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あやかしと人が住む世界②

読んでいただいてありがとうございます。

 住んでいるモノたちが多種多様なので、当然歩いているモノたちの服装もバラエティに富んでいる。

 依織のように洋服を着ているのモノもいれば、着物を着ているモノもいる。

 さらには、映画やテレビでしか見たことがないような西洋風のドレスだったり、そもそも種族的に服をちゃんと着られないので破いて着ているモノとか、こちらも多種多様だ。

 一応、何となくちゃんと隠すべきところは隠しているので、目を背けるような素っ裸とかはいない。

 

「イオリ、おはよう」

「おはようございます、アイシャさん」


 路面電車に乗るために駅に向かっていた依織に声をかけてくれたのは、アラビアンナイトに出てくるような服を着た女性だった。

 あやかし、と単語だけで依織は最初、和風のあやかしばかり住んでいると思っていたが、案外そうでもなくて、この国には、西洋も中華も日本もごちゃ混ぜで、多くの種族が住んでいる。

 東洋風の龍もいれば西洋風のドラゴンもいるし、人間だって様々な人種が住んでいる。

 アイシャは、すでにこの国に住んで二十年ほどになる女性で、砂漠の国出身の人間だ。

 近所に住んでいるので、ここに来たばかりの頃からずっと気にかけてくれている。


「はい、これどうぞ」


 アイシャがくれたのは、クッキーの缶だった。


「見たことないですけど、これ、どこのやつですか?」

「ふふふ、何と、楼蘭のお店のクッキーよ。ジンのお土産よ」


 楼蘭、というのは、ここからちょっと離れた場所にある都市の名前だ。

 依織が住んでいる都市の名前は、皓月。

 その名前の通り、白く光る月が美しく見える都市だ。

 皓月と楼蘭とは、列車の線路が繋がっているので行き来はしやすいが、それでも、五時間ほどはかかる。


「うわー、そんな貴重な物、もらっちゃっていいんですか?」

「もちろん。ジンってば、好きなだけ食って、残りは誰かにあげればいいとか言って、たくさん持って来たの。どう考えても配る前提の数なのに、素直じゃないわよねぇ」


 アイシャが、ころころと笑った。

 ジンは、ちょっとぶっきらぼうと言うか、天の邪鬼と言うか……、種族は別に天の邪鬼ではないのだけれど、素直に慣れない不器用な男なのだ。

 誰が見てもアイシャに惚れているのに、未だに付き合っていない。すでに周囲はやきもきを通り超して、少々呆れ気味だ。

 

「ありがとうござざいます」

「今日のおやつにでも食べてね」

「はい」


 依織は素直にうなずくと、アイシャと別れて乗り場へとやって来た。

 路面電車は蒸気機関車なので、今は慣れたけれど、最初の頃はテレビでしか見たことのない蒸気機関車に感動していた。

 といっても、ここはあやかしの国。

 蒸気機関車には、一台一台それぞれに付喪神が宿っている。

 動力は魔力になるので、石炭などの燃料を燃やす必要がない、大変環境に良い乗り物だ。

 本来なら煙も出さないはずなのだが、ここの蒸気機関車たちはちゃんと煙が出ている。

 煙がないと蒸気機関車じゃねぇ! というのが、蒸気機関車の付喪神たちの主張だ。

 アイデンティティなら仕方がない。

 しばらく駅で待っていると、客車を連結した蒸気機関車がやって来た。


「おはようございます、五一さん」

「おう、おはよう、依織」


 かの有名な蒸気機関車の付喪神の五一は、本体は蒸気機関車だが、分離した意識体が人型を取って車掌をしている。客観的に自分=蒸気機関車の姿を見られるので、常々、蒸気機関車って格好良いよな、とうっとりしている付喪神だ。

 名前もそのままなのは、自分自身に誇りを持っているから。

 兄弟たちもそのままの名前で、今はこの国の鉄道を自由自在に走っている。

 レールの上を走ることこそ電車の存在意義、らしいので、基本的にはレールの上を走っているが、そこはあやかしなので、その気になればどこでも走れるらしい。けれど、煙と一緒で本人たちの気分的に、何か違うし気持ち悪いから、という理由でレールの上しか走らない。客車も引いているからそっちの方が安全なので、人間の身としては有難い。

 五一は、見た目は爽やかな青年の姿を取っている。

 本体の蒸気機関車から離れてもそれなりに活動出来るので、よく鉄道仲間たちと酒場で盛り上がっている姿を見かける。

 こちらに落ちて来た人間の中に、鉄道が大好きな青年がいて、彼が一番の親友と豪語している。


「お、それはジンの楼蘭土産だな」

「五一さんもアイシャさんにもらったんですか?」

「いーや、俺は昨日、酒場でジンもらった。あいつ、どんだけ買って来たのか知らないけど、その時、酒場にいたやつら全員に配ってたぞ」

「アイシャさんは大量にもらったって」

「あー、どうせ、あれだろ?アイシャがちょっと食べたいとか言ったのを、どこかで聞いたんじゃないか?」

「買い過ぎですよね。アイシャさんだけに渡した方が、特別感が出るのに……」

「アイシャだけに買って来た、って思われるのが恥ずかしいんだろ。せっかくのチャンスだったのに」

「ですよねー」


 五一は依織が手に持っているクッキーの缶を見て、友人の不器用さに苦笑した。

 

「いつになったら、素直になるんだか。さ、ジンの事は放っておいて、出発するから乗ってくれ」

「はい」


 客車の方に移動して席に座ると、汽笛の音が鳴ってゆっくりと列車が動き出したのだった。



 


 

 


 

 





 

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