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あやかしと人が住む世界③

読んでいただいてありがとうございます。

 路面電車の窓の外では、無人のバイクが走り、自動車と牛車が並行して走っていた。

 普通に考えると、動力が機械と牛では速度が違いすぎるのて平行に走れるのってどうなのだろうと思ったのだが、ここでは人の世界で学んだ常識は通用しないので、これはこれでそういうものだと納得している。

 たまーに、交通事故的なことも起きているのだが、本体たちのお話し合いは、最終的にスピード対決になることが多いらしい。その後は、お決まりで酒場で飲み明かしているようだ。どの世界でも、友情の育まれ方は青春のようだ。実年齢はともかく。


「依織、おはよう」

「桜さん、おはようございます」


 にこにこと笑顔で依織のもとへ来たのは、桜という名の二十代くらいの人間の女性だった。

 桜は、依織が生まれた時代より前の時代を生きた女性だった。

 彼女は、落ちて来た先のこの世界で伴侶に出会い、今は幸せに暮らしている。

 あやかしの伴侶になった人間は、そのあやかしの命の長さに沿うことになるので、見た目以上に年齢を重ねていることが多い。

 桜もすでに三桁の年齢に達していいるらしいのだが、見た目は落ち着いた感じの女性だ。

 出会った時はまだ子供だった依織のことを、同じ日本から来た人間として気にかけてくれている。


「仕事はどうかしら?」

「楽しいです。遠くに行くこともありますが、ちょっとした旅行気分になれますし」

「ふふ、よかったわ」


 依織が勤める『手紙屋』は、文字通り手紙を運ぶのが仕事だ。

 近くでも遠くでも、何処へでも運ぶ。

 あやかしたちの世界である以上、種族によっては海中で暮らすものたちもいれば、火山の近くで暮らすものたちもいる。

 あやかしからあやかしへ、人から人へ、そして、あやかしから人へ、人からあやかしへ。

 多少、値は張るが、手紙にこだわるものたちは多い。

 通信という意味では、種族によっては念話を飛ばせるし、落ち人がもたらした携帯電話を元に作ったこっち産の携帯電話もそれなりに普及しているが、手紙の方が優雅で情緒があるという理由で好まれている。

 寿命が長いので気長に待つことが出来るということもあるが、携帯電話は種族的に使いづらいモノたちもいるので、主に使うのは依織たち人間ばかりだ。長い寿命を持つモノたちの中には、百年や二百年くらいなら平気で音信不通のモノたちもいる。

 一方、手紙の場合、ある程度の住所や種族しか分からなくても手紙屋に頼めば、何とか届けてくれる。相手が亡くなっていたりした場合は、そのことも教えてくれる。

 日本のように気軽には送れないけれど、だからこそ、本当の意味で大切な手紙を送るのだ。

 依織は、何度か遠くの街に行ったことがあるが、どの街もそれぞれ違った趣があって楽しかった。


「桜さんは、他の街に行ったことはありますか?」

「旅行には何度かね。有名な観光場所には行ったわ」


 そう言って、桜は携帯電話の中の写真を見せてくれた。

 桜は、携帯電話などない時代から来た人間だ。けれど、そういう時代の人間たちは新しい物に興味津々で、今では当たり前のように携帯電話を使っている。

 

「これは楼蘭にある噴水よ。タイルの彩りが綺麗だったから、思わず撮っちゃった」

「こんな場所、ありましたっけ?」


 依織も楼蘭に行ったことはあるのに、この噴水に見覚えがない。


「うふふ、実はこれ、宿屋の中庭にある隠れた名所なの。これが見たくて、ちょっとお高い宿に泊まったのよ」

「うらやましいです!」


 依織は仕事で行ったので、手紙屋が提携している宿屋にしか泊まったことがない。そこはごく一般的な宿屋なので、中庭なんてない。


「依織も今度、ゆっくり回って来たら?」

「そうしようかなぁ」


 仕事柄、外には出るが、プライベートではこの街から出たことはない。

 ここは思い切って、行ってみるのもいいかもしれない。


「行くなら、二泊三日くらいは行きたいです」

「いいわね。それなら楼蘭より、桃源の方が面白いわよ」

「桃源ですかー。行ったことないですね」


 桃源は楼蘭よりさらに遠い場所にある街で、酒が有名な街だ。


「桃源のお酒は絶品よ」

「飲めない私にはあまり関係のない話ですが、文香さんも最高だと言っていました」


 文香は依織の上司に当たる女性で、酒を飲んでいても酔っ払っているところを見たことがない。

 けれど、無類の酒好きではある。


「文香ちゃんなら、片っ端から買って来てって言いそう」

「何か、私が飲みそうって思われて嫌ですね」


 空間拡張型の袋があるとはいえ、たくさん買ったら絶対おかしな目で見られる。

 こんな子供が……?とか思われたら、警備が来てさらに面倒くさくなりそうだ。


「素直におつかいですって言ったら納得されるわよ」

「それも複雑な気分になります」


 大人っぽい女性が多い中、自分が子供っぽい自覚はあるので、依織は素直に嘆いたのだった。



 

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