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その目に映るのは  作者: 千代
9/20

正体

『ようこそ。』


主から渡された本を視線を落とす。

淡い紫色をした表紙には「正体」と書かれていた。

さぁ、今日も読み始めるとしよう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私はある組織に所属している。いや、組織に拾われ育てられ、その恩を返すために働いている。


でも、私はその組織の人を誰一人知らないの。私たちの組織はお互いのことを知らないために余計な感情を捨てるために、仮面と偽名を使っている。


狐という生き物をモデルにした仮面らしい。


「おい、間抜けな顔してんぞ。

さっさと行くぞ、シュウ」


私を呼ぶ声。

『シュウ』

それが私がもらった名前。本当の名前は忘れた。元々なかったかもしれない。


「今行く!てか、上司に向かって生意気なんだよ、アホ!」


後輩ができ、今日も任務に向かう。

今まで1人でやってきたから、2人になることでとても楽になった。


「なぁ、シュウ!この任務終わったらちょっと寄り道して行こうぜ!!」


「なら、さっさと終わらすぞ。」


私たちの任務は綺麗なものではない。

赤い液体をまき散らす刃を振り回すのが主な仕事。

始めは抵抗心が強かったが、今ではむしろ快感になっている。


「おい、レイっ!!!」


レイの後ろに忍び寄るターゲット達。

私は叫んだと同時に強く地面を蹴る。

レイが振り向いた時にはもう遅かった。

赤い飛沫が空気中を舞う。





「シュ…ウ……シュウ!!!」





レイの瞳から落ちる滴が私に沢山ぶつかる。

冷たいじゃないか……いや、暖かい。


私の体には重りがついた様だった。

レイに担がれながらその場から離れるが、後ろからターゲットが追ってくるのが見える。


このままでは追いつかれる

レイは組織の中では足が遅い

それに加えて私を担いでいる

一人なら……


私だけなら…逃げ切れるだろう





『感情を捨てろ…。仲間を捨てろ…。』






「レイ、許せ。」


懐から出した小刀を振りかぶる。

私をレイの体に縛り付けていたレイの右腕を刺した。


「っ!!!」


驚いたレイは右腕の力を弱め、私はその隙にその腕から逃げた。

そして再び小刀を振りかぶる。

重りになっていた使い物にならなくなった右腕と左足を捨てた。


私の一部ではなくなった右腕だった物体をレイに思いっきりぶん投げる。

当たるのを見届けずに私はターゲット達の方に向き直る。


「おい、シュウ!!」


「シッシッシ!レイ、お前は私の右腕だ。……なんちゃって」


出血が多すぎて視界がくらみ始める。

最期にかっこよく決めたかったな。

なぁんてね


「そんなの私らしくねぇよな。

本当は一人ぼっちが寂しくって…

レイがいてくれてよかった。」


残った足と腕を使いこなし、ターゲット達を切り刻んでいく。

切るたびに刃先から伝わる感触が身体に走る度に私の何かが失われていった。

身体が軽くなる

動きが速くなる


「ひぃっ!!あの噂は本当だったのか!!」


「うわぁ!バケモノ!!!」


少なくなったターゲット共は地へ膝をつき、定まらない指先を明らかに私に向けていた。

バケモノ?

ウワサ?



「シュ……ウ?」



レイは近くに木にもたれかかりながら、大きく見開かれた目でこちらを見つめ消えそうな声を届かせた。

ターゲットの瞳とレイの瞳にいるのは私ではなく






九尾





「あぁ、やっぱり……か………。」


本当は知っていた

私は人とは違う

『バケモノ』


私は残りのターゲットという人間の首を尾ではねた。

人間は脆いな。


戻らなくちゃ。

生まれたところに帰らなくちゃ。

私の戻るところはもうないのだから。



「俺も連れてけよ!パートナーだろ!!

…置いてくなよ。」



レイ、ごめんね

もう一緒にはいれない

シュウはもういないんだ

わたしはシュウじゃない

だからそんな顔をしないでさ

前を向いて

振り返らずにシュウの分も生きてよ


『ありがとう、ごめん、さよなら』


それだけ言って私は森の奥へと風と共に消えた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


最後のページに一枚の日記が挟まっていた。

『今日はシュウに想いを伝えようと決めた。任務の後に言うつもりだ。』


裏にもまだ続いていた。

『なぁ、シュウ。お前の右腕だったのに今じゃ俺は組織のトップになっちまったよ。

でも、やっぱりお前の横が一番居心地がいいんだ。

今日こそ探し出してやる。何年いや何十年何百年かかってもお前を見つけ出してみせるから。

待っててくれよ?』


日記を元の場所に戻し、本を閉じた。

裏表紙には

『いつでも待ってるよ、ばーか』

そう書いてあった。

そのまま光となり消えていく。


「さぁ、お時間ですよ。

いつでも待ってますから。」


館の主はわざとっぽくそう告げ、館を出た。



To be contenued






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