それはSchool Festival!?
第一章 それはSchool Festival!?
そして、ここが生徒会室のドアの前。
「ここが生徒会室なんだけど、ちょっと、高町さん達は後ろに下がっててくれ」
「???」
「いいから……おい、バ会長。入るぞぉ~……」
俺は、白女のお嬢様方を少しだけ非難させてから、意を決してドアを開ける。
ガチャッ
「ようこそ、鈴原の宮姫! やっと俺のものになる決心が付いたんだね!!」
ガバァッ!
タンッ! ズドムッ!
「ガハァッ!?」
生徒会室のドアを開けてすぐ、いつも通りの出迎えをしてくれたのが、我が校の恥部、生徒会長の小平 春水だ。ちなみに、抱きついてきた無防備なボディに、俺が右を叩き込んだので、今しばらくは床とキスをしている事だろう。踏み込みからの通打。この手応えはしっかりと奴の背中に通った筈だし。
「コイツの病気も相変わらずだよな……」
「和真、悪いけど、この馬鹿をその椅子に座らせてやってくれ」
「了解」
振り返れば、白女の皆さんは一部を除いてドン引きの様子。見下ろす馬鹿は多分数分夢の中だ。
「すいません、うちの生徒会長、馬鹿なんです」
精一杯の笑顔を顔に浮かべてそういうと、何故か白女の皆さんがぽーっと惚けていた。
「もう、鈴原さんは私達を悩殺してどうするつもりですか!」
「「「「きゃぁああぁぁぁんっ!」」」」
「はいっ!?」
もう、意味が分からない。
これから一体何が起こるのか、それが一番知りたかったけど、それを知るには、随分苦労しそうだった。
コトッ
「ありがとうございます、鈴原さん」
「いえいえ……」
俺は精一杯の怒りを表情と殺気に込めて、バ会長を睨む。が、
「うん、流石は珈琲喫茶で仕事をしているだけあって、宮姫のコーヒーは香りが違うな」
「それ、インスタントですけど?」
「君が入れたという事が、何よりもこの珈琲を美味しくするんだ」
俺の精一杯の殺意やら恨み言やらは、さらっと流されてしまうようだ。
「ええ、本当に」
「「「「……コクコク……」」」」
まぁ、ゲストの方も満足してくれている様なので、それはそれでいい気がするが……
お客様の存在にバ会長が気付いたのは、意識を取り戻したのと同時だった。そして、開口一番が、
「鈴原君、お客様にお茶をお出しして」
「あ、はい」
だった。まぁ、そのバ会長の指示のままに珈琲を入れて、配ってから、
『何で俺がこんな事を?』
という考えに至って、バ会長を睨みつけてはみたが、結果は先の通りだ。もてなそうという考えは上等だが、生徒会役員でもなければ、バ会長のメイドでもないのに、何で俺が? と言う不満は、今もある。
さて、
「で……」
「では、白金台女学院の生徒会の皆さんが総出で、一体我が校にどういったご用件かな?」
「……っ」
「ははは、宮姫。これは俺の台詞で問題ないと思うんだが?」
「まぁ、そうだけど」
一段楽したところで、言おうとした台詞を綺麗にバ会長に奪われたので睨んだら、全うな返しをされてしまって言い返せない。何かムカつく。
「はい、私共が本日ここに来させていただいたのは、他でもありません。近隣地域でも珍しい、この次期の貴校の学校行事に、本校も参加をさせて頂きたく思いまして……」
「ほう」
この高町さんの申し出に対して、少し説明が必要かも知れない。うちの学校は、いくつか珍しい特性を持っている男子校だが、その一つが『年に二度行われる』この学校行事だ。
夏休みに入る直前、クラスの親睦とを深めると共に、校外の方々にうちの学校の事を知って貰うためのデモンストレーション。要は学校見学を兼ねた、『夏季文化祭』。その名も『星黎祭』と、文化発表を主とした在校生向けの『秋季文化祭』。その名も『月光祭』である。
そして、彼女達白女の生徒会が参加を希望するのは、前者の『星黎祭』の方だ。外部向けの大々的な物で、この辺で言うと、年に一回の文化祭ではあるが、それに来る為に、わざわざ地方から出てくる学生もいると言う通称『由芽崎祭』に次ぐ規模だったりする。
正直男子校とは思えないような出し物が並ぶので、地域からの受けもいい。しかし、そこに白金台女学院が関わるとなると、それは一体どういうことなのか?
