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訪問者。

やあやあ、初めまして。

君の事はよぉく知っているよ。


何々、えーと。

あ、ちょっと待って。ちゃんと調査資料用意するから。

知っているたって、僕は君じゃぁないから間違った解釈をしているかもしれない。

そんなの困るでしょう?

だから資料を見ながらお話するね。

え?まぁまぁ。そんな怖い顔しないでよ。

そう、お友達の皆さんも落ち着いて。お茶でも飲んでてくださいよ。

こらこら、足を振り上げたりするなんてお行儀が悪いですね。

僕はねぇ、育ちが良いものだから。そういう無礼な人間には容赦しないことにしてるんですよ。

いや、そう言ってもね。いわゆる箱入り息子ってやつでしょう。

この拳はね、自慢じゃないけれど誰かを殴ったりしたことはないんですよ。

その代わり、僕の後ろで待機している彼らが鉄拳制裁を加えてきたわけだけれど。

え?卑怯だって?

何言っているのさ。馬鹿じゃないの。

使えるものは使う。それがお金持ちというやつなのさ。

そこに躊躇いを覚える必要はないんですよ。迷いを見せたその一瞬に生じた隙に、何が起こるかなんて誰にも予想できないでしょう。

大切なものを守るために手段を選ばないのは誰だって同じだとは思うけれど。

僕はたまたまお金を持っていて、そのお金に雇われている人間がいて、その彼らが僕の代わりに働いてくれているだけ。ただそれだけさ。

もしもお金がなかったら?

それこそ愚問ですよ。

だって、今の僕にはお金があるわけですし、無くなるかもしれないという心配さえする必要がない。


ということでねぇ、話が少しずれてしまいましたけれど。

僕はお金持ちで、有り余っているくらいなんですけれどね。

誰かを余裕で養うことができるわけです。


いやいや、君たちのお話ではないですよ。

たとえ土下座されたって君たちを使おうなんて気にはならないなぁ。

ははは、怒らないでくださいよ。本当に短気だなぁ。

いや、クソ餓鬼ってだけかな?

短慮で馬鹿で阿呆で世間知らずの厄介者、他にも表現する言葉はありそうだけれど。

とにかく、君たちは誰かに使われる価値もないってことですよ。


ああ、また話がずれちゃいましたね。

ということでとりあえず。


君、きみきみ。そう。銀色の髪の君ですよ。

それって地毛?随分きれいに染まってますね。

えぇっとどれどれ。こういうときこそ資料を拝見……

あぁ、君、外国人の血が混じってるんですね。元々色素が薄いから、色も入りやすいのかな?

ちなみに僕の髪も地毛なんですけどね。

栗色ってやつ。子供のときはよくからかわれたものですよ。

君もそのクチなんですかねぇ。そんなにひん曲がっちゃって。


あ、でも、幼い頃はうまくやっていたようじゃないですか。

誰からも愛される天使のような子だって。ご両親はさぞ自慢に思っていたでしょう。

妹にも優しくしていたんだね。素晴らしいよ。

だって、血が繋がっていないんでしょう?

初めから知っていたんだって?それなのに、ねぇ。

君が欲しくて欲しくてたまらなかった血の絆ってやつを生まれながらに持っている彼女に嫉妬することもなく、際限なく愛情を与えるなんてねぇ。

ご近所でも評判だったんでしょう、仲が良いって。

今だってそうでしょう?

ご近所の、君たちに対する評価は変わっていませんでしたよ。

相変わらず仲の良いご兄妹で羨ましいわぁなんて、えぇっと誰でしたっけ。山田さん?が言ってましたよ。


実にうまくやっていたようですね。

本当に素晴らしい。


君は、俳優にでもなったほうが良いんじゃないですか。


外では愛想を振りまいて、妹に優しくする出来の良いお兄さんを演じてね。

なかなか出来ることではありませんよ。

いや、その容貌は……優等生とは言えませんけれどね。

しかし何分なにぶん、通っている学校が全国でも有数の進学校じゃありませんか。

そういう学校は割りと校則が自由ですもんねぇ。ええ、僕にも覚えがありますよ。

……君はそれで、生徒会長なんてものを務めているんですね。

本当によくやることです。関心しますよ。


いくら、自宅で妹をいじめていたって誰も気づかないはず。


あ、違いますね。その、君の周りであぐらを掻いているご友人たちは知っていたんでしょう?

