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恋愛クソ雑魚隠キャの僕が、あなたを好きになりました。  作者: サイトウ純蒼
last episode

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last episode1-5「     」

(霞ヶ原、霞ヶ原っ!!!)


 僕は雨が降りつける夜の森をひとり走った。頭の中には真奈の顔、怪談を聞いて怖そうな表情を浮かべた彼女の顔が浮かぶ。



「あっ」


 そんな僕の目に前方から誰かが走って来るのが映る。


「ぁああああ!!」


 それは残念ながら真奈ではなく、僕と同じ黒髪の男子高生・三上廉太郎であった。僕は取り乱した様子の彼の肩を掴み大声で言う。



「霞ヶ原は!? 霞ヶ原はどこにいるんだ!!!」


 一緒に行ったはず。真奈とペアで肝試しに向かったはず。なぜ彼がひとりで戻って来ている? なぜこんなに取り乱している!?



「ダメだ、ダメだ、ここ!! 出るぅ、出るんだよぉおお!!!」


 廉太郎は半ば半狂乱になりながら逃げるように駆け出していく。


(何が起こった!? 一体何が……)




「大丈夫ですかーーーっ!!!」


 肩で息をする僕に後方から男の声が掛けられる。手に傘を持った男性。どうやら肝試しに入った参加者を探しに来た運営スタッフのようだ。男性が言う。


「さっきの彼は大丈夫でしたかね。傘を渡しましたが、よっぽど雷が怖かったのでしょう。あなたも友達を探しに?」


 僕が頷いて答える。


「は、はい。僕の大切な人がこの先に……」


「彼のペアの子がいるはずです。早く探して僕らも戻りましょう」


「はい……」


 そう答えた僕らに近付いて来る白い服を着た女の姿。真っ暗な夜の森。振りつける雨。ゴロゴロとなる雷。僕は一瞬驚いたが、やがてそれが見慣れた先輩の姿だと分かり安堵する。



「ララ先輩!!」


 そう、それはミカが仕組んでおいた仕掛けを実行するララ。彼女もこの状況で慌てて戻ってきたようだ。


「わ~ん、助かった~」


 ずぶ濡れ。僕は自分の為にここまでやってくれた先輩に心から申し訳なく思い、そして感謝した。男性スタッフが傘を差し出して言う。



「よし! これで全員確保だ。さ、戻ろう!!」


(え?)


 僕は固まった。

 廉太郎のペアはララではない。霞ヶ原真奈だ。まだ彼女はこの先にいる。



「ま、まだ来ていない人が……」


「そんなことないよ! これで最後。さあ、早く戻るよ!!」


「ごめんなさい!!」


 僕は雨の中、ひとり森の中へと入って行く。



「あっ、こら! 君っ!!!」


 男性スタッフはそう声を出すものの、ララ保護の為に追っては来られない。僕は再び全力で森の中を駆け出した。






(寒い、怖い、助けて……)


 ひとり残された真奈は蹲ったまま涙を流し続けていた。強くなる雨。夏なのだが、夜の山で雨に打たれ続ければ体温も低下する。それに拍車をかける心の不安。孤独。今、彼女は恐怖によってがんじがらめにされていた。


「帰らなきゃ、でも足が……」


 力なく立ち上がろうとする真奈。どうしてこんなに足に力が入らないのか。すぐに崩れるように跪く。涙。恐怖。寒さで体の震えが止まらない。暗き地面を見つめながら真奈がつぶやく。



「神崎君、助けて……」


 こんな時に真っ先に浮かぶ彼の顔。会いたい。顔が見たい。近くにいて欲しい。ずっとそばにいて欲しい。真奈が顔を上げて再びつぶやく。


「神崎、君……」




「霞ヶ原ーーーーーーーっ!!!!」



「え?」


 雨が振りつける中、確かに聞いた。彼の声、神崎総士郎の声を。



 ガバッ!!!


 瞬間、真奈の体が誰かに抱きしめられた。そして耳元で優しい声が聞こえた。




「大丈夫。大丈夫だから」



(あっ……)


 真奈の体の力が抜けていく。

 そう、これはずっと昔に経験したあの時と同じ感覚。



「神崎君……」


「うん、もう大丈夫」


 幼い頃、遊園地で迷子になりひとり恐怖と戦っていたあの時。涙が止まらない自分を優しく抱きしめてくれたあの人。やはり、



(やはり、あなただったのね……)


 真奈はその優しく、力強い抱擁に応えるように彼を抱きしめた。




「立てる?」


「ううん、ごめん。ちょっと無理かも……」


 僕はずぶ濡れになって体を震わせる真奈を見て首を振った。女の子をこんな雨降る夜の森にひとり残して逃げるなんてあり得ない。廉太郎への怒りもあったが、それよりも先に今のこの状況を何とかしなければならない。

 僕は真奈の前で屈み彼女を背負うように立ち上がる。


「か、神崎君!?」


「大丈夫だから。ちょっと我慢してて」


 軽い。あれだけ存在感のあった霞ヶ原真奈はこんなに軽いのかと思った。僕は気合を入れやって来た道へと歩き出す。



「や、やだ! そっちはヤダ!!」


 背負われた真央が急に拒否反応を示す。


「どうしたの!?」


「そ、そっちはお化けが行ったから、ヤなの……」


「お化け??」


 何のことかさっぱり分からない。恐怖のあまり頭が混乱しているのか。僕は少し考え、この近くにミカが言っていた小屋があることを思い出す。僕は真奈を背負いながら森の奥へと歩き出した。



(あれか!!)


