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恋愛クソ雑魚隠キャの僕が、あなたを好きになりました。  作者: サイトウ純蒼
episode3

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episode3-5「     」

 その日の週末、僕達文芸部のメンバーは街の中心である駅前に来ていた。県下でも随一の繫華街。デパートやお洒落なカフェなどが軒を連ね、道行く人達も皆お洒落をして歩いている。


(あー、溶ける。マジで溶ける……)


 陰キャの僕にはこの陽気で明るい雰囲気が苦手だ。居るだけで生命力を吸われるような感覚。何が楽しいのかさっぱり分からない。


「……ううっ」


 それは文芸部で同じ香りのする沙織も同じようだった。ただ本が好きで文芸部に入った彼女。ミカの作戦に無理やり連れられてきた感が強い。



「さあ、気合入れて行こうか!!」


 そうミカがガッツポーズを作り皆に言う。ショートパンツにTシャツと暖かくなってきたとは言え露出が多い。


「頑張ろうね~、水谷さーん!!」


「あ、はい……」


 同じくノリ気満々のララ部長が依頼人である水谷の肩を笑顔で叩く。ララの衣装はもちろんミニスカートのアイドル衣装。人が多くお洒落なこの通りでもひときわ目立つ。



「あ、あの、本当に私で大丈夫でしょうか……」


 そんなララよりも更に目立っていたのが霞ヶ原真奈。清楚な長袖の白のワンピースにピンクのカーディガン。日差しは強いとは言え、夏でもないのに頭に載せた大きな麦わら帽子が皆の目を引く。ミカが腕を組み頷いて真奈に言う。


「ああ、問題ない。こんなに可愛い女の子、私が口説きたいぐらいだよ!」


「も、もお……」


 確かに真奈は可愛かった。同じくらい可愛いアイドル衣装を着たララよりもなぜが目立っている。彼女のポテンシャルの高さがうかがえる。ミカが水谷に確認する。



「それでもう直ぐなんだよな? お前の彼氏が来るの」


「うん。どんな用事か知らないけど週末はよくここらに来て……、あっ」


 そう話していた水谷が駅の改札の方に現れたひとりの男を見て声を上げる。



「来た。あれがそうよ」


 皆の視線が彼女が指さした方へと向く。



(マジ、チャラいな……)


 茶髪に趣味の悪い花柄のシャツ。シルバーのネックレスに、ゴールドの腕時計。見ていて恥ずかしくなるような絵に描いたようなチャラ男である。ミカが呆れた顔で言う。


「お前、あんなのと付き合ってんのか?」


「う、うん……」


 真面目な彼女には似合わないとミカの顔が言っている。



「さあ、作戦開始よ! 真奈ちゃん、頑張って~!!」


「あ、はい……」


 ターゲットは現れた。後はこちらの罠を仕掛けるだけ。ララに背中を押された真奈が周りをきょろきょろ見ながら駅前へと歩いて行く。



(……)


 僕達はチャラ男から見えない場所へと移動する。なぜが楽しそうなミカとララ。対照的に僕の心は何かべっとりと黒く重いものが絡みついているようであった。



「お、早速掛かったぞ!」


 水谷の彼氏がここに何をしに来ているのはか知らない。ただ近くに現れた真奈を見て、すぐに近寄り声を掛けて来たのを見る限りやはりチャラいナンパをしに来たのであろう。真奈を下から上まで視姦するような視線でガン見し、笑顔で近付く。



(不快だ、何なんだこの不快感は……)


 僕はチャラ男が何やら必死に真奈に向かって話す姿を見て、嗚咽を催すような不快感を覚える。真奈はただ恋愛相談の一環でやっているだけ。そこに他意はない。みんなだってちゃんと見張っている。



「あ、動き出した」


 チャラ男と真奈が一緒に歩き始める。久しぶりの獲物ゲットなのか、チャラ男の鼻はこれ以上ないほど伸び切っている。


「ねえ、大丈夫?」


 僕の横で沙織が水谷に声を掛ける。口を押えながらチャラ男と真奈を見つめる彼女。そうだ、一番辛いのはこの依頼人である。


「うん……」


 その目は気のせいか涙で潤んでいる。あんなチャラ男のどこがいいのか。あんな男に流す涙など不要ではないのか。僕がミカに言う。



「ミカさん、もういいんじゃ……」


「いや、まだだ」


 真剣な表情のミカが言う。


「まだあれじゃあ浮気とは言えんだろう」


「はあ」


 じゃあ何をしたら浮気になるのか。僕は楽しそうに歩くふたりを見て感じたことのない焦燥感にかられる。



「カフェに入ったぞ~」


 依然楽しそうなララ。仲良くふたりでお洒落なオープンカフェに入る。水谷が言う。


「あそこ、私達の初デートだった場所……」


 重い。囁くような声であったが重い言葉。もういいじゃないかと思いながら僕は何度もミカを見つめる。



(何話しているんだろう……)


 僕はチャラ男の正面に向かって笑顔で会話する真奈をじっと見つめた。

 苦しい。何だ、この苦しさは。胸を潰されるような、足に重りをつけられたような絶望感。演技だと分かっている。これはチャラ男を成敗するための文芸部の仕掛けた罠。それなのに、そのはずなのにこの体の震えは一体何なんだ!?



(あっ)


 僕は一瞬顔をこちらに向け、辛そうな表情をした真奈と目が合った。



(霞ヶ原……)


 僕の心臓の鼓動が早くなる。血液がゆっくりと逆流し始める。



「お、店を出たぞ!」


 暫く会話をしたふたりが立ち上がり店を出る。チャラ男の癖に見事なエスコート。女性が気持ちよく動けるように細心の注意を払っている。あれがチャラ男がチャラ男たる所以。

 そしてそのチャラ男の次の行動に僕の体に引き裂かれるような衝撃が走った。



「あ、手を繋いだ!!」


 並んで歩くふたり。チャラ男は自然と隣の真奈の()を握りしめた。



 ガッ!!


「あ、おい!? 総士郎っ!!」


 僕は無意識に走り出していた。

 この時の記憶は全く残っていない。ただただ手を繋がれ、それを嫌そうに振り払おうとする真奈に向かって全力で走っていた。



(そうか……)


 流れる時間を感じる。その流れの中で僕はようやく気付いた。



(僕は、僕は……)




 episode3【僕は、彼女が好きなんだ】




 簡単なこと。考えなくてももう分っていたこと。僕は奪われていた。最初に会ったあの坂でもう僕は奪われていたんだ。



「え!? 神崎君っ!!??」


 記憶はない。

 ただ無我夢中で真奈の細い腕を掴むとそのまま通りを走り出した。何か後ろで大きな声がする。だけどどうでも良かった。彼女は今、僕と居るんだ。

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