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恋愛クソ雑魚隠キャの僕が、あなたを好きになりました。  作者: サイトウ純蒼
last episode

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last episode1-3「     」

 山中にある市の保養所は、想像よりもずっと立派な建物であった。

 建物自体もまだ新しく、小洒落たペンションのような造り。数百人は宿泊できるし、運動場や小さいながらも体育館も併設されている。


「さあ、では早速部活動を開始するぞ!」


 到着した日の夕方から早速、僕ら文芸部の活動が始まった。保養所にある一室。そこで僕らは持参したPCに、モニター代わりのテレビを繋げ皆で恋愛映画を鑑賞。恋愛小説も少女漫画もすべてタブレットかスマホで見る。本当は紙の本が良いなと思いつつも、ここではそんな贅沢は言えない。



「じゃあ、おやすみ。総士郎。みんなと一緒じゃなくて寂しいか?」


 寝室はもちろん男女別。予算の関係でそれぞれ大部屋だそうだが、僕とてまさか女子と一緒の部屋だとは思ってもいない。


「さ、寂しくなんてないです!! おやすみなさい!」


「おやすみ。神崎君」


 ミカに続いて挨拶する真奈。僕もそれに頷いて答えた。





「あれ~、君って確か今朝の……」


 男子用の大部屋。畳が敷かれ、たくさんの男子高生がいるその大きな部屋に入った僕に、先に来ていたひとりの黒髪イケメンが声を掛けた。


「あっ」


 それは電車やバス停で会い、ここまで一緒に歩いて来た男子高生。名前は廉太郎と言ったはず。



「改めてだけど、俺、三上廉太郎。よろしくな!」


「あ、ああ。僕は神崎総士郎。よろしく……」


 正直あまり関わりたくない。僕とは違う種類の生き物。屈託のない眩しい笑顔に僕は自然と拒否反応を示す。

 彼は同じ市内にある進学校のバドミントン部であった。僕らと同じ日程でここで合宿するらしい。廉太郎の話を聞きながら、僕はどうしても聞いてみたいことを尋ねた。



「あ、あのさ。さっき話していた『よく迷子になる』って話だけど……」


「ああ、それね。いや~、恥ずかしいよね。この年になって迷子になるなんて」


 本当に笑顔が眩しい。普通なら彼のような人種と会話することはない。ただ聞きたかった。



「城ケ崎遊園地って行ったことある?」


「城ケ崎遊園地?」


 突然の質問に廉太郎がやや驚く。少し考えた後で僕にこう答えた。


「あるかな? 小さい頃親に連れて行って貰ったことはあると思うよ」


「そこで迷子になった?」


「迷子?」


 廉太郎が首を傾げる。



「分からないけど、可能性はあるかな。ほら、俺って迷子になりやすいし」


 笑う廉太郎。そしてすぐに真面目な顔で尋ねる。



「ねえ、どうして君らって迷子って言葉にこだわるの?」


「え? そ、それは……」


 まさか真奈の憧れの『遊園地の王子様』のことは口が裂けても言えない。廉太郎が言う。



「君と一緒だった、ほら、黒髪の可愛い女の子。彼女からも同じようなこと聞かれたよ」


「……」


 そうだろうな、と思った。

 僕と同じ黒髪。僕にはない包容力。迷子。そしてその名前。廉太郎が尋ねる。



「ねえ、あの子、真奈ちゃんだっけ? 彼氏とかいるのかな?」


「!!」


 僕は全身寒気を覚えた。すぐに首を振って答える。


「し、知らないよ……」


「ふ~ん、そうか。じゃあ、ちょっと頑張っちゃおうかな~」


「頑張る? それってどういう意味?」


「どう言う意味も何もそのままだよ。この合宿中に口説いちゃおうかなって。あんな可愛い子、そういないでしょ?」


「……」


 僕は黙って廉太郎の話を聞いた。僕は真奈にとってただのクラスメートであり部活が同じ存在。好意は持っているけど、残念ながらそれ以上の関係ではない。廉太郎が言う。



「明日の夜って確か肝試しでしょ? まあ、俺、ああいうのあんまり好きじゃないけど、真奈ちゃんと一緒なら頑張れるかな~」


「……」


 僕は黙り込んだ。それだけは避けたい。僕とミカの作戦。そうなっては作戦決行が難しくなる。



「じゃあ、僕はお風呂に行くんで……」


「ああ。じゃあ、またな~」


 会話に耐えきれなくなった僕。逃げるように風呂へと向かった。






 翌朝から、廉太郎はその言葉通り真奈に対して攻撃を開始した。


「おはようっす!!」


(ん?)


