母がやります。アナタは見て学びなさい。
間違えて連載で投稿してました。
悪役令嬢ものが好きで読んでました。ふと母がメインになるとどうなるのか?と思い、考えたことそのまま書きました。
拙い文章ですが、楽しんで貰えたらと思います。
「お母様。ただいま戻りました。」
「あら、アイリス?早いわね、卒業の舞踏会はどうしたの?」
娘が帰ってきた。今日は王立学園の卒業式であり、その後にある舞踏会に出るからとドレスを2人で選んだのだけど……帰りがはやいわね。まだ夕方になっていないのに。
「お母様、私、婚約破棄されました。」
「…………は?」
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私、アイリスの母。アリストテレスと申します。初代様から武を重んじる家系として、辺境伯家として、そして民を見守り続けてきました。
えぇ、誇りです。
領地では、麦畑の黄金。澄み渡る風、透明な泉。全て民が手を入れ、私達も時折お手伝いをし、はしたないとお思いでしょうが、民と共に魔物を狩り、共に宴会などもしたり。仲良く過ごしてきました。
シーズン中の王都では、私の愛する夫と共に舞踏会に出て、お茶会に呼んだり呼ばれたり。ささやかながら商売をし、貯蓄をやりくりしメイドや執事たちのお給金を管理したり。
えぇ、私の全力で家を守り、領民を守り、メイド達含む家族を護ってきましたわ。全力で。ほんとに全力ですわ……。
そんな私達の元で育った息子と娘。息子が少し脳筋に育ったのは仕方ないですが、こんなに美しく可愛らしく育った私の娘が……「婚約破棄………ですって………!!」
「お母様、殺気が。」
「奥様。」
私のメイド、メリーが私の愛剣を手渡してくれます。あら、メリーも怒ってるわ。
「メリーも、落ち着いて下さい。」
「落ち着いて……これが……落ち着いていられますか……!!ロラン!ロラン!!!」
思わず執事を呼ぶ声に力と声量がこもります。
少ししてノック音がして、老齢の執事が現れました。彼がロラン。長年この辺境伯家に仕えてくれています。
「お呼びでしょうか。」
「夫を呼びなさい。何がなんでも、ここに、帰ってこいと、急ぎなさいと、伝えなさい。」
握りしめた愛剣がカチカチと音がなりました。愛剣も怒っていますわ。
「かしこまりました。」
「お母様、その剣はお母様が握りしめて震えているから音が鳴っています。」
あら、冷静。
「お母様の娘ですから。あと、お顔に出ております。」
やだわ、心まで読めるの?夫のいい所は顔含め全てよー。お母様のお顔に出てるのは仕方ないわー。
「お父様の事を考えているのは分かりますし、仲が良くてなによりです。」
おっとり微笑む娘は、いつの間にやら紅茶を飲んでおりましたわ。一旦落ち着きましょう。
私は愛剣をメリーに返し、アイリスと共に紅茶とお菓子をつまみながら夫の帰りを待ちましょう。
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「あら?」
馬のいななきが聞こえてきました。
「あらあら、2人とも早いわねぇ。」
「テレス!!!!」
扉が壊れそうだわぁ……壊れたことないけれど。
「あなた!!」
逞しい胸筋に埋もれます。なんてふかふかであたたかく、力強い抱擁なのでしょう。
「あなた……アイリスが……あのぼんくらに……」
「嘆かわしい事だ……泣くなテレス。美しい涙だが、私はお前の笑顔が好きなのだ……」
「あなた……」
「あー……失礼、母上。僕もいます。」
「あら、いたの?ジル。」
夫に似て逞しく育ったわね、お兄様は。さすが私達の息子だわ。あとは婚姻だけね。そうだわ、お相手見つかったのか確認しなくちゃ。
「ジル?いつ結婚式なの?」
「母上……相手がいません……。」
「探しましょうか?貴方もう、21よ?分かっていますか?」
あら、しゅんとしてしまったわ。私が思うに、小さい可愛らしい子が良いと思うのだけどもどうなのかしら。
「テレス、その話はまた今度にしよう。」
「あらやだ。そうね、あなた。まずはアイリスですわね。あのぼんくら屠っていいかしら?」
「そうしたいのは山々だが、陛下と話をまずせねば。」
それはそうですわね。あのぼんくら、いえ、クズ……首をはねられそうね。やめましょ。あのぼんくら、この国の第一王子なのですものね。
「失礼ながら、旦那様。」
「どうした?」
ロランがそっと、夫に声をかけているけれど何かしら?