「高町女史。貴女の言う『参加』とは具体的にはどういった形を考えてらっしゃるのか聞かせて頂きたい。一応我が校の文化祭は、基本的に外部の参加者を拒む様な形は取っておりませんからな……」
会長の質問は俺も聞きたかった内容だった。ってか、普通誰でもそう聞くよな。『参加』と言うのが一般の参加と同様に『来場者』としてなら、こうしてわざわざ乗り込んでくる必要は無いのだ。つまり、
「はい、もちろん我々の言う『参加』とは、ホスト側の事です」
「ふむ」
だろう事は、容易に想像が付いた。まぁ、要するにだ……
「つまりは、『星黎祭』を、我が校と共同でやりたい……そういう事ですね?」
「はい、そうです」
会長が言うように、そういう事だ。
短くない我が校の歴史の中で、白金台女学院と我が校が学校行事で関わったことは無い。前例も無ければ、本来つながりも無い。
「解せんのは、何故我が校の文化祭に、白女程の名門女子校が絡もうと思ったかですが?」
「ふふふ……それは、簡単です」
「ほう、なるほど」
俺には全く分からなかったその理由を、何故か当の会長同士(高町さんは副会長だが)は一瞬の内に分かり合えたようだ。俺は肩を竦めて和真を見ると、
「……?」
和真もまた、同じリアクションで返してきたのだった。
「………ん?」
ただ、
「ふふふふふ……」
「ははははは……」
両会長の視線が、何故か俺の背筋を冷たくしたのだった。
前代未聞の男子校と女子校の合同文化祭。
まぁ、そこに俺の知る限りどうしようもない馬鹿と、どこか本心の分からない不思議さんが関わっている以上、まともな物になるはずは無いことだけは確かだが……
「『それは素敵な企画です!』」
「『そうでしょう、そうでしょうとも!』」
バ会長と高町さんは、『二人で打ち合わせたい事がある』と、生徒会室に篭もって、内側から鍵まで閉めてしまった。
今の会話は、白女の生徒会役員の子が、読唇術で二人の会話を傍受(?)した結果だ。何かそれっぽいので、彼女の読唇術の精度は本物かも知れない。
「ああん、貴子様がこっちに気が付いてしまったので、口元が見れなくなってしまいました!」
「ははは、仕方ないよ。あんた達も大変だな」
「いえいえ、大変なことなんてありません! 貴子様のお手伝いが出来るだけで、私達はもう、本望です!! 例え仕事の最中に命を落としても、何の悔いも無いです!!」
「んな大げさな……」
「仕事中に死ぬような生徒会の仕事って?」
和真の疑問も最もだが、それ以前にツッコミ所が万歳過ぎる。
そんな訳で、しばし話をすることになった白女の生徒会役員達だが、しばらく話して分かった事がある。それは、
「私達は、貴子様の為なら死ねます!」
と言う程に、高町さんの事を心酔している様なのである。高町 貴子。彼女は一体何者なのだろう? とりあえず分かっている事は、『生徒会副会長』で『某企業のご令嬢』で『白金台女学院の女王』だと言うことだった。
いや、大層な人に、ほ、ほほほほほほ、惚れられた物である。うん。
そんな阿呆な事を考えていたら、ドアの向こうがバタバタとし始めたのだった。
ガラッ……
「待たせたな、寂しかったか、宮姫ぇっ!!」
「来ると思ったよ、馬鹿タレがぁっ!!」
スッ
ドアが開くと同時に俺に抱き付いてきたバ会長に、腰だめに構えた必殺の中段、『崩拳』を叩き込もうとした。が、そんな俺とバ会長の間に割って入る人影。真っ白な長ランに背中の『不動明王』の刺繍。それだけですぐに誰だか分かる。俺は構えた拳をほどくと、そのまま背中に声をかける。
「遠慮なんて、するとは思えないけど……殺すつもりで殺れ。てか、『殺せ』」
ブオンッ!!