知っていて見て見ぬフリをしていたんですもんねぇ。

随分ご立派な友人だ。

僕の知っている「友人」とは少し違うようですけれど。まぁそれも友情の形であれば仕方ありません。

本人たちがそれを友情と認識しているのであれば他の人間が何を言ったって聞き入れてはくれないでしょうからね。

まぁ、訂正する必要もないでしょうけど。

だって、僕と君たちは赤の他人。アドバイスなんて必要ないでしょうしねぇ。


え?意味不明だって?

ダメダメ、そんな安易に回答を求めるなんて。

ちゃんと自分で考えなきゃ駄目ですよ。


―――――あ、やっと全員揃いましたね。

ああ、怯えなくても大丈夫ですよ。

何も危害を加えようってわけではないんですから。

ほらほら突っ立ってないで、彼の隣に座って座って。

この話の中心は、君、そう銀髪の君と、彼女。そう、貴女……大丈夫ですか?頬が赤いようですが。

風邪でも引いたんでしょうかね。お大事になさってくださいね。若いとは言え油断は禁物ですよ。


ではでは。本題に入りましょうか。


……おい、あれ出せ。


まぁまぁ落ち着いて。これでも見て気分を沈めてくださいな。

これ?ああ、いわゆる記録映像ってやつですかねぇ。

最近は便利になりましたよね。ノートパソコンも軽い軽い。薄いしサイズもちょうど良い。

持ち運びに便利ですね。

タブレットでも良いんじゃないかって僕は言ったんですけど。

まぁ、どうせ持つのは僕じゃぁありませんからね。どちらでも良いと言えばどちらでも良い……


音量は最大にしとけよ。


あ、すいませんね。うちの部下が。何せ戦闘部員なもので。こういう機器の扱いに長けていないんですよ。

全員が同じ動画を見れるように、念のためパソコンは3台用意してありますけど。

他の皆さんもどうですか?

え?興味ない?まぁまぁそう言わずに。

ながら見で構わないですよ。スマホをいじりながらでも。おしゃべりしながらでも構いませんよ。

そう緊張することでもないですしね。

ああ、だけど君…そう銀髪の君と貴女はしっかりと見てくださいね。あ、後、後ろにいる金髪の彼、そうそう君。君もね。決して部外者ではないのだから。


じゃぁ、再生するね。ポチッとね。



*

*


ふふ、やだなぁ。そんな怖い顔しないでよ。

だってこれは僕がやったことじゃないんだから。

ああ、ほら。よく見てみて。金髪の彼は心当たりがあるようだから。

……おや、どうしたの?そんなに青冷めて。


ああ、そっか。ここまでとは思わなかった?

そうだろうね。その気持ちはよく分かるよ。

相手もどうせ同世代。できることなんてたかがしれてるって思ったんでしょう?

まさか中学生の女の子をリンチするなんて、そんなことが起こるはずはないって高をくくってたんだよね。

分かる分かる。

自分ができないことを他人がするはずないって思うのは間違いではないよ。

君はやんちゃなフリをしているけれど常識人だものね。

間違っても女の子に手を上げるなんて…しないよね?

だけどさ、それって、全ての人間に言えることじゃないよ。

相手が子供でも女の子でも、赤ん坊だったとしててを上げる人間はいるものなんだよ。

そういうの、鬼畜って言うのかなぁ。

まぁ、呼び名なんてどうでも良いよね。

見て見ぬフリをして、あの子を地獄に堕とした君のことを他人が何て呼ぶのかは興味あるけどね。

金色の髪に、カラコンかな?蒼い目をして。外見はまるで天使だっていうのにねぇ。

本当に残念だよ。


え?意味が分からない?

違うでしょ?本当は分かっているけど気づきたくないだけでしょう?


