episode4-4「 」
「スマホアプリ? AI彼女? ゲームのことなの?」
歩き出した僕と真奈。彼女は言葉を選ぶように僕に尋ねた。僕が答える。
「そう。『素敵な恋人』ってゲームで男女とも遊べるんだ。僕はエリカって女の子の攻略を目指しているけど、女子プレイヤーはイケメン男子攻略をしているよ」
ゲームの話になり思わず饒舌になる。聞かれてもいないことまで話してしまい、僕がはっとする。キモオタ全開放。そう思った僕に真奈は意外な反応を見せた。
「へえ~、そうなんだ。そうなんだ~、へえ~」
なぜか少し嬉しそう。いや、安堵の表情が混ざっているかのよう。
「エリカちゃんって可愛いの?」
「あ、ああ。まあ……」
一体何の話をしているのだ。
「見せてよ」
「い、嫌だよ」
「いいじゃ~ん」
あれだけ一日不機嫌だった真奈がなぜか急に機嫌が良くなっている。女の子は理解できない。AI彼女だなんてキモいゲームやっていることが知られて、きっと嫌われると思ったのに意外な反応だ。真奈が言う。
「一緒に攻略しよっか。私、女の子の気持ちなら分かるよ!」
は? 何故そうなった!? ちょっと理解が追い付かない提案。リアルの女の子と一緒に架空のAI彼女を口説く。恋愛経験値ゼロの僕にとって、もはやひとりで処理できる問題ではない。
「いいって。ハズいし。気持ち悪くないの?」
僕の言葉にきょとんとした真奈が答える。
「全然。ゲームだし。いいんじゃない?」
「そ、そうなの……?」
本音か。それとも同じ部員だから気を遣ってそんな言葉をかけてくれたのか。真奈の言葉の真意が分からない僕は、ゆっくり部室に向かって歩き出す。
「あー、霞ヶ原じゃん!」
そんな僕らの前に、チャラい二人組の男が現れる。すぐには分からなかったが、彼らが以前僕らのクラスまでやって来て真奈をナンパしようとしていたふたりだと思い出した。
ポケットに手を入れ真奈を舐めるように見ながら言う。
「久しぶりじゃん。寂しかったでしょ? 俺のこと、覚えてる?」
何と言う腐った台詞。燃えるゴミがあれば一緒に捨てたくなるレベル。真奈が少し後退して答える。
「し、知らないです」
「え~、寂しいなあ~、俺達ずっと霞ヶ原のこと想っていたのに」
そう言って真奈に近付くふたり。僕は真奈の手を握り小さく言う。
「行こ」
「うん……」
それにもうひとりの男が気付いて言う。
「あ、お前。この間も俺達の霞ヶ原ちゃんを奪って逃げた奴! 何だよ、お前は!?」
僕の背筋に汗が溢れる。ガラの悪い二年。陰キャの僕が最も相性の悪い相手。
「部活に行くんです。で、では……」
そう言って立ち去ろうとした僕の前に、ふたりの先輩が立ちはだかる。
「一年よぉ、お前霞ヶ原ちゃんの何? 部活行きたきゃ、ひとりで行けよ」
「ぼ、僕は……」
僕は何だろう。僕は霞ヶ原にとって何だろう。出ない回答。そんな僕の腕を、今度は真奈が強く掴んで言う。
「行こ、神崎君」
そう言って僕を連れ歩き出す真奈。だが今度は先輩がそれを許さなかった。
「どこ行くんだよ! ちょっと俺達と話しようぜ!!」
「きゃっ!!」
先輩はもう片方の真奈の手を強く掴む。怯える真奈。僕の頭は真っ白になった。
「おい、何やってんだよ!!」
僕はその声を聞いて少し安心した。真奈がその名を叫ぶ。
「ミカりん!!」
桐生ミカ。同じ二年のミカが腕組みして仁王立ちする。驚く男達にミカが言う。
「うちの後輩になんか用か?」
そう尋ねられた男二人の顔が青くなる。
「き、桐生……、いや、何でもない。何でもないよ……」
明らかにミカを恐れているふたり。真奈は掴まれた手を振りほどき、ミカの元へと駆け寄る。
「うちの可愛い後輩に用があるんなら、私を通しな! いいかい!!」
「わ、分かったよ!!」
男達はまるで逃げるようにしてその場を去っていく。
(すごい……、ミカさんって一体何者!?)
僕は軽くチンピラ達を追い払ったミカを見て思わず敬礼したくなった。
「ミカりん、ありがとう」
「ああ、いいって。マナマナは可愛いからすぐに悪い虫が寄って来るからな!」
悪い虫。僕もその虫なのだろうか。ミカが僕に言う。
「お、来たな。文芸部の王子様っ!」
「は? 文芸部の王子様……??」
ミカは笑いながら僕に言う。
「だってそうじゃないか。我らが姫君を全力で助けに行って連れ去ろうとしただろう?」
僕は先日の作戦のことを思い出し、顔を真っ赤にして頭を下げる。
「ご、ごめんなさい! 勝手なことをして」
「いいって。もう聞いてんだろ? 終始上手くいったよ」
「だ、だけど……」
申し訳ない気持ちでいっぱいの僕にミカが笑って言う。
「ただまあ、お姫様を残して先にひとり帰っちゃうのは良くないけどな。あはははっ」
「もお、ミカりーん!!」
真奈が赤い顔をしてミカをぽんぽん叩く。僕はその言葉の真意が分からないまま、再度頭を下げて謝罪する。謝罪に謝罪に謝罪。とにかく非は自分にある。
「いいって。まあ、イレギュラーと言えばイレギュラーだけど、マナマナのピンチに体が動いちゃったんだろ? 同じ女としてそれを咎める気はさらさらないぜ」
「え、いや、その……」
真奈のピンチに体が勝手に動いた? 確かに言われてみればそうなのかも知れない。真奈がミカの手を引っ張って言う。
「ミカりん、もいいってば! さ、部室行こ!」
「ああ、そうだな。行くぞ、王子様」
「や、止めてくださいよ……」
王子様。それは陰キャの対極にある存在。聞くだけで拒否反応が出る。ミカが言う。
「王子様に今日は大切な仕事があるんだ」
大切な仕事? 僕はもう嫌な予感しかしなかった。
「一年の女子が相談に来て、告白の練習がしたいんだって。だからその告白される練習台になってくれよ。頼むぞ、王子様」
そう楽しそうに話すミカを見て、僕もこんな風に毎日過ごせたらきっと幸せなんだろうなとふと思った。




