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恋愛クソ雑魚隠キャの僕が、あなたを好きになりました。  作者: サイトウ純蒼
last episode

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last episode1-4「     」

 合宿二日目の夜。今回の目玉企画である肝試しがいよいよ始まった。施設近くにある運動場。そこに集められたたくさんの高校生。改めて保養施設の大きさが分かる。


「総士郎。気合入れろよ」


「あ、はい」


 ミカが僕の隣に来て小声で言った。この肝試しで僕は真奈と一緒にあまり使われなくなった小屋で一緒に過ごす。そこで決める算段だ。僕が夜空を見上げて言う。



「天気は大丈夫でしょうか……」


 どんより曇った空。暗い夜だがその分厚い雲ははっきりと感じられる。ミカが答える。


「大丈夫。うちの部の作戦に失敗はない」


 妙な自信。だがその根拠のない自信が僕を不安にする。




「ではお集りの皆さん。これから怪談を始めます」


 運動場の前に置かれた台に上がった初老の男性。ハンドマイクを持って皆に向かって言った。そう、肝試しをする前に怪談話を聞かなければならない。この保養所集落にまつわる昔話を。



 ゴロ、ロロロロ……


 どこか遠くの空で雲の鳴く音がかすかに聞こえる。だがそんなことより集まった皆は、語り始めた男性の話に引き込まれていた。

 怪談の内容は、昔ここらの住んでいた若い夫婦の話。夫が地主の娘とできてしまい、邪魔になった自分の妻を山に連れて行き置いてきてしまう。この辺りはその当時『迷いの森』と呼ばれ、迂闊に入ると出られなくなる恐ろしい森。見捨てられた妻は森の中で亡くなり、その後幽霊として森に現れるようになったと言う。




(普通に怖いな、これ……)


 僕自身、幽霊とか怪談とかそれほど怖がるタイプじゃないけど、男性の話は実にリアルで、まるでその当時を見て来たかのような感情籠った語りであった。その証拠に最初はがやがや騒いでいた高校生らが、階段の最後には皆が黙ってその恐怖の話に飲み込まれてしまっている。


「霞ヶ原、大丈夫?」


 僕は真っ青な顔になった真奈に声を掛けた。夜の山の暗闇。その中でも彼女の顔色が青いことははっきりと分かる。


「う、うん。大丈夫……」


 絶対大丈夫じゃない。表情、声色。すべてが助けを求めている。



(僕は大丈夫か……?)


 対照的に僕は全く別のことを考えている。これから始まる彼女と過ごす時間。勝負。もう自分に負ける訳にはいかない。怪談を語り終えた初老の男性に入れ替わり、若いスタッフが皆に言う。




「では聞いてくださーい。ここから山道を一周歩いて戻って来て貰います。道は簡単だけど、途中看板があるのでそれに従ってくださいね。ではこれよりくじ引きに入りまーす」


 くじ引き。これによって肝試しを歩くペアが決まる。ミカの話では何か細工をしたとのこと。不安はあったがもう彼女を信じるしかない。

 ……と考えていた僕はやはりお人よしであった。



「あれ!? 何で総士郎と私がペアなんだ!!??」


 僕の相手はミカになった。沙織とララは見当たらない。そして肝心の真奈だけがひとり余っている。焦るミカ。何かを言おうとした僕より先に、その黒髪のイケメンが近付いてきて言った。



「あれ!? 真奈ちゃんってもしかして12番??」


 手にしたくじ。それを見せながらそのイケメン、三上廉太郎が言う。真奈が同じく12と書かれた紙を見せて答える。


「あ、はい。よろしくお願いします……」



 終わった。

 僕の中で何かが音を立てて崩れていった。真奈と二人で歩くはずだった肝試し。その根底が崩れた。隣で青ざめるミカ。もう何かを聞いても無駄のようだ。僕は無言で天を仰いだ。




「じゃあ、行こっか」


「は、はい……」


 真奈と廉太郎の番。僕とミカは黙ってふたりが一緒に森の中へ消えて行くのを見つめた。ミカが小声で言う。



「すまん。総士郎……」


 珍しく弱気な声。自分の仕掛けが作動しなかったことに初めて責任を感じたようだ。僕が首を振って答える。


「大丈夫です。はい、大丈夫です」


 そう答えながらも、心のどこかで『安堵』している自分がいる。

 苦しくて辛い、もしかしたら最悪の結果になるかもしれない今日の決戦。それを不可抗力で避けられた。結果はどうであれこれで誰も傷つかずに済む。これまでと同じ毎日が続く。ヘタレな総士郎が完全に僕を支配していた。





「あれ? ララさん達は?」


 ふたりが出てしばらく経ってから、僕はララと沙織が居ないことに気付いてミカに尋ねた。ミカが答える。


「ああ。沙織はくだらないとか言って先に宿舎に帰ったよ。ララはくじ引きの前から森の中へ向かって貰っている」


 ララの役割は山中の案内標識を変えること。それを見た『僕と真奈』を小屋へと誘導する算段だった。


「そうですか。でももう必要な……」


 そこまで言った僕が気付く。



「え? まだララさん森の中にいるんですよね? じゃあ……」


「ああ!?」


 ミカも気付いたようだ。

 そう、このままでは真奈と廉太郎がふたりで小屋に行ってしまう。



「まずいですよ!! このままじゃあ……」



 ドン!!! ドドドドオオオオン!!!!