「まずは、お着替えを。」
夫がはっとした顔をしているわ。可愛らしいわね。
「そうだった。すっかり忘れていた。すまない、テレス。汚れた鎧のまま抱きしめてしまった。」
優しい〜愛してる〜。
「良いのよあなた。だって、汚れていても血塗れでもあなたの抱擁を拒否なんて出来ないわ。愛しい夫だもの。」
「て、テレス……!!」
は〜〜力強い抱擁〜〜。
なんて、堪能してたら兄妹に剥がされてしまったわ。残念。
今日は領内の見回りと、魔獣を少し狩ってくると言っていたけども汚れてても全然構わないのに。
「奥様、お嬢様がとてもよくない顔をしております。」
メリーに言われ、アイリスを見ると無表情に私を見つめている。やだ怖い。
「あなたも、お父様みたいな人を見つけましょうね?」
私がそういうと、途端に娘が華やかに笑ってるわ。意中の人がいるのかしら?
「ならば、お声がけして頂きたい方が。」
あらぁ。
「あらぁ。だぁれ?」
メリーに書き物の準備をさせ、何かをさっと書き記し私に差し出してきたわ。
「……あら、あなたの同級生よね?」
そこには、とある伯爵家の三男の方の名前。何かの折に、アイリスが仲良くしているお友達の中にいたわね。
三男だから、自分の生計を立てるため騎士科に入ったと言っていたわね。あらぁ、そう〜。あらぁ。
娘をちらりと見ると、顔が真っ赤になっているわ。
とても整ったお顔でしたものねぇ。兄の様に脳筋ではないにしても、成績は優秀で読書が趣味なのだとか言ってたものねぇ。
そうだわ、男爵の位があったわね。家に入ってくれるのならば、渡しても良いかもしれないわ。
「お母様?どうしました?」
「いえね、どんな方だったかしら?と思ってね。大丈夫よ、思い出したから。」
私はアイリスに微笑みを見せ、伝えます。
「ここからは母がやりますから、あなたは見て学びなさいね?」
「はい。ありがとうございます、お母様。」
「いいのよぉ。可愛い娘の為ですもの。あ、でもね?お家からは出ないわよね?大丈夫よね?」
「出ませんよ。彼も我が家の騎士団に入れるなら、それは光栄な事だと言ってました。」
男爵の位の書類はどこにしまってたかしら?あら、ロラン探してくれるの?ありがとう。
「あら、いつの間にそんな話を?」
「お母様、お手紙がありますから。」
あら、そういう事?黒に近いグレーで止まってるのならば、やりようはあるわね。
私は早速、戻ってきた夫と息子も含めて密やかな家族会議を開きましょう。
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満月の夜ね。良い夜だわ。
「奥様、旦那様。お呼びでしょうか?」
黒い布に包まれた人間が、私の前に現れました。彼は我が家の諜報部の長ですの。私と夫しか、まだ素顔を知りませんわ。
ジルには後継たりえるとなった時に、改めて紹介しませんとね。アイリスには申し訳ないけれど。
「我が家の娘が愚弄された。」
夫がスパッと言い放ちました。長は無言のままです。
「何を見た。」
夫が告げると、懐から紙の束を取り出し私達の前に置きました。夫と共に中身を拝見します。
写真機という魔道具を使った物のようです。記録には持ってこいのものですね。
「なっ……なっ……」
「あら、やだわ……まるで動物ねぇ。」
アイリスがぼんくらと婚約した時、いくつか契約というか制約を課しておりましたの。
そもそもこの婚約、辺境伯と王家の婚約は王家たってのお願いで叶った婚約ですの。
殿下が継承権を確実にした理由も、我が家が辺境の地であり、諸外国との繋がりが出来てきた事により国の利益になるから。という成果が確実であるからこそ、辺境伯領に力を入れようという婚約でした。
それがまさか、男爵令嬢にコロッといってしまうとは。
「なんと、情けない……」
「あなた……」
私はそっと、隣で座ったまま頭を抱える夫を抱きしめました。
「長よ……我が家の方針を話しておこう……」
「はい。」
まず、家族会議で決まった事ですが、あまりにも我が家が愚弄された為に社会的に抹殺しよう。というのが決まりました。ならば、早く動かないといけません。
「長にはこれから、陛下の所と新聞屋全てにこれをばら蒔いて来て欲しい。」
「陛下はいま、どちらへ?」
「我が家と最近仲良くさせて貰っている、隣国だ。」
そうなのです。陛下達は今、公務の真っ最中なのです。我が家の後ろ側にある位置です。
そちらでの公務でいない時を狙ったのかとは思いますが、何をしても悪手には変わりません。
婚約破棄をしたいのならば、まずは陛下へ義理を通すべきでした。
「承知致しました。向かいましょう。」
「一筆認める故、少し待て。」
「この度は……我が愚息が大変な事を……」
翌日。私は眠い目を擦らないよう気をつけながら、王妃とのお茶会に来ております。