 朝食会場。楽しく食事をしていた僕ら文芸部のテーブルに、その黒髪のイケメンは躊躇うことなくやって来て言った。


「一緒にいいっすか??」


 勢い。場の雰囲気を変えるほどの勢いを持って、誰も何も答えないうちに、廉太郎は真奈の向かい側に座った。



「お、おはようございます……」


 戸惑う真奈。明らかに何かの化学反応が彼女の中に起きている。ミカが言う。



「ああ、お前は昨日の……」


「三上廉太郎です! 昨日はありがとうございました!!」


 屈託のない笑顔。誰にでも好かれる好青年。故に僕ら文芸部の輪の中に入って来てもそれほど違和感がない。



(……)


 真奈の隣に座る僕は黙って食事を続けた。話し上手な廉太郎。冗談も上手いし、居るだけで場を盛り上げる。僕とはまた別の意味で真逆の人間。無意識に感じる敗北感の中、僕はひたすら下を向いて食事を続けた。




 その後も廉太郎はことあるごとに真奈に接近した。


「こんにちは~、ここ、いいっすか??」


 お昼。真奈の隣に自然と座る廉太郎。本当にその所作が自然過ぎてもう誰も何も言わない。僕らの仲間のようなオーラを放っている。



「真奈ちゃんって、どんな本が好きなの?」

「お休みとかは何してるの?」

「こんな美人揃いの部活動、俺も入りたいなあ~」


 口も上手いし、それがとにかく自然なのである。僕はただただその妙技に驚いた。こんな天然軟派男、初めてだ。




「総士郎、ちょっといいか?」


 昼食を終え、自由時間となった僕にミカが声を掛けた。神妙な顔つき。僕は直ぐにその意味を理解した。皆と離れた廊下。ミカが言う。



「今夜の肝試し、そこで勝負をかける」


「はい」


 勝負。それは僕と真奈のこと。ミカが一枚の地図を取り出し僕に見せて言う。



「これが今夜の肝試しのコース。二人一組で回るのだがここで作戦を実行する」


 地図には保養所から少し離れた森のイラストが描かれている。その森を一周する感じでコースがあり、そこを皆で順番に回って来るようだ。ミカがコースから少し離れた場所を指差し僕に言う。



「実はここに使われていない山小屋がある。今朝、絹と下見をしてきたのだが、真奈とお前をこの小屋でふたりきりにする。そこで、うむ。頑張れ!!」


 要は皆と違うコースを僕と真奈が歩き、ふたりきりでその小屋で過ごすと言う算段だ。真奈が歩く時にララが道案内を小細工して山小屋に誘導する。少し考えた僕が尋ねる。



「あの、肝試しのペアって自由に選べるのですか?」


 そこが重要。例えこれで彼女を誘導できたとしても、その時の相手が僕じゃなければ意味がない。ミカが腕組みをして答える。



「大丈夫だ。くじ引きらしいが、細工をする。心配するな」


 心配だ。ほとんど感覚で動くミカに、そのような小細工が可能だろうか。不安そうな僕の肩を叩きながらミカが言う。



「大丈夫だって。私を信用しな。ずっとマナマナを見て来たんだ。総士郎、お前が王子様になってやれ」


「……はい」


 僕はゆっくり頷いた。感覚で動くミカ。だが彼女独特のオーラは人を動かす力がある。僕は何度も頷いた。そう、今自分が心配すべきことは真奈とふたりきりになってから何をすべきか。もうヘタレでいることはできない。今夜、決める。






 午後の練習。保養所近くにある体育館の中。汗を拭う廉太郎に同期が声を掛ける。


「廉太郎、準備終わったぜ」


 中学からの友人。廉太郎がはあはあと息をしながら尋ねる。


「ばっちり?」


「ああ、ばっちり。印をつけておいたから、その真奈って子が何を引いても分かるはずだ」


「サンキュ~!!」


 廉太郎が友人に抱き着く。それから逃げるように友人が言う。



「やめろって、キモい! とにかく頑張れよ」


「ああ。ありがとう! これでつまらない合宿も楽しくなるよ」


「それにしても廉太郎、こんなこと()()に知られたらヤバくねえ?」


 廉太郎はスポーツドリンクをごくごくと飲み、それに答える。



「大丈夫。絶対バレないから。それより今は真奈ちゃんを楽しむ。もうすぐ落とせるよ」


「すげーな、お前は」


「すごくないよ~、必死だよ」


 汗を拭いながら友人が言う。



「とにかく迷子にはなるなよ。お前はすぐにいなくなるから」


「了解~」


 廉太郎は友人とハイタッチをしてそれに答える。



 皆の思惑が張り巡らされた合宿二日目の肝試し。そしてその夜を迎えた。

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