 小屋すぐに見つかった。最近ほとんど使われていない小さな小屋。だが造りはしっかりしており、案の定鍵もかかっていなかった。



「大丈夫?」


「うん。ありがとう……」


 僕は小屋の中に入り真奈を下ろす。興奮していたせいか、彼女を背負ってここまでやって来たのに疲れは一切感じない。



「神崎君……」


 小屋の椅子に座った真奈がじっとこちらを見つめる。暗い小屋の中。電気などはない。それでも彼女の顔は分かった。安堵した表情。僕は目を逸らすように下を見ながら答える。


「濡れちゃったね。さすがにタオルまではないか……」


 この状況はミカも想定外。ただ小さな暖炉がある。僕は少し戸惑いながら暖炉に近付き、置かれた薪を見ながら言う。



「これ、火をつけちゃってもいいよね?」


「うん……」


 暖炉なんて経験はない。ただ薪とマッチが置いてあるのは幸いだった。慣れない手つきで暖炉に火をつける。やがて少しだけ明るくなる室内。僕は部屋の隅に毛布が置かれていることに気付いた。



「霞ヶ原、毛布があるよ。これで少しは寒さを凌げ……」


 毛布を手に彼女に近付いた僕は、いきなり来ていたジャージを脱ぎだす真奈を見て固まる。


「ちょ、ちょっと!?」


「だってこんな濡れた服着ていたら風邪引いちゃうでしょ?」


「そ、そうだね……」


 僕は真奈に背を向け毛布を差し出す。小さな暖炉の小さな明かり。外はまだ雨の音が響いている。



「神崎君も脱がなきゃ……」


「え!? あ、うん……」


 背を向けた僕の真後ろに立つ真奈。背後から僕の服を脱がそうとする。僕が慌てて言う。


「だ、大丈夫。自分で脱げるから」


「ふふっ、可愛い~」


 どんな展開なんだ!? 僕はじっと小さく燃える暖炉の火を見つめながら濡れた上着を脱いでいく。



「座ろ……」


「え!? あ、ああ……」


 服を脱いだ僕に、真奈は自分が羽織っていた毛布を一緒に掛け座るよう促す。ひとつの毛布を一緒に羽織りながら暖炉の前に座る状況。そして僕の目は自然と彼女の体へと向けられる。



(し、下着姿っ!!!!!)


 当然と言えば当然。濡れた服を脱いだのだからそうなるのだろう。僕は慌てて暖炉に目を向け息を飲む。真奈が言う。


「あんまり見ないで。恥ずかしいから……」


「ご、ごめん!!」


 そう言いながらも腕と腕が触れ合う緊張した状況。心臓が激しく鼓動する僕の肩に、真奈が頭を預けながら言う。



「本当にありがとう。私、怖かった……」


「大したことじゃ……」


「きっと来てくれると思ってた。ずっと待ってた。私ね、あの時からずっと待っていたの」


 僕は気付かない。彼女の目に再び涙が溢れ出したことを。


「やっぱり神崎君だったんだね。あの時、私を救ってくれたの」


「ぼ、僕は……」


 はっきりと覚えていない。それが本当に僕だったのか分からない。だが今はそれより大切なことがある。今、ここで僕が伝える。




 episode11【僕は君のことが大好きだ】




「僕は霞ヶ原が好き。大好きだ。ごめん、こんなところで。でも、大好き……」


 体が震えた。自然と涙がこぼれた。弱い人間。頭は真っ白。怖い。否定されるのが怖い。でもどこか心の重りが消えた感覚になった。


「私も、大好き……」


 チュッ……



「え?」


 真奈は肩に乗せていた顔を上げ、僕の頬に軽く口づけをした。そして小さな声で言う。


「ずるいよ。こんな状況で告白されたら、断れる女子なんていないじゃん~」


「い、いや、ごめん……」


 僕の頭の整理はまだつかない。流れる汗。震える体。そんな僕の腰に真奈がそっと手を回し、優しく尋ねる。



「私と、お付き合いしてくれますか?」


「はい……」


 その後の記憶はない。いや、あったかもしれないが、とても恥ずかしくて思い出せなかった。






「お帰り~、マナマナ。総士郎~!!」


 翌朝、僕と真奈はからりと晴れ上がった空の下、保養所まで歩いて戻った。

 保養所では僕と真奈が居ないことで大騒ぎになっていたそうだが、そこはミカが緊急の為小屋に避難していると上手く説明してくれていた。無論、管理人からは注意されたが。ミカが僕に近付き小声で尋ねる。



「で、どうだったん?」


「あ、その。ありがとうございます」


「どう言う意味?」


「はい、上手くいきました」


「よし!」


 ミカが僕の肩をボンと叩き笑顔になる。そして部員のララと沙織に向かって大きな声で言う。



「ちょっと心配したが、マナマナと総士郎が無事付き合うことになった!! 拍手~」


「やったね~!!」


「……おめでとう」


 小さな拍手が起こる中、真奈が顔を真っ赤にして言う。


「ちょ、ちょっとミカりん!! やめてよ~!!」


「何言ってんだ。めでたいことだろ? あ、そうそう。それに伴い部活動規則も変更する」


 僕が尋ねる。


「な、何ですか??」



「彼氏彼女付きでも在部を認める。そうしないとうちのエースと王子様に逃げられちゃうからな!!」


「もおー、ミカりん!!」


 真奈がミカを追いかけ始める。溢れる笑い。僕も笑った。高校に来て良かった。文芸部に入って良かった。



(真奈に出会えて良かった)


 僕の目に流れた涙は笑いのせいか、それとも嬉しさのせいか。それは自分自身良く分からないほど僕は幸せを感じていた。

これにて完結となります。

最後までお読み頂きありがとうございました!

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