あの後、国王様王妃様共々、夜半を早馬を使いなにがなんでもとこの街の宿にまで来てくれたのです。例外も例外過ぎて頭痛くなってきたわ。
ちなみに、王妃は第一王子であり、娘の婚約者であったぼんくらの母君にあらせられます。
「起こった事は仕方ない事です、カミラ様。」
メイドに支えられながら現れ、血の気の引いた顔で向かいの席に座っておられます。
「良くないわ、テレス……私の大事な親友の娘さんに対してなんたる……」
ほろりと涙が零れ落ちました。おいたわしい。あのぼんくらめ。私の大事な人を何人傷付ける気なのでしょうか。
「カミラ様、前々から娘から聞いてはいたのです。殿下が親しくしている女性がいて、その方は男爵令嬢であると。」
「な、なんてことなの……」
わっとハンカチに顔を埋め、本格的に泣き始めてしまったカミラ様。
あ、私達同級生なの。羨ましいでしょ?王妃になっても非公式な場所であるならば、と昔の呼び方を許してくれてるのよ。
昔から涙脆いとこは変わらないわ。相手の立場になり、泣いてくれるところも変わらない。
「っ……ごめんなさい、カミラ……陛下には私から力になるよう伝えるわね……」
「えぇ、お願いできますか?それと、もう1つよろしいかしら?」
「えぇ、なんでも言って。」
キッと強がりながらも、何かを決めたお顔。美しいわねぇ。
「私、殿下を社会的に抹殺したいの。」
あら、ぽかんとしてるわ。
「許せないの。何故私の可愛い娘を捨てるのか。何故男爵令嬢なのか。契約内容も忘れて、いつまでも学生気分でいるのは、ホントに……許せないわ。」
「テレス……そうね。アイリスは王妃教育も頑張ってこなしてたわ。寝る間も惜しんで学園の課題をこなし、剣の稽古や魔法の稽古もサボらなかったわ……」
テーブルの上にある彼女の白い手が、更に白くなるほど力が入っている。
「血が出てしまうわ……それでね、カミラ……渡した写真、ばらまいてもよろしくて?」
カミラがまたぽかんとしているわ。可愛いわね。
確かにばらまいてしまったら、王家の評判は下がるわ。でももう手遅れなのよ、カミラ。
起こったのは、学園の中。ということは、子息令嬢から親には回っているはずのこの話。なんなら、釣所が、こっそり来ているんだもの。困っちゃう。
「陛下が……陛下がよしとするならば、仕方ない事だわ。私達が教育を間違ったのだから。」
きりっとした顔をして、カミラがそう言う。凛々しいわね。さすが王妃だわ。
「継承権としては、弟君が次なのかしら?評判がとてもよろしいわよね?」
「えぇ、とても賢くて優しい子なの。婚約者の方は、別のお国の子なのだけど、弟と真逆で強気で剣も扱えるのよ?とても頼もしいの。」
「まぁ、とても良い相性なのね。」
「そうなの。真逆だからこそなのかしらね?」
クスクスと、やっと笑ってくれたカミラ。やっぱり美しい人は笑っていてほしいわ。
ならばあとは、やるだけよ。
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その後はもう、お察しの通り。
私達は時期を見て、写真をばら撒きましたわ。えぇ、それはもう盛大に。
新聞屋にこっそり置いてきたり、お茶会では親しい人にこんな事されて娘の事をこれでもかと庇い写真を見せて盛大に泣き崩れてやったわ。
なんて酷い殿下。なんて汚らわしい娘なんだ。男爵令嬢の商売も上がったりね。だって、あの小娘の美貌に目をつけた男爵が、自分の養女にして引っ掛けてこいと言ったとかなんとか。
見事、殿下は種を撒き散らされても困る。と生涯幽閉。
男爵は私達への賠償金が作れず、男爵位を変換と共に商売を売ったらしいわ。
ざまぁみやがれですわ。
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「お母様。」
「アイリス?どうかしたの?」
「やりすぎでは?」
「あら、優しいのねぇ〜好き〜」
「は、恥ずかしいので……」
「やりすぎではないわよ?だって、私達の娘がバカにされたのだから、やり返すわよ。」
「……はい。あの。」
「なぁに?」
「私も、お母様やお父様。お兄様も、皆大好きです。」
「可愛い〜好き〜ずっと傍にいるのよ〜」
「はいっ!」
娘アイリスは想い人と婚約から、婚姻までして、男爵位を分けましたの。あ、あの小娘のじゃないわよ?領地をこう、ちょきっとしてあげたの。海も近いから、良い特産品を作ると張り切ってるわ。
そうそう、小娘の事。あの小娘、借金背負わされて娼館に入ったらしいのだけど悪いのにひっかかって背中刺されてそれっきりらしいわ。
お墓参り位は行こうかしら。貴方のおかげで、私の娘は元気です。ってね。
楽しみだわ。
読んでくれてありがとうございます。