足を止め、振り返る少女。

 その顔を見て、俺はあっと驚き、声を漏らした。


 片眼鏡《モノクル》をかけたその独特の容姿を、見紛うはずもない。



「君は……」



 サラと出会ったあの日。

 一人の少女が、その快活すぎる大声に耐えかねて、『春風』から出て行った。


 そう――そこにいたのは、『春風』の常連客である、読書好きの少女だった。


 

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