第5道
何時間、寝ていたのだろうか。
気がつけば、太陽の光だと思しき白い光が部屋の中に広がっていた。
「あれ?確か昨日私は気のそばで意識を失ってしまったはず・・・ここは」
どこ?と呟こうとした寸前、自分が眠っている部屋のドア付近で
足音が聞こえてきて、とっさにその疑問を飲み込み、そのまま目を閉じた。
するとドアが開く音がして、誰かが部屋の中へと足を踏み入れ、
一歩一歩こちらへと近づいて来る音がした。
私は本当の恐怖というものを感じ、
どこかに行って、どこかに行ってと強く願った。
しかしその願いは空しく、叶えられることはなく、
部屋に入ってきた誰かは寝かされていたベッドの側に座った音がした。
「今年は豊作になりそうだな。目が覚めたら早速取りかかろうか。」
部屋に入ってきた誰かが男性だと分かったのと同時に、
なにやら農業のことを言っているだろう呟きを私の耳元でしてきた。
瞬間、言い知れようのない寒気が私を襲い、
なにかとんでもなく恐ろしいことが起こるような気配を感じた。
男は私がまだ目を覚ますことはないという確信を持ったのか、
それから数秒もしないうちに部屋の中から消えたのだったが、
それでもなお目を開くことはできずにいた。
(私、これからどうなってしまうの?)
そんな漠然とした不安を感じながら、いつしか眠りに落ちていった。
私の目の前には、家族や友人、クラスメイトが立っていた。
「あ、お母さん!!なんでこんなところで立っているの?」
母親を見つけた私は声をかけるのだったが、聞こえていないのか無反応で、
その隣にいた兄や父、友達全てに同じことを質問した。
しかし、返ってくる答えは何もなく、涙だけがどんどん出てきた。
「ねぇ!!ねぇってば!!誰でもいいから私の問いかけに答えてよ!!!」
どれだけ大きな声で叫んでも、その人の体を叩きながら伝えても、
私の目の前にはまるで壊れて一つの表情しかできなくなってしまった
ロボットのように立っている人間たち。
精神がどんどんと疲弊していくのが、わかった。
そしてもう諦めることを決意した私は、その場に寝転んだ。
思いっきり声を出して泣きながら。
目を開けた私は、さっきまでの光景が夢だったということを知った。
いつの間にか寝てしまっていたのだろう。私は少しだけ安心した。
しかし、頭が覚めていくにつれて、今の自分が置かれている現状を思い出し、
安心したのも一瞬のことで、すぐに恐怖へと変わってしまった。
(このままここにいてはいけない。
さっき言われた言葉も気になるけど、早く逃げなきゃ!!
何をされるか分からない)
私は耳を澄ませた。これでもかというほどに聞き耳を立てて、
周囲に誰もいないかを音だけで探ろうとした。
一切、安心はできなかったが、どうやら人がいる気配はなく、
今しか逃げるチャンスはないのではと思うほどに物音の一つもしなかった。
私は決意を固めると、ベッドから静かに出ると、
近くの机の上にあったこの家の主の物であろう傘を手に持ち、
ドアノブに手をかけた。
そしてドアを開けた瞬間に、
さっきの男が息を殺していた時のために傘を振り上げ、
ドアノブをひねり、ドアを静かに開けた。
やはり、誰もいなかった。
安心した私はその後、何事もなく玄関の扉前まで駆け足でやってきた。
(ここを開ければ、あの男から逃げれる。お願いだから帰って来ないで)
そう祈りながら、玄関のドアもさっきの部屋の時と
同じような行動をとってから開けた。
祈りが通じたのだろう。開けた先には人影などは一切なく、
薄暗い森だけが広がっていた。
数時間前の私であれば、
目の前の森の飛び込むことの方が恐怖は大きかっただろう。
しかしさっきの男性の言葉はその恐怖よりも大きく、何の迷いもなく、
森の中へと入っていった。後ろを振り返ることなどせずに・・・。
彼女が森の中へと入っていくと、男は家の中から出てきて、
彼女の走っていった先を凝視した。
そう、男は家の外にいたわけではなく、ずっと家の中にいて、
彼女からは見ることのできない場所から彼女が森へと入っていくまでの間、
見ていたのだ。品定めするように。
男は彼女の姿が完全に視界から消えるまで見続け、消えた瞬間、言葉を発した。
「本当にいい娘だ。あの引き締まった足、
あの子供をたくさん産むことのできそうなお尻の形、
あの美味しそうな腹部。そしてあの恐怖に戦慄していた表情。
あ~!!なんと美しく、そしていい苗代だ。早く捕まえて、じっくりと。ふふふ」と
男はそのまま、家の中へと入ると、数分も経たないうちにまた出てきた。
猟師のような服装、背中にはライフルを持った状態で・・・。