もの凄い風切り音。一瞬俺に目が合った時に、ニカっと言う音が聞こえそうな悪戯小僧みたいな顔をして笑って、
「おうよ、心得た!」
ボグシャアァッ!!!
「はぐぅっ!!!」
鮮やかなまでのローリングソバットが、バ会長の即頭部に突き刺さった。
…………
……
…
えーと、これは本当に死んだかも……
そして、その殺人者は、死体を見下ろして、いや見下して? 次の台詞を穿き捨てた。
「全く、俺がアンタの命令で各委員会の会計報告聞きに行ってれば、アンタは『愛しの宮姫』いや健介にセクハラか? あぁ?」
「ありがとな、遼。でも、程々にしないと、少年院のお世話になるぞ?」
「かはは……上等上等。コイツはナナハンで轢いても死なねぇからでぇじょぶだって」
「まぁ、そうだろうけどさ。……そうなんだけどさ」
この完全に喧嘩上等の特攻服を着たヤンキーは、俺と同学年の、大上 遼。こんななりなので、周りから(こと校外の生徒から)誤解されがちだが、成績は基本的に学年の一〇本指に収まるし、俺と同じ道場の俺の兄弟子に当たる。見れば分かるだろうが、多分師範代の次に強い。
「お前もさ、そんな女みたいな顔してんのが駄目なんだよ。もう少し凛々しい顔しろ凛々しい顔」
「凛々しいって……まぁ頑張るけどさ……」
多分表情の事だと思うのだが、もし仮に真の意味で『顔が悪い』と言っているなら、メスを入れるしかないのでどうしようもない。
この裏表の無い性格もあって、文武両道を体現している彼だからこその校内評価だが、校内では『次期生徒会長にもっとも近い男』と言われている。
「で、その人達は? 見たとこ白女の制服だな?」
「ああ、彼女達は……」
「ご挨拶が遅れました、私白金代女学院の生徒会執行部 生徒会副会長をしております高町 貴子と申します」
「ああ、んじゃアンタが萌絵の行ってた『白金の姫様』か……」
「あら、天川さんの? なるほど……お噂はかねがね」
そして、高町さんの有名人ップリにまた驚くのだった。
後で聞いたら、遼には彼女がいて、その彼女から高町さんの話を聞いていたらしい。まぁ、結局そうやって、全く関係ない筈の遼との会話に上るくらい有名だという事なのは変わらないのだが……ってか、遼彼女いるのか……へぇー、へぇー……
とまぁ、そんなこんなで、廊下で伸びていたバ会長を放置して、そのメンツで『ミルク』でお茶をした。いやぁ、目立った目立った。超絶美人の高町さんに、超絶美形の和真だけでも目立つのに、特攻服の遼に、白女の制服の取り巻きまで居るんだ。目立たない方が可笑しかった。途中合流したバ会長も含めて、もう本当に大騒ぎだ。俺は背中の怖気が、時間を追う毎に徐々に強くなっっていったのが、すごく気になった、すごくすごーく気になった。
で、
「では、うちのクラスの出し物は『メイド喫茶』と言うことで良いですね?」
「うおっしゃーーーーっ! メイド! 健介のメイド! キタコレ! むしろ、キタァァーーーーーーーーッ!!」
と、HR中の教室の真ん中で絶叫しているのは、謙一だ。まぁ、同じクラスなのは見れば分かるだろうが、どうしようもない馬鹿だ。このどうしようもない馬鹿の名前は、天野 謙一・通称アマケン。無類のメイド好きで有名だ。確か由芽崎中央にあるメイド喫茶に週一で通っているとか……あ、それも見れば分かるか。ああ、本当に、死んでくれないかなぁ?