「きゃあ!!」


 そう口にした僕と同時に、それまで沈黙を貫いていた空の分厚い雲が轟音を鳴り響かせた。イベントスタッフが大きな声で言う。



「今夜の肝試しは中止です!! すぐに建物内に避難してください!!!」


 突然の雷。轟音。皆が慌てて保養所内へと戻って行く。ミカが言う。



「総士郎、マナマナが!!」


「はい、行ってきます!!!」


 森に入った真奈と廉太郎。僕は無我夢中で山道を駆け出す。



(霞ヶ原、霞ヶ原、霞ヶ原っ!!!!)


 雷響く真っ黒な森。もう僕の頭には真奈のことしかなかった。






(やべ。これ、マジで怖いじゃん……)


 その少し前。真奈と一緒に森の中を歩いていた廉太郎は、想像よりずっと暗い夜の山を見て微かに震えていた。


(それにあの怪談。あれって、作り話だよな……)


 ここに入る前に聞いた怪談。そう言った話が苦手な廉太郎には想像以上のダメージとなって効いていた。小さな声で言う。



「真奈ちゃん。大丈夫……?」


 隣を歩く黒髪の女の子。彼女をここで口説く予定だったが、正直今はそんな余裕はなくなっている。


「あ、はい。なんとか……」


 そう答える真奈の表情も強張っている。夜が怖いふたり。肝試しなど普段経験がないので、実際の暗さに体が震え始める。

 そして、それはひとり山道で真奈達を待っていたララも同様であった。



(あ~、もう。なんで私がこんなことしなきゃいけないの~!!)


 ミカに命じられたララ。肩書は部長であるが実際仕切っているのはミカである。


(暗いし、蚊は居るし、あ~、もう最悪ぅ~)


 可愛い後輩の為。こんな役を引き受けたが段々後悔し始めていた。



 そしてそれは起こった。



 ドン!!! ドドドドオオオオン!!!!



「きゃっ!!」


 突然の雷鳴。暗く、天候に不安があったがいきなりの爆音に思わずララが身を屈める。


(も、もう無理!! 全然ふたり来ないし、帰るわ!!)


 ぽつぽつと雨も降って来た。全く現れない真奈と総士郎に苛立っていたララは、もう作戦を諦め小走りで森の中を駆け出す。



 そしてその雷鳴は、そのふたりの耳にも響いた。




「きゃ!!」

「ぎゃっ!!」


 ただでさえ怖かった森の中。突然の雷鳴に真奈と廉太郎が蹲る。廉太郎が青い顔をして言う。



「ヤバイヤバイヤバイヤバイ!! ヤバいよ!!!!」


 恐怖で体が震える。そしてそれが目に入った。



「え?」


 それは森の中を移動する女の影。白い服に長い髪。誰もいないはずの森の中を、まるで自分を嘲笑うかのように移動する。



「う、うわあああああ!!!!!!!」


 廉太郎は混乱した。

 真っ暗な森。怪談。突然の雷鳴に振り始めた雨。そしてとどめは得体の知れぬ白い女の影。それは廉太郎の心を破壊するに十分な要素であった。



「も、もう嫌だ!! あぁあああああ!!!!!」


「えっ、あ!? なに!!??」


 廉太郎はひとり立ち上がると、そのまま真奈を置いて歩いて来た道を全力で駆け出した。残された真奈が涙目で言う。



「や、やだ。置いてかないで……」


 恐怖でうずくまったままの真奈。既に消え去ってしまった廉太郎の方を見てぶるぶると体を震わす。



(!!)


 そしてそれが彼女の心を砕いた。



「な、なに、今の……」


 廉太郎が走り去った後、まるでそれを追うかのように白い服を着た長髪の女が現れて消えて行った。



「う、うそでしょ……、やだ、怖い。怖いよ、怖いよ……」


 真奈が見たのは走って戻るララの後姿。ただ森の暗闇に、強く降り出した雨。動揺した彼女にはそのすべてが恐怖の対象として映った。



 ザアーーーーーッ


 雷鳴と共に雨が強く降り出す。怖くて怖くて動けない真奈。



(怖いよ……、お願い、神崎君。今すぐここに来て……)


 真奈はたったひとり雨の中、ずぶ濡れになりながら涙を流した。

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