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祭りの後 後の祭り?

第七章 祭りの後 後の祭り?


 ここからはもう滅茶苦茶だった。

 瑛が俺を突き飛ばせば、栞が俺を受け止めて、俺は瑛を馬跳びの要領で飛び越えれば、つんのめった瑛が栞のスカートをめくったり……歌こそしっかり歌っていたが、ステージ上を飛んだり跳ねたり駆け回ったり、俺達三人はステージの隅から隅まで使ってはしゃぎ回ったのだ。もうライブなのか、お遊戯なのか分からない。

 分からないのだが……

「「「Diamond Star Dust~ッ♪」」」

 俺も栞も瑛も、

「って、コラ何すんのよ可憐!!」

「詩織の敵だ!! おとなしくスカートめくらせろ!!」

「こらーっ!! 二人ともぉ~っ!!」

 最早歌そっちのけではしゃぐ俺達を見て、バンドのメンバーも大道具さんも照明さんも、ステージ上のみんなも、

「「「「「わはははははははははっ!!」」」」」

 会場の観客達も、本当に全員が、心の底から楽しそうに笑ってるんだ。

 だからきっと、これで良かったって思うんだ。

「いやぁ~……盛り上がったねぇ………」

「盛り上がったねぇ……」

 会場を見渡して俺がそう呟いた時、遠くに見えた和真と目が合った……気がした。

 まぁ、この距離なのでその真偽は定かではないが。とりあえず、ここでやっとと一段落だ。何だかここ数日で色々ありすぎて、訳分からなくなったりもしたが、何だかんだでこうして乗り切れたのだから、きっと楽しい思い出だな。うん。

「おいおい、可憐。なんか一人モノローグでまとめに入ってそうな顔してるけど、まだライブもその他イベントも終わってないんだぞ? そんなふやけた顔してて良いのか? まるで恋する乙女だぞ」

「ああ、瑛居たのか……って、恋する乙女!?」

「あ、瑛ちゃんだぁ~……」

「居たのかって、君が私をステージ上に呼びつけたんだろうが?」

「ああ、そうだったっけ?」

「なんかふわーって疲れちゃったよぉ~……」

「恋する乙女って何だよ!!」

「いや、適当に言った冗談だけど……おやおや、何か引っかかる部分が?」

「いえいえ、何も無いのでございますのことよ?」

「何その言葉遣い!!」

「べ、別に……ん? あれ??」

 いや、確かに色々緊張する事が多かったけど、確かにまだまったりするにはちょっと早いか。

 何だか瑛の言い分ではないが、俺も気が抜けてしまったのだろうか、何だか気持ちがふわふわして落ち着かないというか、逆に落ち着いているというか……

 どっちにしても、プロのすることじゃない。俺はアイドルだ。プロなんだ。そう自分に言い聞かせて、もう一踏ん張りを決める。

 ペチンッ!!

「危ない危ない、ボーっとして仕事忘れるところだった!!」

「ところだったじゃなくて、忘れてたでしょうが!! ついでに君の相方も意識どっか飛んで行ってるから」

「ほへぇ~………」

「し、詩織っ!? まだライブ終わってないんだから帰ってきてぇ!!」

「ったく……」

 俺は自分の頬を張る事で今に帰ってくる事が出来たけど、流石に栞の頬を張るわけにも行かないし……ああもうどうすれば……

 それに引き換え、流石に瑛は場慣れしているというか、なんと言うか……まぁ、俺達とは経験が違うのだろうし、今日は俺達程歌っていないし、まだまだ元気なのかも知れないが、それはもう落ち着いたモンだった。