あの日に起こったことを整理するならば、本当はとても簡単なことだよ。

わざわざ紙に書いて説明することもないくらい。

君たちと敵対しているチームがあるでしょう?

チーム……っていう呼び方で良いのかな?何だか陳腐な感じがするけど仕方ないよね。実際陳腐なんだし。

いやいや、君たちを否定しているわけではないよ。

誰だって通る道かもしれないしね。まぁ僕は通らなかったけど。

とにかくさ、相手方にどうしようもない人間が居て、このチーム?のヘッド?…ぷぷっ、ああごめんごめん。えぇと…ヘッドの、そう君ね。銀髪の君の大切な人間を人質にして大規模な喧嘩?抗争?よく分からないけど、そういうのを狙ってたみたいだね。

もちろん相手は勝つ気満々さ。

ところがねぇ、誤算だったのは人質にしたはずの女の子にそれほどの価値がなかったってこと。


え?どうしたの、そんなに激高しちゃって。

だって真実でしょう?


えぇと、おい、あれどこやった?


あ、そうそう。これこれ。

これは君の携帯の着信履歴ね。僕たち、公的機関じゃないからさ。これを入手するのにも案外手間がかかったんだよね。でも、ま、そこはお金にモノを言わせたわけだけど。

見てよココ。この日付と着信番号。

君の妹の携帯から着信入ってるでしょう?ほら、何回も。

え?知らない?おかしいなぁ。だって、不在着信にはなってないじゃない。

ちゃぁんと毎回お話しているはずだけど。通話時間もちゃんと記載されているでしょ?

本当に?知らない?

ああそう。だったら、答えは出ているんじゃないかなぁ。

君の携帯を、他の誰かが使ったってことだよね。

君の携帯にかかってきた電話を、君じゃない人間が出たってことじゃないかなぁ。

……あれ?どうしたの。金髪の…えぇと名前は何て言うのかな。

あ、いや、いいよ名乗らなくて。どうせ覚えていられないし。

本当にどうしたの?唇が真っ青だよ。貧血かな。椅子に座ったほうが良いんじゃない?

もっとも、君の座るスペースなんてないんだけどね。

ほらほら銀髪の君もそんなに怖い顔しないで。

顔立ちは悪くない……というより、客観的に見て美形だよねぇ。

だからかな。男も女もろくでもないのが集まっちゃって。

いや、違うか。顔は関係ないよね。

本来、美しい花に集まるのは、同じく美しい昆虫だけのはずだものね。

間違っても蛾とかハエがたかったりすることはないよね。

人間、本質が大事ってことだよね。


あ?何だよ、今大事な話をしてるところだろうが。

話が逸れてる?……確かにそうだな。


つまり…そうそう、あの日、あの子は君たちと敵対しているチームに浚われてしまったわけだけど。

相手方は律儀にも君たち、いや、君だよ君。銀髪の君に連絡を入れたわけさ。

君の大事な人を預かっているってね。

ところがねぇ、君は…いや、君じゃなかったのかもしれないけれど、とにかく、こう言ったわけだ。

大事な人間なら、今、ココにいる。

だから、お前らの所に居るわけがないってね。

で、相手の言い分も碌に聞かなかったんでしょ。

そのあたりは僕の優秀な情報部隊が調べたことだから間違いないとは思うけど、何せ当事者ではないからね、いくつかの齟齬はあるかもしれませんねぇ。


それから何が起こったのかなんて想像するのは簡単だよね。

だって、さっき、その証拠を目の当たりにしたんだから。


あれ、君、本当に大丈夫?金髪の…そう、君。顔、真っ白だよ。

椅子……はないから、床に膝でも付いて自分のやったことを悔いていれば良いよ。

君が何をしたかったのかなんて僕には分からないけどねぇ。

どうやら心当たりがあるようだから、後で話し合いでもすれば良い。

まぁ、銀髪の彼が話しを聞くかどうかは分からないけれどねぇ。

ここまでお膳立てしたんだから、自分たちのことは自分たちで解決しなさいよ。


あ、そうそう。忘れてた、忘れてた。

そこの彼女。そう、君だよ。

君は……このチームのお姫様なんだって?

