最低限
館の扉を開けるとそこには白い猫が1匹透き通るような金色の瞳でこちらを見上げていた。
こちらの姿を確認すると体を翻し机の方へと誘導してくれ、その先には1冊また本が置いてあった。
『ニャー』
「最低限」
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1つあなたに問うとしようか。
あなたに友達は何人いるか?
ほぅ、予想通りの返答だ。
では言い方を変えようか…
あなたには自分のかけがえのない時間を命という制限を預けることの出来る友人はいますか?
おや?難しい質問だったかな?
おそらく、始めのよりは人数が減ったであろう。
妾には多くの友人がいた。
よく話す者からときどき話す者
その時は平和を保っていた。
互いを見つめ
互いを頼り
互いを支え
互いを信じた
そして
互いを蹴落とした
いや、蹴落とされたのは妾だけ。信じたのも妾だけ。
全てが偽りの姿だった。
友人など上っ面の囲いで、面倒ごとから逃げないための鎖、そして命を削る凶器だった。
こんな奴らのために妾は尊い命を…
こんな奴らに夢を…
こんな奴らに妾は……
ダマサレタ
村で事件が起こったのがすべての歯車を狂わせたのだ。平和の保たれた町に盗賊が訪れこう妾達に言い放つ。
「一人を差し出せ!じゃなけりゃ、この町を跡形もなく消してやる。」
狂ってると感じた。恐怖もあったが妾はこんな狂った奴らのために町の友人達を売ろうとなど決して考えなかった。そうだ、この町は誰1人として欠けてはいけない大切な…
「あ、あなたがいけばいいのよ!」
衝撃を受けた。その言葉と指先が妾に向けられ、その周りにいた者達からは安堵の表情が浮かんでいる。
なぜ?
助けてくれないの?
自分さえ助かればいいの?
「私も賛成よ。前からあまり気に食わなかったからね。」
「ごめんね、町のためなの。」
キニクワナカッタ?
マチノタメ?
そうだっのか…
みんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんな
友達なんかじゃなかったのだな。
裏切られたのか。
いや、もともと心のどこかで信じていなかったのかもしれない。
面倒なことを手伝わされたり、責任をみんなで負ったり。
厄介なことだらけだったのだな。
「ハハッ……アハハハハハハッ!」
もういらない
こんなにたくさんのユウジンなんていらない
妾の鎖と意識は切れた。
次に目に飛び込んだのは地面に転がる虫ケラ共と盗賊。
目の前には返り血を浴びてガタガタと震える元友人がいた。
「ヒィッ!!ゆ、ゆるして…私たち友達でしょ…?」
妾の手は自然と元友人へと差し出されていた。手に伝わる生暖かい体温。
差し出されたはずの手は元友人を貫通し、元友人は虫ケラになっていた。
ざまぁみろ
「前回よりは減らしたのだが、今回も失敗か…。さて、次はもうすこし少なくしてみようかね。」
1人の妾は虫ケラを踏みながら友人を作りにまた進んだ。
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『ニャァ?』
本を閉じ、消えるのを見送ると猫は頭を撫でろとでも言うように手に頭をこすり付けてくる。
頭に手をのせ、撫でてあげようとした途端耳がピンッと立ち、本棚の影へと逃げてしまった。
『どうでしたか?最低限は』
猫の代わりに影から出てきたのは館の主だった。まさか猫だったのかと疑おうとしたが、館の主の腕の中には丸くなっている白い猫がいたためその可能性は消える。
『生憎、猫ではないので…。』
苦笑いを浮かべる館の主の頬を猫は小さな舌で舐める。ザラザラしていたからなのか館の主は少し嫌そうな顔をして、猫を持ち上げ距離を置く。
『ニャ…』
『にゃにするんですか……』
わざとなのか噛んだのか。いや、顔が赤くなってるから噛んだのだろうけど、どこに噛む要素があったのかは謎である。
無言で館を去ることにしたのは正解だった
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