「健介、口に出てるからな、それ」
「ああ、だって聞こえるように言ってんだもん。『ああ、アマケン死んでくれないかなぁ!!』」
もうね、メイド服とかね、着る訳無いよね。
ちなみに和真と同じサッカー部で、俺もたまにカラオケとかに一緒に行ったりもする。二言目には大抵「メイド服を着てくれ」って言う。本当に死んで欲しい。
「健介のメイドさん姿を見たら、多分死にます。いや、絶対死にます。萌え死にます」
そう宣言する謙一。その言葉を聞いて、俺は少しだけ、メイド服を着ても良いかなって思った。それでこの馬鹿が死んでくれるなら、それは喜ばしい事だ。社会の為にもなる気がする。
「なぁ、和真?」
「ん?」
「俺が謙一をメイド服着て萌え殺した場合、殺人罪に問われるかな?」
「いや、無いだろ」
「よしっ!」
和真に確認を取ってみると、予想通りのリアクションが帰ってきた。まず間違いなく罪に問われることは無いようだ。まぁ、実際それで死ぬわけがないのだが、まぁ、気持ちの問題だ。病は気からと言うから、呪いも気からだと思う。頑張って呪殺しよう。うん。
「今、健介『よし』って言ってなかった!?」
「気のせいだよ謙一」
「ああ、その天使の笑顔が眩しい!」
本当は誤魔化す必要も無かったのだが、思わずこぼれた営業スマイルに無駄に反応するアマケン。正直ウザイ。本当に、死んでくれないかなぁ……そんな物騒な考えが浮かぶ午後のひとときだった。
とまぁ、そういう訳で、定期テストも終わり、後は夏休みへの消化試合となった授業を淡々とこなさねばならない他校と違い、我が校は来る『星黎祭』に向けて、各準備が始まっていた。
クラスの模擬店や文化部の発表準備はもちろん、俺は何故か、生徒会から指名された『特別文化祭実行委員』と言うものになっていた。五月から始まった裁判員制度と一緒で、生徒会の指名を断る権限は生徒には無いらしい。流石バ会長、流石宮ノ前生徒会執行部である。理不尽とは、奴らの為にある言葉なのだろうな。いや、この場合子の言葉が適応されるのはバ会長のみなので、訂正する。理不尽とは、奴の為にある言葉なのだろう。そんなしち面倒くさい仕事を俺が黙って引き受ける訳も無く、今日も放課後にある実行委員会会議もブッチする気満々だ。だって、基本的に有志の集まりなんだ。俺にはその志がないんだから参加する必要がないだろ?
さて、今はHR中。つい先ほど、我がクラスの出し物が『メイド喫茶』などという、ふざけた模擬店になったところだ。メイド喫茶と言う物を伝聞でしか知らないが、簡単に言うと、喫茶店の給仕が、西洋の召使い、いわゆる『メイド』のコスチュームを身に着けて、客に応対する店らしい。お客様の事を『ご主人様』と呼び、様々なサービスを提供すると言う事だが……
「なぁ、和真?」
「ん?」
「男のメイド姿なんて、需要はあるのか?」
「……ないだろ、『普通は』」
俺じゃなくても抱くであろう当然の疑問を和真に投げかけると、和真は複雑な表情をして暫く考え込んでから、無難な答えを切り出した。
「『普通は』?」
「お前なら別なんじゃないか? ってか、クラスの奴の大半が、お前のメイド姿に期待してるんじゃないかと思うぞ?」
「…………はぁ」
ゲンナリするが、予想通りの解答を頂いた。まぁ、そういう事だろうな。当然、俺はその要求に応える気は無い。応える義務も義理もない。みな好きにメイドの格好をすると良い。そして、その気色の悪さに、自ら吐き気を催すといいさ。ん? 待てよ。
「ん? 大半って、和真。お前も見たいのか?」
「ん? ああ、えっと……そうだなぁ、うん。見てみたいとは思う」
「そっか」
和真はまた難しい顔をして考え込んでから、そう答えた。そうか、和真も見たいのか……だったら少し着てやってもいいか。そう思った。
あれ?