季節外れの転校生。…いや、転入生?まぁ細かいニュアンスはどうでも良いとして。

君がこのチームの皆に大事にされて守られて可愛がられて愛されているってことは周知の事実だったわけ。

顔こそ認識されていなかったみたいだけれど、そういう女の子がいるっていう噂は流れていたみたいだよ。

だって人の口に戸は立てられないからね。

このチームの中に、そういうことを吹聴して回る人間がいたっておかしくないよね。

それで、今回の話にどう関わってくるかというとさ。


君の妹を浚った男が何て言っていると思う?

もうここまでくると予想できているかもしれないけど。


そう、彼はさ、このチームの『お姫様』を浚ったつもりだったんだよ。

つまり、あの子は人違いで浚われたってわけ。

何がどうなって、そうなったかは僕にも分からないけれどねぇ。

あの子はここにも顔を出したことがあるのかな?ん?ない…?

それは可笑しいなぁ。じゃぁどうして勘違いされたのかな。

ああ、そうか。それなら誰かがそういう風に仕向けたってことも考えられるよねぇ。

例えば、ここに入り浸っているらしい女の子は、どうやら幹部の誰かの妹らしいって、そんな風に周囲に漏らしてみたらどうだろう。

幹部の内、本当に妹がいるのは何人かな?

その中で髪型や体格が、彼女に似ているのは?

もしかしたら家が近所だったのかもしれないねぇ。


相手方の調査が杜撰だったのは否めないけれど。

それにしても、不思議なことだ。

誰かにとっては予想外の出来事だったけれど、誰かにとっては想定内のことだったかもしれないね。

まぁ、今更何を言っても無駄だって感じだけれどねぇ。


……え?

今、あの子はどこに居るのかって?

はは、可笑しなことを聞くものだね。それこそ今更じゃない?

君はさぁ。一体、今まで、何をしていたのさ。

自宅にだって帰っていたんだろう?

妹は毎日夕飯を用意して待っていたじゃないか。

その夕飯が用意されなくなったのはいつからだった?

学校から家に連絡が入っていたんじゃないの?妹さん登校していないけれど体調不良ですか?って担任から。

……知らない?ああ、そう知らなかったなら仕方ないよね。

妹の姿が見えないっていうのに捜さないのも有り得るね。

ああ、違うか。君はさ、妹が大変な目にあっているっていうのに、それに気づきもしなかったんだよね。

だからこんな場所で、こんな退屈で、こんなクソみたいな連中とお遊戯会みたいなことをやっているんだもんねぇ。


あ?言葉遣い?……ああ、そうだったそうだった。今目の前に居るのがお坊ちゃんだってことを忘れてたよ。


まぁまぁそう興奮しないで。

だって、君の妹は今、世界で一番安全なところに居るんだから。

君は心配することなんてないよ。


もう、二度と会うことはないだろうし。


え?だからさ、僕は最初に言ったでしょ。

人間一人養うくらいわけもないって。

それがどういうことか君には分からないかもしれないけれど。

だって君だってまだ、誰かの保護下に居るただのクソ餓鬼だもんね。

おっといけない。クソだなんて。


良かったじゃない。

だって、君、妹なんていらないって言ってたもんね。


何で知ってるかって?

だって、君、皆の前でそう言ったんでしょ?

だからさ、金髪の彼だって、浚われたのが君の妹だって知ってたのに知らぬ存ぜぬを通したんだよ。

どうせ不要の存在なんだからって。


……おいおい、さすがに僕の目の前で暴力行為はいただけないなぁ。


え?ああ、何だそんなこと?

ご両親は僕の話を理解してくださったよ。

良かったじゃない。これでご両親の愛は君のもの。

君は念願の一人っ子ってわけ。


良かった良かった。

始まりはなんであれ、君にとってはハッピーエンドじゃないの。


望む通りの結末を手に入れて、これがバッドエンドなんて笑わせないでよね。










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