 なんかその余裕が悔しい。てか、落ち着いてないで助けて欲しい。

「あ、可憐ちゃん? お疲れさまぁ~……」

「ああ、お疲れ様……ってだから、まだライブは終わってないってば!!」

「あれ? そだっけ? ………あわわわわっ!? まだ最後の曲歌い終わっただけだった!?」

「しかもこれ全部マイクに拾われてるから」

「「えぇぇぇぇっ!?」」

「「「「「わはははははははははっ!!」」」」」

 マイクのオンオフ切り替えるのも忘れて……って以前にまだライブ終わってないのに雑談って。グダグダだ。

 まぁ、俺達らしいMCだがそれにしたってグダグダすぎる。重ねて言うが、それがもの凄く俺達らしい。いや、腹立たしいがそれは事実だ。


「み、みなさぁ~ん! 最後の曲はいかがでしたかぁ~?」

「俺達の曲じゃないけど、盛り上がったからいいよね!?」

「まぁ、私的にも楽しかったからOKなので良いんじゃないかな?」

「「「「「わああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」」

 気を取り直してごまかそうと試みるも、ごまかすまでも無く会場からは割れんばかりの拍手と声援が聞えてきた。

 会場の盛り上がりからも、あの演出への反応が伝わって来て、何だか少しだけ嬉しくなった。何だかそれは、会場のみんなに俺の事が認められたってそんな気がするから。

「あ、みんなに改めて紹介するけど、この人は言わずと知れたビックゲスト、俺達の先輩で、俺の芸名の名付けの親でもある『神越 瑛』さんだ!!」

「やっほ~っ♪ 飛び込みでやってまいりました跳時空アイドルで~すっ!!」

「ホント、歌もダンスもお上手ですよね……一緒に歌ってて、すごく気持ちよかったです!!」

「うん、私も。あと、かわいいパンツもありがとね詩織ちゃん♪」

「うわああああああぁぁぁんっ!!」

「瑛は水色の縞々だったね!!」

「可愛いでしょ?」

「っち、全然堪えないのな……」

「こんな仕事してれば、君達も見られなれるさ」

「見られるのとスカートめくられるのは違うよぅ!!」

「「「「「わははははははははっ!!」」」」」

「いや、自分で色とか平気で語ってなかったか、君?」

「自分で言うのと見られるのは違うし」

「でも、『客席には見えちゃうし!』的な事言ってなかったっけ?」

「瑛ちゃんに見られるのは恥ずかしいのぉ!!」

「「なんでさ?」」

 最早今更感全快な気がするが、しかし紹介しないわけにもいかないだろうということで半ば無理やりに瑛を紹介するが、その辺しっかり対応してくれる瑛。

 流石にトークに慣れている瑛だけに、俺達のむちゃくちゃなトークにもしっかりついて来ているんだから凄い。というか、アレだけの売り上げを上げて、人気もあるというのに、この親しみ易さは何だ?これが瑛の魅力なんだろうか?

 正直こうして喋るのは初めてといっても好い筈なのに、まるで和真とでも話しているのではないかと思ってしまう程に、自然と溶け込んでいた。

 恐るべし、トップアイドルである。

 ちなみに、水色の縞々は俺も大好きだ。悪いか?

「いやぁ、それにしてもさ」

「はい?」

 最早台本も何もない、ぶっつけトークの中、これまた唐突に瑛が喋りだす。

「さっきのお店の子、本当に可憐にそっくりだよね……最初は本気で可憐だと思って話しかけたよ。マジな話」

「私もびっくりしたよ。隣に可憐ちゃんが居るのに、画面の中にも可憐ちゃんが居るんだもん」

「そんなに似てるか?」

「「似てる似てる」」

 狙いなのか、天然なのか分かりかねるが、白々し話題なのでどうも俺は喋りづらい。

「でもさ、あんだけ似てれば、可憐が急病とかで休む時は彼にお願いしたら良いんじゃない?代役」

「や、男の子にこんなかっこうさせるのは可哀想だ」

「うん!!きっと可愛いと思うな!!」

「てか、自分の格好を見て『こんな』って……物凄く可愛いだけに、ちょっとむかつくんですけど?」

「や、詩織? 音韻は一緒でも意味が違うと思うな……それと瑛。自分もそんだけ可愛くてむかつくって何だそれ?」

「んぅ?」

「あははははっ!!」

 みんなお喋りモード全開である。

 その話題の中心が自分の事で無ければ、もう少し話し易いのだが……まぁ、それは我侭……というか贅沢だろう。

 ってか、俺の思い違いでなければ、こうして話す事で健介≠可憐の印象を会場全体にアピールしてくれているんだろうと思うし……

「でも彼、既に今もメイドの格好してるし、そういうの大丈夫なのかも知れないよ?」

「いや、もの凄く嫌そうに俺には見えたが?」

「そかな? 私にも楽しそうに見えたけど?」

「何か、自分の鏡を見ている様でそうじゃないって気持ち悪くてよく見てなかったからなぁ……」

「ああ、そっか……それは確かにちょっと気持ち悪いかもだね……」

「いや、『嫌そうに見えた』ってはっきり言ってたぞ可憐は」

「すまん瑛、思い込みだったかも知れないこともない……」

「うわ、凄い微妙な言い回し……」

「頼むからいじらないで!!」

 無軌道なトークが続いているが、時間も押しているし、もうそろそろ先に進むべきだろう。ここで流れを断ち切るのが不自然じゃないかどうかを考える。反面、多分そんな考えなくても大丈夫だろうと、頭の中のもう一人の自分からのツッコミ。