なんでさ?
「あれ? ため息とかつかないのか?」
「ん? なんで?」
すると、何故か和魔の方が不思議そうに、俺に問いかけて来た。
「いや、『はぁ……お前もか。死ねばいいのに』とか言うもんだと思ってた」
「んー、別に? 和真なら良いかなって思った。何でか分からないけど」
「っっっっっっっ!?」
言われて見れば確かにそうかも知れないが、俺がそっけなくそういうと、和真は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。なんだあいつ? まぁ、いいけどさ。
教室でどんどん細かいことが決まっていく。どうやら、みんなは自分の大切な何かを犠牲にしてでも、俺のメイド姿を見たいらしい。男としてのプライドとか、そういうものだ。まぁ、一部そういう趣味の連中は、そんな風に自己犠牲を主張する連中に賛同しながらも、そわそわしていてそれはそれで気持ち悪かったが……その心意気を買って、俺は文化祭の数日間、メイド服を着るものありかと腹を決めるのだった。
「……はぁ、分かったよ。その期間だけだぞ、絶対に」
「うおっしゃーーーーっ! メイド! 健介のメイド確定! メイド健介生誕キタコレ! むしろ、宮姫メイドキタァァーーーーーーーーッ!!」
女の格好をすることに、抵抗は感じなくなって来ていた。だって、仕事でいやと言うほど着るのだから……
「えぇっ!? 鈴原ちゃん、メイドさんやるの!? 行くね! 絶対行く!!」
雑誌の取材の為に一緒に車で移動中の栞と俺。車の中で文化祭の話をしたら、栞はそんなことを言ってきた。
「いや、今回白女とうちの合同のはずだから、栞も学校のクラスとかで店出すんじゃないかな?」
「うん、だから休憩時間に絶対行くね!」
いつも通りのアホアホ発言ではなかったようだ。いや、別に普段栞が『アホの子』だって言ってるわ訳じゃないよ? でも、なんと言うか、的外れなことを言うことが多いなって、そんな感じの意味だよ?
でも、仮にも女装する俺と、栞が並ぶのは問題なのではなかろうか? ほら、そこに『KALEN』が結成されちゃうんじゃ?
「あ、そだ。栞のクラスは何やるのさ?」
「ん? うちはねぇ、演劇だって! 私はシンデレラ役になっちゃった」
「ヒロインじゃん!」
「ううん、ちょい役」
「………へ?」
「演目はね、『眠れる森の美女』なの」
「いやいやいや………はい?」
「王子の冒険の途中で出てくる、『お姫様軍団』の一人が私」
「えーっと………」
「『オーロラ姫の元へ辿り着きたければ、私に恋をさせて見せなさい!!』って台詞の他に三つくらい?」
「……ごめん、意味が分からない」
「私も」
「でも、あれだね、芸能人への扱い、随分軽いね?」
「特別扱いはしないでって私が言ったからね」
「そっか」
「うん」
そんなくだらない話をしているうちに、そんなことどうでもいいように思えてきた……まぁ、大丈夫だよね、きっと。
さて、最近『KALEN』としての仕事が増えて来たので、栞と行動することが多い。これは当初の目的を果たせているといって良いかも知れないが……
「可憐ちゃん、視線こっち! で、身体は……そうそっち!」
「こ、こうですか?」
「うんうん、良い感じ良い感じ!」
何と言うか、女の格好を……しかも、かなり際どい格好をする事に、どんどん抵抗がなくなっている現実が、何より怖い。クラスの出し物でメイド服を着る事にも抵抗を感じなかった事に、俺は事の外やばさを感じていた。でも、
「詩織ちゃん! いいね! その表情いただき!!」
「はぁーい!」
栞のこの姿を生で間近で見れるのだから、いいか。
……なんて思ってしまう俺だった。はい、分かってまるよ。駄目人間ですよ。はいはい。
「二人とも良かったよ! おつかれさまー」
「「お疲れ様です」」
カメラマンさんに挨拶して、俺達はまた、事務所の車に乗り込む。
バタンッ!
