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『アイドル』は男の子?

  序章 『アイドル』は男の子?


 さて、皆さんこんにちは。鈴原 健介、十五歳です。

 皆さん如何お過ごしでしょうか? 俺はいつも通り、気ままにのんびり過ごして……居たかったです。

 居たかった。という過去形を使わなければならないのは、もちろん理由があります。ほんの数日前までは、本当にのんびり気ままな日々でしたよ? 部活にも入ってなかったし、委員会の仕事も無かったし、勉強とバイトだけやってる日々でしたよ? でも、先日のアイドルオーディション以降、俺の人生は劇的に、それはもう劇的に変化したのです。正に『劇的ビフォアーアフター』です。

 そう、この俺鈴原 健介は、芸能界に流星の様に現れた美少女アイドルデュオ『KALEN』の『珠洲宮 可憐』として、超過密な超多忙な日々を送っていたりするのであった!! なんて言ってみたりして?

 まぁ、

「お前さ、CD買ったか?」

「買った買った! 『KALEN』……いいよなぁ……知ってるか? 『詩織』って白女の生徒らしいぜ!」

「マジか!?」

 最近はクラスもその話題で持ちきりである。『KALEN』のもう一人のメンバー、俺のパートナー『詩織』とは、俺の友人で、俺が大絶賛片思い中の音梨 栞の事で、

「栞がデビューするとはなぁ……」

「や、あの子可愛いし、歌が凄く上手かったから……別に驚きはしないけどさ」

「そうかぁ? そんな目立ちたがりには見えなかったけどなぁ……」

「アイドルって言うのが目立ちたがりって……お前それ偏見だぞ?」

「そうか?」

 とまぁ、和真と俺もその話をしている訳だ。

 あのオーディション、思った以上に知名度が高くて、その話題は一気に世間を駆け抜けた。グランプリと特別賞のコンビがアイドルデュオと言う事で、その話題性も高く、専門家の話では音楽的な完成度も非常に高いらしい。大した物だ。うん。もう俺にとってはまるで他人事である。……いや、全力で当事者なのだが。

 ちなみにだ、今俺達がいるのは私立宮ノ前高校の一年D組の教室だ。更に言うなら、うちの学校は、何を隠そう、いや隠していないが男子校だ。

 ……そうですね。おかしいですよね。分かっていると思うけど、俺もこの学校の生徒ですよ? 何でって、受験に失敗したんだよ、悪いか? とまぁ、そんな事はいいとして、『男子校の生徒が美少女アイドル?』って話ですよね。はい。そうですよね。分かります。分かりますよ? おかしいと思いますよね? そりゃそうだ。俺だっておかしいと思うもん。それには深い深い事情がある訳ですよ。説明するのには相当の時間がかかるので省略しますが、まぁ、つまりは『俺が可憐である事』は絶対にばれてはいけない秘密なわけだ。うん。

「なぁ?」

「ん?」

 そして、当然俺の目の前で外を眺めている親友の和真にも、この秘密は絶対にばれちゃいけない訳だ。

 その和真は窓の外を眺めながら、ぼそりと俺に声をかけて来た。自然その視線を俺も追う形ななった訳で、

「んん?」

「たはは、だよな」

 校庭の真ん中に出来た人だかりに、俺は固まるしかなかった。何だ、アレは? まるで、落ちた飴玉にたかる蟻だ。そんな兵隊蟻の様に『何か』に群がる人人人……良く見れば、他校の生徒も混ざっているのではないだろうか?

「で、あれな」

「ん? ……んなぁっ!?」

 その人だかりの中心には、黒髪ロングを靡かせる、ものすんごい美人。それと、その美人を取り巻く様に可愛い女の子が数人立っていた。そりゃこの状況も頷ける。掃き溜めに鶴とは正にこの事だろう。いや、『掃き溜めに鶴の群れ』か? むさ苦しい男子校に、あんな美人軍団が現れれば、そりゃ生徒みんなが飴に群がる兵隊蟻になるってもんだ。しかし、その美人は、困った事に俺の知り合いで、

「高町さん!?」

「だよな、俺の見間違いじゃないよな?」

 椅子を蹴飛ばす様に立ち上がって駆け出す俺に、和真もしっかり付いて来ていた。

 俺が駆け出した理由。それは、……目が合った高町さんが、俺に向かって微笑んで手招きをしていたからだった。




 一体、何を考えているのか? そんなもの分かる訳ないが、そんなの会って話せば済む事だ。だから俺が優先するべきは、彼女の元へ急ぐ事。そんな訳で、出てすぐの廊下の窓枠を蹴る。

 ヒュッ!

 一瞬の浮遊感。後に押し寄せる大きな加速と強い空気抵抗。あ、ちなみにここは地上三階だ。

 タンッ!