 でも、そうだよな。俺達のお喋りはいつだって無軌道で突拍子も無いんだから。

「でさ、そろそろ時間も押してるしあの話をしないとなんじゃない?」

「あの話?」

「あの話って何?」

「うぉ~いっ!? 瑛はまだしも仮にもしっかりリハーサルまでしてたのにどういう事かな、詩織?」

「え? ああ、えーと……ん? あれ?」

「あ、はい。マジボケですね……すみません」

「え? ああ、ううん、私もごめんね」

「えーと……、ほら、最後凄い大騒ぎだったらじゃない? 忘れちゃったんだよ、ね?」

「「「「「がんばれ!! 詩織ちゃん!!」」」」」

 もう最早グダグダである。

 会場の暖かい声援に心がぽっと温かくなりかけたが、えと、それはなんか違う気がした。いや、だってあれだろ? 今の声援ってこの後の段取りを忘れてしまった詩織への声援だろ? それって流石に駄目駄目だろ。

「よしっ!! 皆さん聞いて下さい!!」

「うん!!」

「いや、これからの発表を一番楽しみにしているのが相方って……」

「あはは……」

 瑛のツッコミにもう苦笑いしか出来ない。

 狙いではない天然物のボケが炸裂して、もうどうしたらいいのか解らない。

 ここは気を取り直して……


「皆さん、聞いて下さい!!」

 入りから仕切りなおしてみた。

「なになにっ!?」

「詩織ちゃんは少し静かにしようか?」

 聞えない。俺には何も聞えないぞ。

「皆さんに私から重大な発表があるんです!!」

 詩織、そのピュアな瞳でいつまでも可愛らしい笑顔を振りまいて欲しい。でも、今は悪いけどいい子にしててくれな。

 会場に向かって、俺は絶叫……言い過ぎか、でも、大きな声で発表するのだった。


「重大な発表ねぇ……」

「どうしたんだよ、皐月?」

「いや、もう十分、重大発表してるのに、まだあるのか……と思ってな」

 世間を賑わすトップアイドルデュオが、同じ学校に揃うなんて、物凄い事なのではないだろうか?

 学校の宣伝効果は物凄いものになるだろう。白金台女学院が女子高で良かった。共学だった場合、次年度の男子入学希望者が、物凄い事になっていただろう。いや、今年度中の転校希望者も物凄い事になっていただろう事が想像出来る。まぁ、女子高でもその効果は計り知れない。

 その経済効果は大きいはずだ。

 入学ないし、転校すれば、アイドルと級友や学友になれるのだ。ミーハーであればある程に、その影響を受けるだろう。

 今回のイベントだけで、これだけの人を動員しているのだ。今後この街への観光客も増える事が考えられる。そもそも、『瑛のバイト先がある』と言うだけで、それ以前よりもこの街を訪れる人間が20%増加したと言う市の報告もある。

 可憐がこの街に学生として過ごすと言う事が確定した今、瑛以上の動因が予想される。

「可憐の転入以上の重大発表となると……なんだろうな?」

 何となく想像はつくのだが、出来れば私の度肝を抜いて欲しい。私の度肝を抜くと言う事がどれほど難しい事かは私が一番理解しているのだが、それでもそれを期待してしまう。

 瑛が言っていたのだ、可憐と言う奴は「意外性」が武器だと。

 私は瑛の見る目を信頼している。アイツがそう言うのであれば、恐らく可憐はそう言う奴なのだろう。だが、今のところ、予想の範囲を超えていない。

 可憐と言う在り方には、少々驚かされはしたが、それだけと言えばそれだけだ。男子学生でありながら美少女アイドルというのは確かに驚くべきかも知れないが、世間にいないかと言えば、いないことは無いのだ。

 果たして『KALEN』はそれだけなのか?