「「はぁ~……」」
滑るように走り出す車の中で、俺と栞は、同時にため息を吐いた。見れば栞は疲れた顔。
「大丈夫? 顔色良くないよ?」
「ありがと。でも、鈴原ちゃんもあんまり良くないよ?」
「ああ、それは別に疲れたとか体調悪いとかじゃないから大丈夫。栞は大丈夫?」
俺の顔色が悪いのは、『今日取った写真を、男共はどんなことに使うのだろうか?』とかいらないことを考えたせいだが、栞がそんな下世話なことを考えるとは思えない。純粋に体調が悪いのではないかと思ったのだったが……
「私も大丈夫。……実はね、今日は生理痛が酷くて……いつもは痛み止めを飲むんだけど、今日はお昼前からずっとでしょ? お薬飲めなかったから……それだけなの。だから大丈夫だよ」
「あ、そっか……な、ならいいんだけど」
自ら地雷を踏んでしまった様だ。栞は『例の誤解』のせいで俺を女だと思っているので、普段は『男』然として扱ってくれるのだが、最近は一緒にいることも多いせいか、こうした『女特有』のネタも飛び出すようになって、俺は内心ドキドキだ。どうリアクションしたものか分からなくなるのだ。
栞的には『いいなぁ、鈴原ちゃんは軽いんだ』と言う解釈らしい。まぁ、それで、いいか。本当はよくないけど、いろいろ踏み込んでボロが出ても困るし……今更『実はそれは誤解だよ』なんて言えるわけないし……歌の歌詞なんかでよく出てくるが、『近くて遠い』とはまさにこの事だと思う。
「鈴原ちゃんは? 大丈夫?」
「ああ、俺はさ」
「うん?」
どうした物かと一瞬考えたが、別に隠すことでもないと思って、ぶっちゃける事にする。
「今日さ、色々際どい写真とか撮ったじゃん?」
「うん? 際どいって?」
「何かこう……色っぽい? セクシーな写真とか」
「ああ、うん、そだね! なんか鈴原ちゃん『エロかっこよかった 』よ!」
「あ、ああ、うん、ありがとう。……えっと、でね? それを見る読者さん、特に男性ファンは、その写真をどんなことに使うのかなぁって考えたらさ、ちょっとね……」
再び考えただけで、サブイボが……でも、そこはイノセントなエンジェルたる栞だ。
「え? どんな風にって、見て『可愛いなぁ』っとか『エロかっこいいな』て思うんじゃないかな?」
とか首をかしげていた。
うん、栞にはそのままでいて欲しいな。そう、本気で思った。
でも、アレだよな。
「でも、高町さん何考えてるんだろ?」
「うん?」
「ほら、俺の学校と白女とで一緒に文化祭なんてさ……」
「ああ、それはさ……あっ!?」
「うん? 栞なんか知ってる?」
「ううん、知らないよ。知らない。別に何にも知らないから気にしないで」
「ああ、う、うん」
栞、それは知ってるって言ってるのと一緒なんだよ? 高町さんは何を考えてるんだろうって思ったけど、実はそう思ってるのって、俺と和真だけなのかも知れない。でも、可愛いから赦す。そう思った俺は、多分どうしようもない馬鹿なんだと思う。