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疑問と逃避 駄目人間な俺

  第四章 疑問と逃避 駄目人間な俺


 チュンチュン、チチチ……

「あれ?」

 気が付くと、朝。時計の表示は〇七:〇一。俺は自分のベットで目を覚ました。思い返しても、俺の記憶は保健室で途切れてる。その後何があったのか、そもそも、俺の正体は守れたのだろうか?

「ってか、俺はどうやってここに帰ってきたのかも覚えて無いんだが???」

 全く分からない。それはもう大混乱である。

「お、お目覚めか、愚弟」

「お目覚めだけどさ……昨日俺がどうやって帰ってきたか、知ってる?」

「はぁ?」

 丁度良く部屋におかゆを持って入って来た姉さんに聞いてみたら、呆れられた。「コイツ何言っちゃってんの?」って顔だ。

「コイツ何言っちゃってんのかね?」

 ってか言われた。

 でも、言っちゃうよ。だって、何も覚えて無いんだもの。不安だし、色々心配だし……

「昨日はアンタやらたらハイテンションで帰って来たじゃない? 覚えてないの?」

「ハイテンション???」

 心当たりが全くない。そもそも、正体がバレスになって、何でハイテンションで帰ってくるのか? どう考えても論理構造的におかしい。まぁ、現状が論理構造的に正常か? と問われれば、間違いなく異常なので、その辺は正直宛にならないのではあるが……

「うわ、本気で覚えてない顔だよ……『たっだいまぁ~、学校でかずまに会っちゃった☆ あはは~♪』ってさ……なんか随分と楽しそうに?」

「………???」

「いや、これは本当の話ね」

「いやいやいや……俺が? ☆マークなんかつけるかよ!」

「でも、本当にそんな感じだったんだもん……覚えてないの?」

 覚えてない。覚えていないから、聞いたんだ。ってか、信じられない。なんだそれ? 俺のキャラじゃない。『あはは~♪』って……

 頭が痛い。そんな自分を想像したくない。ってか、そんな自分が痛い。

「で、そのまま倒れて、今起きたって感じかな?」

「そ、そうか……」

 記憶が無いのと、記録が無いのが救いだが、やはり心配だ。そんな訳の分からないテンションで、俺は和真と何を話したのだろうか? 正体以前に、それが心配になるのだった。

「で、おかゆあるけど、食べる?」

「あ、うん」

「じゃ、置いとくね。あ、一応今日は休みなさいって母さんが言ってるから」

「え? あー、うん。分かった」

畳み掛けるようにそう言って、姉さんは部屋を出て行った。静まり返った部屋で、俺は背中に薄ら寒さを感じるのだった。


「おはよう、鈴原」

「おう!」

 さて、文化祭の日も間近だ。正確には三日後に迫っている。クラスの出店準備も追い込みに入り、例外なく俺のクラスの面々は、その殆どが『冥土服』を着込んでいる。あ、ちなみに『冥土服』は誤字じゃないぞ? 健介以外の全員が健介と同じ『メイド服』を着込んでいるが、似合っていないどころか、不快感の塊でしかなかった。だから、誰かが

「これじゃ俺達が着てるのって『冥土服』だよな」

という言葉を借りて、クラスの全員がこの格好を憎しみを込めて『冥土服』と呼ぶようになったのだ。本当に、似合っているのは健介だけだ。これってある意味、もの凄い絶望的な状況だと思う。これで客を呼び込もうというのだから、無謀極まりない計画だ。俺が客なら、健介の『メイド服』という報酬が合ったとしても、見渡す限りの『冥土服』の前に心が折れて、店に入るに至らないだろう。それ位、絶望的な光景が、今まさに俺の目の前に広がっていた。そして、それを知っていながら、突き進む馬鹿なクラスメイト共が、俺は大好きだ。

 とまぁ、そんなアホな話は置いておいて、俺の頭の八割を占めている悩みを改めて考え直す事にする。それは他でもない、健介の事だった。俺だって馬鹿じゃない。

あんだけ話して、それで『可憐』が『健介』じゃないなんて言うほど、俺の目は曇ってはいないのだ。俺は一〇〇%の核心の下に、『可憐』が『健介』であると断言する。ちなみに、理由は? とか証拠は? といった質問には答えない。というか、答えられない。何の根拠も無いからだ。でも、『俺だから分かる』のだ。アレは間違いなく『健介』であると。

 だったら、何を悩んでいるのか?そう思う人が殆どだろう。そうなのだ。そこが俺にも分からないのだ。『可憐』は『健介』で間違いない。そう確信しているのだから、これ以上考えるべき事は無いはずだ。健介が隠したいのであれば、俺は知らんふりを続けるし、健介が明かせば、そうかと認めつもりである。その覚悟もある。だというのに、俺は、未だに、この案件を悩んでいるのだ。自分でも不思議で仕方が無い。『俺は一体、何を悩んでいるのか?』馬鹿馬鹿しいが、今俺を悩ませているのはそんな下らない、そして不思議な悩みだった。

 しかし、これだけははっきりと分かっている。この謎の悩みは一〇〇%間違いなく、健介に関わる悩みなのだ。何故かそれだけは分かる。全く、不思議すぎて笑えてくる悩みである。パズルを解こうとしているのに、パズルのピースが足りないような……いや、むしろ余計なピースが紛れているような……そんな不思議な違和感。

 何にしても、文化祭を間近に控えたこの時期に、俺はそれとは全く関係の無いことを、悩んでいるのであった。

 それともう一つ。

 それは、健介の悩みの種。ライブと出店のダブルブッキング。これを乗り越えられなければ、健介に『可憐』としての未来は無い。だが、

「協力を……仰いで見るか」

 乗り越えられれば、逆にそれは、磐石だ。そして俺は、俺で動き出す事にする。連中だって、話の分からない馬鹿じゃない。分からないなら、分からせればいい。それこそ、腕ずくで……


 和真が、変な顔で俺を睨んでいる。まぁ、疑われてんだろうな……俺には記憶が無いが、どうも俺は和真と共にかなりの時間を過ごしていた筈だ。

 そのとき俺は、何と名乗ったのだろうか?

 そのとき俺は、何を喋ったのだろうか?

 そのとき俺は、誰だったのだろうか?

 あの日から俺は、和真とろくに会話が出来てない。和真は今まで通りの態度で俺に触れてくれる。でも、俺は、どうしていいのか分からない。自分が一番信頼出来ない。俺は、和真にどう接していいのか分からない。怖いんだ、和真と話すのが……怖いんだ、和真に何か言われるのが……

 何と言われるのが怖いのか?

 何と思われるのが怖いのか?

 それは俺にも分からないけど……

「鈴原、どうした?」

「ん? どうした?」

「いや、ぼーっとしてるから……どうしたのかなって……さ」

「ん……別に。ちょっと疲れただけだ」

「そか……」

 俺は無謀なプランを立てて、無理にこの状況を乗り越えようとしているけど、それはもしかしたら……

「和真ぁ~っ!」

「おう! 今行く!!」

 俺はアイツにどう思われるのか? そればかりを気にして、ちゃんと考える事が出来ていないのかも知れなかった。

 何だよ、俺らしくない。和真にどう思われようがいいじゃないか。そう思う筈なのに、俺はどうしても、和真の事が、気になって気になってしょうがないんだ……

 どうしてだろう?

 今は何より、どんな事よりも、アイツの事が気になるんだ。

 なんでなのか、それが分からなかった。


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