 それとも、瑛の言うように、何かを持っているのか……

 見せて貰おうじゃないか。鈴原健介の実力と言うものを。


「宮姫……やらかしたな……」

「会長、『彼女の転入』以外の『重大発表』というのは?」

「あはは、間違いなく、宮姫の勘違いだ。打ち合わせでは確かにココで、可憐の白女への転校をぶちまける予定だったが、前半のフリートークでもうそれは明かしてしまったからな……さて、このミスをどうカバーするか、見ものだな」

 このライブを何とか乗り越えたと言う安心からのケアレスミス。

 本来さほど気にすることも無いミスだが、こうしてライブが盛り上がりを見せてしまっている以上、ここで「あ、間違えてた!?」と言うのは、雰囲気的に言い出しにくいというか、締りの悪いライブになってしまうだろう。

 初の単独ライブで、それはよろしくない。

 と言うか、マズイ。

 このピンチ、さてさて『KALEN』はどう乗り越えるのか。

「面白い。ここぞと言う時の宮姫の機転は、いつも想像の斜め上を行くんだ。今回もそうなれば、このライブ伝説になるかも知れんぞ?」

「しかし、それが上手くいかなければ、逆にこのライブ大失敗と言う事になるのでは?」

「だろうな」

 確かに三枝の言う通りなのだが、俺はそれほど心配していなかった。

 宮姫もそうだが、ステージの上にはもう一人、機転という意味でも、場数と言う意味でも頼りになる、スーパーアイドルがいるのだ。

 恐らくだが、何かあった時には、彼女も手助けしてくれると思うのだ。

 さてさて、これがどう転がるのか?

 それは俺には分からんが、やはり胸を占める感情は、期待が一番大きかった。なんだかんだと言っても、俺は俺で、宮姫のファンなのだ。

 あれの一挙手一投足が楽しみで仕方が無い。

「なんにしても、この状況、この失敗に本人が気付いているかどうかが、一番のネックだろうな」

「お知らせしますか?」

「いや、放置だ。恐らくその方が面白いだろうしな」

 さーて、宮姫。

 お前の底力、見せてもらおうか?


「…………」

 俺はマイクを握ったまま、固まっていた。

「可憐ちゃん?」

 詩織の不思議そうな顔。

 俺の横では、瑛も不思議そうな顔をしている。

 まぁ、そうだよな。

『重大な発表があります!!』とか言ったのに、その宣言をした俺が、硬直してしまっているのだ。

 時間にして、まだ一分に満たないので、みのさんよろしく、『変に焦らして遊んでいる』とかとっていただけているのかも知れないが、それもこれ以上引き伸ばせば観客もおかしいと言う事に気がつく筈である。

 どうして俺が硬直しているのか。

 そんなもの、簡単だ。

 ようはやっちまったのである。

 どうしたものか……

 本来の流れであれば、ここで明かす重大発表と言うのは、『俺の白女転入』だったのだ。

 ここで明かして、「これからよろしくねー!」的な話をして締めに持っていく筈だった。

 しかし、俺は前半のトークの中であっさり明かしてしまったのだ。

 さほど重大な情報でも無いかのように……

 だからすっかり忘れていたが、このタイミングで思い出せたのはラッキーだったのか、アンラッキーだったのか?

 気付かなければ、俺がアホな娘と言う事になっていたのかな?

 これだけ、盛り上げておいて、大分肩透かし的な演出になってしまうが、まぁ、俺達らしいと言えばそうかも知れない。

 では、ここで「実は重大発表をもう公表してました」的な話をする事で誤魔化すか?

 会場の観客達の顔を眺めると、それが難しい事が見て取れた。

 瑛の登場、ステージ上の歌バトル。

 会場のボルテージは今がマックスだ。

 今ここでその温度を下げる様なオチをつけては、今日のライブのイメージを一気に悪くしかねない。

 しかし、『重大発表』等無いのだ……

 無いものを発表するわけには行かない。

 どうする? どうすればいい?

