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恋愛クソ雑魚隠キャの僕が、あなたを好きになりました。  作者: サイトウ純蒼
episode6

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episode6-3「     」

「神崎君〜!!」


 久し振りの登校。坂にかかり、自転車を押す僕の背後からその可愛らしい声が響く。


「霞ヶ原……」


 黒く艶のある長髪を左右に揺らしながら美少女がこちらに駆けてくる。そんな彼女を見て、僕はいつからラブコメの主人公になったんだろうかと自嘲する。



「おはよ! もう大丈夫なの?」


「あ、ああ。うん……」


 休んでいる間、真奈とはスマホでたくさんのやり取りをした。だがこうして実際に会って話すとやはり緊張する。隠キャの定め。周りからの好奇の視線が辛い。



「今日の沙織さんのお話、楽しみだね」


「え、ああ……」


 真奈はよく笑った。笑いながらひとり話し続けた。そして僕は会ったら直接言おうと思っていたことを口にする。



「あのさ、霞ヶ原……」


「なに?」


 可愛い。僕の胸がドキンと鼓動する。


「この間、お見舞い来てくれて、その、ありがとう」


 直接言いたかった。メッセージではなく直接会って。真奈が笑顔で返す。


「いいよー、同じ文芸部だし。私も迷惑かけちゃったしー」


 何の迷惑だろう。僕がそんなふうに考えていると、真奈がやや小悪魔的な表情で言う。



「じゃあ、私のお願い、ひとつ聞いてくれる?」


「お願い?」


 何だろう。自分へのお願いなどあるのだろうか。僕は頷いて答える。


「いいよ。なに?」



「エリカさん、見せて」


(!!)


 歩いていた僕の足が一瞬止まる。AI彼女エリカ。最近『ステ恋』をする時間がめっきり減ってしまっていたが、今でもエリカは大切な攻略対象であり架空の嫁。まだ諦めていない。いや、だが、だがしかし……



(恥ずかしい!!!)


 そう、スマホの彼女を真奈に見られることは想像するよりもずっと恥ずかしい。オタク全開。陰キャ勃発。中二病解放。とにかくそこにはあまり触れられたくないのが本音だ。



「いや、それはちょっと……」


 僕は適当に誤魔化そうと思ったのだが、真奈はそれを許さなかった。


「おかゆ作ってあげたんだよ〜」


「うっ……」



「こんなに可愛い女の子が、膝枕したんだよ〜」


(自分で可愛いというか!?)



「甘えちゃって『あ〜ん』とかやってたんだよ〜」


(ぎゃぁああああ!!)



「それから……」



「わ、分かった。降参降参。見せるから、見せるからやめて」


「よろしい。さ、どんな子なのかな〜??」


 僕は完全に白旗を上げた。恋愛クソ雑魚陰キャの僕ではやはりリアルの女の子には敵わない。



「うわ〜、可愛いじゃん!!」


「そ、そうかな……」


 初めて真奈と出会ったエリカ。いつも通りの不機嫌そうな顔でこちらを見つめている。真奈が言う。



「攻略、手伝ってあげるよ!」


「あ、ありがとう……」


 僕と真奈は歩きながらスマホに映ったエリカに話しかけた。






「おー、来たか!! 文芸部の王子様!!」


 一週間ぶりに顔を出した文芸部。前と同じ景色。同じ空気。同じ顔。僕はいつしかこの部屋に来ることに妙な安心感を覚えるようになっていた。


「だから、王子様じゃないですって……」


 ミカが肩に手を回し言う。


「何言ってんだ。迫真の演技だったぞ。とても演技には見えないほどの熱演。演劇部から引き抜きの話もあったぐらいだ」



(は、恥ずい……)


 僕は舞台の熱にうなされ、自分の感情が加わった先の演技を思い出す。やれと言われてももう二度とできない演技。あんな告白じみたことはもう僕の中で黒歴史になりつつある。



「本当に良かったよ〜、総士郎君〜」


 部長のララも、いつも通りのミニスカートのアイドル衣装を着て笑顔で言う。


「あ、ありがとうございます」


 僕は下を向いて素直に感謝した。人に褒めらることなど滅多にない陰キャ。だけど不思議と今は嫌な感じがしなかった。ララがテーブルの隅に座る沙織を見て言う。



「さーて、では役者が揃ったところで『恋愛よろず相談部』の活動を再開しましょうか〜、ね。沙織」


 ずっと俯いて本を読んでいた沙織が顔を上げ、ララに言う。


「うるさいわ。黙って、()()


「!!」


 僕は思った。明らかに意図的な攻撃。ララのツインテールが逆上がり、低い声で言う。



「名前間違えてないかな、沙織。ふざけた態度してると、その綺麗な顔、蜂の巣にしてあげようか?」


 僕は背筋が凍った。アイドルと褒め称えていれば無害のララ。だがその地雷を踏めばミカでも手に負えなくなるほど凶暴化する。


「まあまあ、ララ。ちょっと抑えろよな。沙織も、わざと言うんじゃないよ」


 自分もこれまで散々揶揄ってきたのに。僕はふたりの間に入るミカを見て苦笑する。ミカが言う。



「とりあえずだ、早速沙織の恋愛相談に移ろうか」


「私はそんなこと望んでいない」


 静かに、だがはっきりと自分の意思を口にする沙織。僕は彼女の陰キャとして同じ匂いを感じており、そのの気持ちは痛いほど分かる。


「じゃあいいのか? お前の幼馴染があの女に奪われても?」


「……」


 沙織が黙り込む。本を持つ手が止まる。見て分かる動揺。目の焦点がややずれ始めている。


 ミカの話はこうだった。

 沙織の幼馴染は高橋と言った。小さい頃からよく遊び、時々アニメや漫画の話をする頼れる兄貴でもあった。だが高校が別となり、少しずつ疎遠となり、その高橋に女の影がちらついているそうだ。ミカが腕を組み言う。



「そこで私は考えた。沙織に必ず幼馴染君と結ばれるパーフェクトプランを!!」


 僕は全身に悪寒が走る。絶対良からぬこと。僕の危険察知センサーの針が振り切っている。ミカが僕と真奈を指差して言う。


「総士郎、マナマナ。新規プロジェクト『Wデート作戦』を遂行する。ふたりには一肌脱いで貰うぞ。よろしくな、あはははっ!!」


 僕は高笑いするミカを見ながら、一体どれだけの肌を脱げば終わるのだろうかとため息をつきながら思った。

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