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恋愛クソ雑魚隠キャの僕が、あなたを好きになりました。  作者: サイトウ純蒼
episode8

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episode8-3「     」

「よお、神崎」


 翌朝。エントランスで、靴を替えていた僕に声を掛けて来たのはクラスメートの真也だった。間近に迫った夏休み。朝だと言うのに蒸し暑い。廊下を歩き出した真也が僕に言う。


「エリカはどうなった?」


 もちろん『ステ恋』の話。僕はやや苦笑しながら答えた。



「まあ、なんて言うか正直攻略はもういいかなって思ってる」


「え? なんで!?」


 当然だ。同じ高難易度キャラ攻略を目指した仲。



「今はどちらかと言うとエリカとは友達かな。色々話とかして」


 まさかリアルの恋の相談をしているとは言えない。真也がややつまらなそうな顔で答える。


「お前もか。奥村もずっとそうなんだよな……」


 奥村。クラスメートのおさげの可愛い女子。真也が秘かに狙っている相手だ。確か彼女も難易度の低い男性キャラを落として会話を楽しんでいるはず。今ならその気持ちが分からなくもない。


「『ステ恋』もいいけど、奥村とはどうなったんだ?」


 真也が少し困った顔で答える。


「変わらないな~。あいつ、リアルの恋愛にはあんまり興味がないのかもしれん」


「なんで?」


「うーん、数回、ふたりで出かけようと誘ってみたんだけど、全部断られた。理由も良く分からないし」


 結構頑張ってるんだ、と僕は思った。真也が続ける。


「もうすぐ夏休みじゃん。それまでにはもうちょっと仲良くなりたいなあって思ってんだけどね」


「そうか」


 夏休み。確かに夏休みに入ってしまえばみんなに長い時間会えない。僕の脳裏に真奈の顔が浮かぶ。僕は首を振って真也に尋ねる。



「それでスティファーニはどうなった?」


 言わずと知れた『ステ恋』最高ぶっ壊れ難易度キャラ。SNSでもまだ攻略報告がないほどのレベル。真也がため息をついて言う。


「ダメだ……」


「なんで??」


 確か騎士団長になったはず。真也が言う。


「ふたりきりの警護の機会があって、まあちょっと抱き着いちゃったんだ。そうしたら姫様激怒で……」


「抱き着いた……?」


 真也の話を聞いて僕は唸ってしまった。

 敵の襲撃を受け恐怖に震えるスティファーニ。そんな彼女を落ち着かせるために抱きしめたと。だけど好感度がまだそこまで高くなかったせいか、それは逆効果の結果になった。スティファーニの逆鱗に触れた騎士団長は、兵士隊長に降格。また振出しに戻された気分だそうだ。



(奥村とも上手くいかず、スティファーニにも激怒され、うん、これは地味に辛いよな……)


 僕は隣を歩く真也の姿を見て少し同情してしまった。仮にだが、うちの文芸部のミカならどんな対処をするのだろうか。

 そんな風に考えていた僕の背後から可愛らしい声が掛けられる。



「神崎君っ!」


「ん?」


 振り返る僕。そこには黒髪の美しい同じクラスの美少女。



「霞ヶ原……」


 気のせいか少し困ったような表情を浮かべ僕の前にやって来た彼女は、鞄から一台のスマホを取り出し僕に差し出す。


「はい、これ。昨日忘れていったでしょ?」


「あ? ああ、ありがとう……」


 昨日部室に忘れていった僕のスマホ。僕はそれを感謝しつつ受けとる。


「じゃあね!」


「ああ」


 笑顔で教室へ向かう霞ヶ原を真也が見つめながら言う。



「お前はいいよな。あんなのと上手くいってて……」


 傍から見ればそう映るのかもしれない。だが僕の頭には昨日聞いた『ラブレター』の文字がぐるぐると回っている。


「違うよ。ただ部活が一緒なだけ。きっとそれだけ」


 そう、それだけ。キモオタ陰キャが勘違いしてはならない。きっと後で辛い目に遭う。入学前のリボンの件や、隣の席。男子不足で誘われた部活。色んな偶然が重なり合って、今の奇跡のような状態が出来上がっているだけなのだ。

 僕は真也とふたり、自然と肩を落としながら教室へと向かった。






 放課後。授業を終えた真奈は椅子に座りながらじっとスマホを見つめていた。


(どうしたんだ?)


 いつもならすぐに部活に誘われるはずなのに。そう思っていると彼女の方から僕に声を掛けた。


「神崎君。今日の部活()()なんだって」


「え? なし??」


 僕は意外な言葉に驚きながら霞ヶ原を見つめる。



「うん。ちょっとみんな用事があるんだって。だから今日授業が終わったら、そのまま私と神崎君で水着選びに行ってくれって」


「そうなんだ」


 まあどちらでもいい。水着を選ぶと言う厄介な仕事がなくなった訳じゃない。真奈が立ち上がって言う。


「じゃあ、行こっか」


「う、うん……」


 ショッピングセンターまでだがそこまで真奈とふたりきり。僕はやや緊張しながら彼女の後ろに付いて歩き出した。






「さて、これから非常に重要な話をする」


 同じ時刻。文芸部の部室ではミカが、部長のララと沙織を前にやや興奮気味に話を始めた。


「な~に、ミカちゃん~?」

「手短にお願いします。本に集中したいので」


 ミカが腕組みをして言う。



「沙織、絹江。私は真面目だ。ちゃんと聞いてくれ」


 本名を言われたララのピンクのツインテールが逆上がり低い声で答える。


「聞く前に、てめえの首吹き飛ばすぞ。おらぁ!?」


「……ちょーどうでもいい」


 ミカが机を叩いて言う。



「いいから聞け!! このラブレター。真奈が貰ったこの手紙だ。お前ら、見覚えはないのか!!」


 同時に机に叩きつけられる真奈宛てのラブレター。躊躇う彼女から無理やり借りたものだが、その手紙を見つめたララが言う。


()()って可能性があるってことね~」


 沙織は無言。ミカが答える。


「そうだ。その通り。半年前に起こったあの事件」


 ミカの鼻息が荒くなる。対照的に静かなままの沙織が彼女に尋ねる。



「何です? 半年前の事件って」


 基本他人に興味がない沙織。ミカが呆れた顔で答える。


「忘れたのか? ってか本当に覚えていないのかよ。仕方がない。もう一度教えてやる」


 本を片手にミカを見つめる沙織。ミカは半年前に起きたとある事件について静かに語り出した。

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