この話は夢オチだ。
最初に言っておかなければならないことがある。
この話は夢オチだ。
最初に言っておかなければならないことがある。
この話は夢オチだ。
まず、眠りについたオレが最初にいたのは、
金曜夕方の教室だった。
中学校時代の面々が懐かしい顔ぶれで(といいつつ主要なメンバー以外はおぼろげ)
放課後の教室でわいわいと雰囲気を楽しんでいる様子だった。
そして、気づくのだ。
もやというか、人も壁も机も黒板に書かれた文字すらも輪郭が曖昧であることに。
そこで思った。
ああ、これは夢のなかか。
夢を実感することは少なくなかったが、
その夢の中で自由に動くことができるのは久しぶりだった。
まあ、気軽に楽しもう。
そんな風に思って、なんとなく当時の雰囲気を思い出すべく、かばんを持たずに
体育館へ向かった。向かうべきと思ったのだ。(不自然な点)
すれ違う生徒一人ひとりの中で、記憶に刻まれた子の表情は明るく、(不自然な点)
うすぼんやりとしか印象に残っていない生徒の顔ははっきりとは読み取れない。
体育館の建物の1階に更衣室と柔道などで使用する小体育館があり、
2階がバスケットフルコートが入る大きな体育館になっている。
1階の更衣室で畳んでおいてあった(不自然な点)名入りのジャージに着替えて
バスケ部(当時同期はオレを入れて4人だった)の面々と軽く試合形式で遊んだ。
ところで、この話、どこまでが決められた夢で、どこからがオレのオリジナルの行動なんだろう?
ふとした時に、「これは夢である」事実に気づいたオレは、
そろそろ起きてもいいんじゃないかと思い始める。
そして、目を覚ます努力をする。(不自然な点)
目が覚めると、見知らぬコンサートホール1階の座席の上だった。
後ろの同級生(もちろん先ほどの中学生だったが)が男子で、オレをゆすって起こしたようだ。
隣に座っていたであろう子も居ない。
会場全体が慌ただしく、コンサート自体も行われてはいない。
ただ、感覚的に先ほどまで夢で見ていた日付の次の日であることはわかった。
そして、後ろの男子生徒から、「一緒に帰ろう」と言われた。
だいたい、このあたりで、「これも夢だ」ということに気がついた。
ついでなので、夢の中でぐらいは楽しい事になっていればよかったのに、と思ったのだが、
口に出たのは意外な言葉だった。
「お前は隣に好きな子と並んで座れてよかったじゃないか」
自分で自分の発言を不審に思うのは、明晰夢ではよくあることで、
意図や思考とは関わらずある程度自分の行動も自動化されているものだ。
そこで、いくつかの疑問が生じた。
・さっきまでの金曜の放課後の夢から目覚めたはずなのに、どうして夢のなかなのか
・今はさっきの金曜から比べて未来であるようだが、いつなのか
・「お前は」好きな子と並んで座れて…ということは自分の隣は誰だったのか?
そこで、友人に聞くと、不審がられつつも答えてくれた。
「今」は土曜日。
学校行事でコンサートを聞きにホールへ来たこと。
自由な席順だったはずなのに、オレはとなりに誰も座らせなかったこと。
コンサートがはじまった直後にオレが寝てしまったということ。
そして、明晰夢ならではのむちゃくちゃ理論を思いつき、
どうせならハッピーなひとときを過ごしたいと思い立った。
つまり、
もう一度眠りについて、「昨日」の金曜日に行き、
金曜の放課後に愛しのあの子を誘って隣に座らせようじゃないか、と。
どうせ「今」も夢のなかなのだ、気にすることはないと腹をくくり、
再び席に戻って眠りにつく。
「なにやってんだ?」みたいな感じで不審に思われた友人を
放っておいてすぐに眠りに付くことが出来た。
目が覚めたら教室だった。
成功した、と思った。
黒板に書かれた日付は、予想通り、「昨日」の金曜日だった。
まず気になったのは、何度も金曜日を繰り返すことができるのか?
ということ。
つまり、失敗が許されるのか否か、男の子としての一大ミッションなのだ。失敗は許されない。
だが、これは明析夢だ。
失敗して、再度繰り返して、という、「あり得ない」があり得るかもしれない。
だが、確証はない。
本当にオレが目覚めてしまうかもしれないからだ。
チャンスは何度も訪れるとは限らない。
冷静に、「さっきの金曜日」の行動を分析し、
愛しのあの子(じゃあ、今回は「燕ちゃん」と呼ぶことにする)に隣の席に座ってもらわねば!!