 ビュンッ!

 そのすぐ後に、後方から和真が壁を蹴る音がして、俺の横を俺より早い速度で通り抜ける。というか落下していく。

 ダンッ!

 そして、三階という高さなど全く感じさせないすばらしい身のこなしで一足先に着地すると、

 ポスッ!

「っと……予告無く跳ぶなよ健介。あぶねえだろ?」

「頼んでないだろ。別に俺だって着地出来る!」

 お節介にも、地上で俺を受け止めるのだった。俗に言うお姫様抱っこの状態になるので、俺はこの一連の流れが余り好きじゃないのだが、今は急いでいるのでしょうがない。この一連の流れは購買部に向かう時の最速ルートだったりする。ので、着地点にいた人達も、あまり驚きはしない。まぁ、いつもの事だからな。ちなみに良い子の皆さんは絶対に真似をしないように!

「下ろせって!」

「あ、わりぃ」

 いつまでも俺を抱えたままの和真に文句を言って、俺は地面にやっと足がつく。

「行くぞ!」

「はいはい……」

 そんな和真の腕を振り切って、俺は駆け出す。後に続く和真。すぐに校庭の人だかりが見えてくる。

「あ、鈴原さん!」

 バッ!

 高町さんの嬉しそうな声に、人だかりの全ての目が俺に向いた気がする。正直ちょっと怖い。

「どうも、高町さん」

 ザッ!

 でも、俺がそう言って近づいていくと、モーセの十戒のごとく二つに割れる人垣。正直気持ち悪い。

「にししし……」

 和真が面白そうに笑う。はぁ……鬱陶しい。通り過ぎると、若干頬を赤らめる奴が数名。そのまま体温を上げ過ぎて死んでくれないだろうか? なんて真剣に思う。

「お前のファン、どんどん増えてるのな?」

「うっさいよ、和真」

「あははは……」

 人垣で出来た花道を、そんな小声の会話を交わしながら歩いている内に、目の前に高町さん。

「で、今日はどうしたのさ?」

 まずこれだけは聞かなければならないと思っていた質問を投げかけた俺に、

「鈴原さん、御手洗さん、こんにちは」

「あ、ああ、はい、こんにちは」

「ちっす」

 その質問を無視して、しっかりにこやかに、そして華やかな笑顔と共に挨拶を返す高町さんは、流石だと思う。まぁ、こんなのいつも通りなんだけどさ。

「じゃなくて、どうしたのさ、こんな所に来て?」

「あ、はい。生徒会の仕事で来たのですが……校門を抜けて歩いていたら、いつの間にか黒山の人だかりに……」

「あはは……男子校に、高町さんみたいな美人が来れば、当然かもな」

「美人だ何て! はぁ……どうしましょう、胸の動悸が……」

「大丈夫ですか!? お姉さま!!」

「今、お水を!!」

 俺のくだらない冗談を真に受けて、照れる高町さんになんだか大げさなリアクションをする美少女軍団。なんだこれ? 何のコントだ?

「この子らって、高町の取り巻き?」

「和真さん、取り巻きは失礼です。この子達は生徒会の役員達です」

 不躾な事を口走る和真に、敵意を露わにする美少女軍団改め白金台生徒会執行部の皆さん。あ、でも珍しいよな、和真に対して頬染めない女子って…………っけ、美形顔がそんなにいいのか、畜生め。

「へぇ……で、高町は?」

「私ですか? 今は生徒会副会長ですね……」

「あ、そうなん?」

「貴子様は、次期生徒会長ですよ!」

「ふぅん……」

 高町さんの返答に、熱っぽく付け加える白金台生徒会執行部員Aさん。なんか、この子のテンション、俺に告白に来る男子連中と近いものを感じるんですけど……と、少々引き気味になる。でもあれか、高町さんに関する情報が手に入ったのはやっぱり嬉しいかもな。

 ふむ、高町さんは生徒会役員さんで、彼女達は取り巻き兼生徒会役員の皆さんな訳だ。それは分かった。

「で、その生徒会役員さん達が、一体うちの学校に何の用なのさ?」

「それはですねぇ~……」

 いつも通りの彼女のペースで進む、のんびりムードの会話。まぁ、最早慣れたので、別に構わないのだが、

「とりあえずさ、いつまでも校庭のど真ん中でこの状況は、流石に運動部の部活組に迷惑だ」

「そうですね、私としたことが……鈴原さん、生徒会室に案内して頂けますか?」

「あ、うい。了解です」

 和真の言い分はもっともだった。いつまでも、どこぞのVIPを歓迎する親善大使達的な状況はねぇ? そんな訳で、俺は白金台女学院の生徒会執行部の皆さんを、本校の生徒会室に案内する事と相成ったのだった。


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