 そんな事を考えている内に、流石に会場にも不安が広がってきているのが分かった。ざわざわとし始める会場。何を話しているのかは流石に聞えないが、何となくその雰囲気だけで、戸惑うに似た空気を感じるのだ。

 これ以上、この沈黙を引き伸ばす事は出来そうも無い。

「あー、コホンッ……変に引っ張ってたら、タイミングが掴めなくなっちゃった……みのさんって凄いなぁ……あの絶妙の間ってどうやってとってるんだろ?」

「可憐、流石に引っ張りすぎだよ。お客さんも心配になって来ちゃってるよ?」

「ですよねぇ……んじゃ、ちょっと仕切りなおしても良いですか?」

 会場に向かってそう言うと、若干の戸惑いの空気は残しつつ、フリのところからやり直し出来る雰囲気にはなった。

 優しい会場の空気に感謝しかない。

 しかし、参った。

 どんなに仕切りなおしても、『重大発表』が無い。

 発表する内容が無いので、このまま行けば、結局駄目になってしまうのだ。

 ダメダメなのは詩織じゃなくて俺の方だった。

 出来る事ならあの瞬間をやり直したいが、それもどうしようもない。言ってしまった言葉はもう取り返しがつかないのだ。

 ああ、もう、やっちゃったよ。何で気付かなかったんだろう?

 冷静に考えれば気付けそうなものなのに、あーあーあー……

 悩んでもしょうがない。

 ここは発想を逆転させよう。

 俺達のことで、『KALEN』の事で、何か重要な発表に繋げられそうな決定事項はあっただろうか?

 少し大げさにしてしまっても良い。この際だ。

 必死に思考を巡らせる。

 ファーストアルバムの発売はどうだ? 何か特別な特典とか付けられないか?

 流石にそれはここで勝手に発表する訳にも行かないか。

 えーと、アルバム発売に合わせて、全国の販売店を巡る際に、何か出来ないか?

 でも、それも事務所や何かを通さないと、どうにも出来ないことか。

 今度音楽番組に初出演する事をここで明かすのはどうだろうか?

 でも、そんなそこまで重大な発表でもないか……

 えーと、えーと……

 この場の勢いで決められる事で、みんながあっと驚くような、そんな発表……

 思考を必死に巡らせる。

 俺に出来ること……

 考えたら、そんな事一つしかなかった。

 俺はアイドル、いや、歌手なのだから……


 閃いたのは、新曲の発表だった。

 今度のライブの後に作り始める新曲の宣伝。

 これなら十分な重大発表になる。そう考えた。

 事務所の許可がまだ貰えてないが、その辺はマネージャーがなんとかしてくれる。そう本気で思った。

 でも、

「どうしたの、可憐ちゃん?」

 これじゃない。

 俺の奥底から、そんな声が聞こえて来た気がした。

 予定外ではあるが、ライブの最後に新曲の発表。

 それはあまりに普通すぎる流れだからだ。

 本来ならそれで良い。

 無難な方がいいに決まってる。

 でも、俺はそうじゃ無いんだ。

 オーディションだって、このライブだって、もっと言うなら、俺と言う存在そのものが、『意外性』の塊なのだ。

 俺に求められているものが、『普通』であるはずが無い。

 間違いなく予想だにしない様な『意外』な発言が期待されている。

 その期待を裏切って、普通の流れでライブを締めくくって良いはずが無いのだ。

 だってこれは『KALEN』の、俺のライブなのだから。

 しかし参った。

 だとすると本当に発表する様な事柄が何も無い。

 そもそも、この学園祭ライブ以降、決まっている仕事なんて、音楽番組の出演が数件程度だ。

 大型オーディションの入賞アイドルとはいえ、飽くまでも駆け出しなのだ。

 仕事なんて、あるわけが無い。

 『ないもの』を発表する事は出来無いのだ。

「ん? まてよ?」

 そこで俺は、やっと『閃いた』。

 そうだな、これならうん、俺らしい。

 それに、多分『予想外』で『意外性』もバッチリだと思うのだ。

 思わず顔が綻びる。

 そうだよな、これから言う事は嘘じゃ無いし、多分誰にも迷惑をかける事は無い。

 ただ、恐らくはみんな驚いて、大騒ぎになると思う。

 それを想像すると、思わずにやけてしまうのだ。

 そうか、俺っていたずら好きなんだな。うん。

 よし、そうと決まれば、後は覚悟とタイミング。

 引っ張ってしまった分、なんらかの演出が必要だろうな。

 しかし、あまり考えている時間は無い。

 ま、仕方が無いよな。

 俺だし、いつも通りの行き当たりばったりで行くしか無いのだ。

 はっはっはっ。


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