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死の世界  作者: アキラ
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第6道

私はこれでもかという勢いで走った。

よく考えてみれば、今日は走ってばっかりだ。

大河くんの姿をしていたけど、明らかに別人だった人物、

トラックから脱出した時も、そして今だって・・・


これだけ異常な状況に巻き込まれることはたぶん、もうこの先ないだろう。

というよりも、一刻も早くこの状況から抜け出して

家族に会いたいという一心だった。

私は暗闇の中を行く当てもなく、走り続けた。


すると後ろの方からけたたましい声と共に銃を撃つような音が聞こえてきた。

その声はよくは聞き取れなかったものの、

声の主はさっき私に対して

不気味な言葉をかけていた男のものだと、一瞬で気付いた。

(も、もしかして追いかけてきたの!?というか今の音、

明らかに発砲している音だよね?ってことは・・・)

そこまで考えて、私は容易に最悪な結末にたどり着いてしまった。

そして自分の頭の中で「死ぬ」という言葉が何度も何度も復唱されていった。

(嫌だ。いや、絶対に嫌。まだ死にたくない。まだやり残したことだってあるし、

家族や友人ともっと楽しい時間を過ごしたい。それにまだ、私・・・)


私には高校の入学の時から好きな人がいた。

名前は永藤凛太朗くん。

彼のことを気になりだしたのは、ふとしたきっかけだった。

あの日のことは、忘れられない。



「あっ」

その日、私はツイてなかった。入学式当日だというのにバスの定期券を

鞄に入れ忘れていたにも関わらず、

バスに乗って学校の近くの停留所に着き、降りようとした。

しかし、その時になって初めて忘れていたことに気付くということになり、慌てた

運転手さんも困っていて、私はどうしようかと悩むもいい案は思いつかなかった

そんな状況で彼は私の前に現れてくれた。

いや厳密にいえば、私の後ろで降りるのを待っていてくれた人だった。

他の人が私が定期を忘れたことに気付いて、

さっさと降りていったのにも関わらず、彼だけは違った。

彼はおもむろに自分の財布から500円玉を取り出すと、

困り果てていた私の隣に立つと「はい。これ使いなよ」って言って、

そのお金を差し出してくれた。

そしてそのまま彼はやや駆け足で、バスを降りていったために

私は彼からもらった500円を突き返すことができずに、

またいつか再会できたときに返そうと思って、

自分もそのお金を使わせてもらって降りた。

後から気づいたことだったが、500円もくれなくても半分の200円あれば

、そのバスを降りることはできたはずだったのだが、

彼は私が帰り道でも困ると思ったのだろう。

その倍の500円を渡してくれていたのだ。

まあ、そもそもお金を見ず知らずの人に渡すだなんてことを普通の人はしない。

私がどれほど定期がないんですと運転手の人に言っているのを聞いても、

憐みの目や怒りの目を向けるだけで、見て見ぬふりで力になろうとはしない。

それが普通なのだ。私がもし同じような状況に遭遇している人を見かけたとしても、

彼のようにお金を渡すことはしないだろうし、

もしかしたら悪態をついてしまったり、友達との話のネタに使ってしまうかもしれない。

だけど彼だけは違った。彼は多分、困っている人を見たら助ける人なのだろう。

そんな彼の優しさに救われた。


しかし、これが彼との最初で最後の出会いだったかもしれないと

後になって感じてしまった。というのも高校が同じだからと言っても、

もしかしたら彼は2年か3年だけど入学式の手伝いで来たのかもしれないし、

もし同年齢だったとしてもクラスが同じになる確率なんて本当に小さい。

たとえ同じクラスでもあっちが覚えているとも限らない。

少しだけ残念に思ったが、これもしょうがない事なのだと、その時は言い聞かせた。


しかし、ふたを開けてみれば、どうだったか。

彼は同じ入学者だったことに加えて、同じクラスに割り当てられていた。

それだけではなく、なんと私と彼の席は隣同士とまではいかなかったが、

自分の座っている席の横の列に彼の席は位置していた


私は本当に嬉しかった。少しだけ運命的なものも感じて、

ついつい恋に落ちてしまった。

それからの毎日は華やかなものだった。席が近かったこともあってか、

彼の方から話しかけてきてくれて、ばっちりあの日のことも覚えていたみたいで、

500円も返すこともできたし、そこからたくさん話すこともでき、

話をしていく内にますます彼に惹かれていく自分がいて、

何度も告白しようと思った。


だけど、結局このよく話をする友達という関係性が

白をきっかけに崩れ去ってしまうのではないかという想いから、

告白することは叶わず、月日は過ぎ去っていった。


しかし、もうあと少ししか高校生活もないということに気が付いた時、

このまま想いを伝えなくて後悔しないのかということを考えてしまった。

そしてこの修学旅行の最中に、彼に告白する決意だけを固めていた。



そのはずだった・・・。

なのに私たちは事故に遭ってしまい、

私は今変な男から逃げるために走っている。


こんな未来が来ることは望んでいなかった。


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