まず、教室を見渡す。
燕ちゃんは居ない。
燕ちゃんと仲のよかった子を見つけて声をかけると、部活に行ったという。
燕ちゃんの部活はバトミントン部だ。(バレー部だったかな?)
とにかく、体育館へ向かわねばならない。
体育館についたとき、ふと、気づいた。
さっきは「体育館へいかなければならない」と思って行ったが、
今回は燕ちゃんを探しているのだ。
このまま体育館へ向かっていいものだろうか?
さきほどの夢の強制力によって、またバスケ部の活動を行って
悲劇のコンサートを迎えはしないだろうか?
だが、燕ちゃんの友人は、体育館へ向かったと言っていた。
目的を履き違えてはならない。
今度はバスケをやりに行くのではなく、燕ちゃんに声をかけるのだ。
まず、体育館の建物についてから1階の更衣室に入ろうとしてやめた。
予め準備されていた更衣室に置いてあったジャージ。
あれは不自然だったので、関わらないことで違うルートに行けるのではないか、と思ったのだ。
女子更衣室から声が聴こえる様子もない。
着替えること無く2階の体育館へ。
居ない。
バスケ部の面々から声をかけられるが無視する。
入れ違いになったか?それともなにか条件を満たしてないのか?
やばい。
目の覚める感覚。
目覚めてしまう………。
後ろの席に座ってた友人に起こされ、辺りを見渡すとコンサートホール。
みんなが帰る準備をしていた。
あー、失敗したー…。
もちろん隣には誰も座っていなかった。
ダメもとでリトライしようとするが眠れない。
しかたなく、帰りの電車に揺られ、友達の話を聞きながら吊革につかまったときに
フッ・・・と意識が飛んだ。
辺りを見渡せば、「昨日」の金曜日の放課後。
ラストチャンスを確信した。
まず、体育館に向かっても、燕ちゃんには会えない。
教室にも居ない。
すると残された選択肢はどこか。
燕ちゃんの友人は言っていた、「部活に行った」と。
だが、体育館には居なかった。
どこだ?燕ちゃんはどこにいる?
この輪郭のぼやけた世界の中で、オレは燕ちゃんを探すことができるのか?
やるしかない。
使命感みたいなものが胸にたぎっている。
眠りについてから相当な時間が経っているはずである。
いつ起きてもおかしくない。
残り時間は決して多くないのだ。
そこで改めて燕ちゃんの友人のセリフを思い出す。
「部活に行った」
部活にいった。
体育館に行った、とは言っていない。
部活、どこだ?
兼部している演劇部かッ!!!
校舎4階の視聴覚室に向かう途中の階段の踊り場で燕ちゃん発見!
燕ちゃんは友人・後輩と仲良く談笑中。
恥も外聞もない!
行くしか無い!!
「燕ちゃん!!明日、一緒にコンサート聞こうぜー!」
と、驚いた顔で振り返った燕ちゃんの、ふわりと舞い上がるスカートが印象的で。
踊り場の窓から差す陽の光が明るくて。
すごく綺麗だ。
その時、どんなお返事をもらえたのか、
最も大事な記憶が抜けている。
もしかしたらその部分だけ夢の中ですら返事は聞けていないのかも知れない。
気づけば、コンサートが終わったあと。
わけもわからず、みんなに合わせて拍手を舞台上の演奏者たちに送るオレと。
となりで、にへら~っと笑っていた燕ちゃんの表情を久しぶりに見ることが出来たこと。
それが単純に良かったな、と思えた。
最後に言っておかなければならないことがある。
この話は夢オチだ。
よく出来た話でしょ?
これ、久しぶりに自信作の実話ですぜ。
夢の中でそんなにしっかり覚えているもんなの?って思う方が多々いらっしゃるでしょーが、
覚えてるんですよね。あたくし、子供の時から夢をしっかり覚えているんです。
多少の誇張表現は、演出上面白くするために書き加えたところもありますが、
シナリオは夢のなかをそのまま表現しました。
面白かった?
オレも久しぶりに夢の中でがちゃがちゃやって疲れたよー(´ω`)