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小夜は、二メートルほどの木々の中にいた。地面は緩やかではあるが斜面である。太陽のような星が空にはあった。それは木々の枝に遮られることはなかったが天気は曇りだったため、なんとかその存在と光源であることを確認できるくらいだった。
さて、どうしましょうか?うーん、あたしサバイバル能力ないんだけど。まあ、異世界トリップっていうのも確かなものじゃないしね。町、村ぐらい見つけなきゃ、か。
おっけ、こっちでも死ぬのは嫌だからね。
食べるものはない。水もまだ確保できてない。身一つか……
周囲はどうやら森というよりは山だね。この辺の木はあまり高くない。ちらほら膝ぐらいの低い木が見える。もう少し上がると、視界を遮るような木はなくなりそう。
自分の体に変化は……?待って。わたし眼鏡かけてない。というか、なくなっている。でも視界はクリア。ふむ、これは助かった。眼鏡なんて壊れやすいもの、この先ずっと持っておくなんて無理そうだからほんとに嬉しい。他には、ことばとか理解できれば助かるんだけど。
うん、せっかくだし水がある所を探しつつ、少し上がってみよう。これが、今私が考えられる最良の道かな。
周りを観察しつつ、上へと歩を進める。水源は見つからない。けれど、木はどんどん低くなっていく。とりあえず見晴らしのいい場所には行けそう。よかった。
空は、相変わらず曇り空で雨が降りそうだった。日は高いのだろうが、あたりは薄暗く不安がちらつく。
少し風が冷たく感じる。半袖の今、それが気になってきた。この世界は、どれだけわたしの世界と違うのかわからないけど、夜になるともっと寒くなりそう。間近に身の危険が迫っていることに焦る。夜になるまえにせめて寝床と火は確保しなきゃ。って、火のおこしかたなんて知らないんだけど。
途中、生き物に出会うことはなく、いつしか、視界は開けてきた。頂上まで行くのには少し時間がかかりそう。
後ろを振り返る……
「うわぁぁ」
なかなか見事な大自然!でも、運は悪くないみたい。緑でない場所もあった。盆地に町があった。両サイドを山に囲まれ、その先、町の向こう側は海だろう。たぶんそうと思えるぐらいの青が広がっている。ゲームの中ならきっと地方の町の一つといった感じ。色合い的に石造りの町並みなだろう。それほど遠くはなさそう。その横には川が流れているのが確認できる。あの川に沿って下りれば町につけるだろう。
幸先いい。無事に街にたどり着けても安全ってわけじゃないけど、それでも山の中よりはましでしょう。
声を出したことで、思いの外のどが渇いていたことが分かった。動物には出会わなかったけど、もし襲われていたら。ここが異世界なら、魔物みたいなのだっているかもしれない。きっと、命を狙われたらひとたまりもないだろう。自分でも思っていたより緊張していたみたい。町が見つかったことに酷く安心した。
気が付いたら、自分が微笑んでいることに気が付く。生きるのに必死って感じで気持ちいい。自分が不安定な状況であるのは、分かっているのだけどやっぱり、ね、不謹慎にもワクワクしてしまう。
不安とへんな高揚感に包まれながら小夜は不気味に笑った。