悪魔の人間
『まずはこちらの本などはどうでしょうか?』
館の主は一冊の本を差し出してきた。
本の表紙には「悪魔の人間」と赤い字で記されていた。
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世界の全員が、人間が変に見える。正確にいえば俺の目が変に映している。
生まれた時は俺だって人間だった。でも嫌になった、馬鹿馬鹿しくなった、哀れに見えた。
めんどくさいと言って任された仕事をこなさない人間
自分より劣っているのを見て優越感に浸る人間
輪から外れるのを恐れ自らを否定する人間
一緒にされるくらいなら人間なんてやめてやる。自分に自信がないから、認められないからそんな人間になる。なんで人間なんているんだろうか。
だから俺は悪魔になった。人間の鎖から逃れることが出来たんだ。その代償に感情を悪魔に捧げた。むしろ必要がない、意味が無いものだったから。
「なんかお前みたいな人間は初めて見た。」
「人間じゃない。」
「あぁ、もう悪魔だな。……つめてぇな。」
悪魔は付け加えるように小さな声で呟く。相手に聞こえるか聞こえないかぐらいの声。
会話というのは一番嫌いだ。相手によって言葉を選び、喋り方を変える。どうやらそれは人間だけではなかったようで、悪魔も会話が必要らしい。これでは悪魔になった意味が無いではないか。
ここの居心地の悪さに俺は黒い翼を広げ、この場をあとにした。
上空から見る人間はとても小さくて、いつもより馬鹿馬鹿しい。
小さいくせにたくさんの見えない荷物を持って切磋琢磨して、後悔して過去を嘆く。それならそもそもやらなければいいのに。
運命、恋愛、友情、信頼、責任
逃げ出さずに背負い続け朽ちていく。
いや、逃げても逃げても付いてきて襲われてるのかもしれない。見れば見るほど哀れで自分もその中に含まれていたと思うと吐き気がする。
俺は翼に疲れを感じ、近くの鉄塔に腰をかける。けれどその直後、背中に強い衝撃が俺の体の前に傾けた。後ろを振り向くと先程の悪魔が楽しそうに嘲笑している。
「やっぱりお前気に入らねぇや。お前には悪魔も人間も似合わねぇ。」
疲れきった翼は俺の物ではないかのように命令に反する。徐々に近付く地面をただ見つめることしかできなくて……。でも俺は笑ってた。
「ほら、やっぱり裏切るんだ。人間も悪魔も……。」
そうだ俺は人間に裏切られて、全てが嫌になったんだ。でも所詮、悪魔もたいして違いがなかった。
「俺は、何になればよかったんだよ…。」
小さな命が飛び散って消えたことは誰も知らない
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本を閉じ、館の主を探す。館の主は小さな椅子に腰を掛け、お茶を片手に天井に飾られた星空の絵画を仰いでいた。
一歩近づくと向こうはこちらに気が付いたようで立ち上がり歩み寄ってくる。
『いかがでしたか?
この人が貴方の目にはどのように映ったでしょう。おっと!口に出してはいけません。
それぞれの視点の世界は他者が侵入してはならない領域ですから。』
手に持っていた本は光を放ち消えてしまった。すると館の主は目を見開き、静かに笑い出した。
『どうやら貴方の視点が気に入られたようですね。おや、もうこんな時間だ。今日はこのあたりにして、またいらしてくださいね。
次もどうぞお楽しみに…。』
To be continued