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2-09 俺のうかつな一言で、国際パチンカス女子養成所が出来た。でも儲かるから規模拡大

 パチンコの衰退を物ともせず、躍進を続ける業界の風雲児「トマホーク・グループ(旧名:まさかり観光)」。サウナ併設の女性専用店舗という新機軸を主力兵器に、全国主要都市の同業者を次々と吸収し、今やその勢いは留まる事を知らない。

 さらには米国進出を果たし、主に先住民系カジノとしてパチンコ店を積極展開するまでに至り、大統領選挙の票田としても意識される程である。

 それを率いるのはまだ二十代半ばの青年、まさかり 博徒ひろと氏だ。

 沈滞する日本にカツを入れる若きリーダー、言うなれば巡航核ミサイル。インディアンの美女軍団を側近として率いる彼は、まさにアメリカン・ドリームの逆輸出その物、日本男児ここにありと言えよう。

 本誌「月刊パチンコジャンキー」は、その軌跡をたどるべく単独インタビューに挑んだ。その成果が、この度の短期集中連載企画である。

 知っている読者も多いだろうが、俺の生まれはパチンコ店チェーン「まさかり観光」の創業家だ。端から見れば、俺は〝親ガチャで当たりをひいたボンボン〟なのだろうが、世間的なパチンコのイメージは、あまり良い物とは言えなかった。

 実際、パチンコにのめり込んで依存症となり、借金を重ねて生活が破綻する者がいる以上、批判はもっともな面もある。基本的に自己責任とは思うが、生活破綻者の発生は社会の負担にもなってしまうのだ。

 こちらも、常連客の生活破綻は望んでおらず、商売として細く長く付き合いたい。

 因果応報と言うべきか、近年、パチンコの人気は衰えつつあった。様々な理由があるが、最大の物は〝娯楽の多様化〟である。世の中に楽しい物があふれている状況では、パチンコに足を運ぶ人が減るのも必然だ。

 加えて、夏場に自動車で来場した客が、乳幼児を車内に置いたままにした結果、熱射病で死亡する事例が目立つ様になった。

 これはパチンコに限った事故ではなく、駐車場を備えた施設全般で起きていた。だが元々、不健全な娯楽という印象のあるパチンコは特にやり玉に挙げられ、イメージはさらに傷ついてしまった。

 パチンコ客を揶揄する、〝パチンカス〟なるスラングが定着してしまった程である。

 もちろん、パチンコ業界も努力した。安く楽しめる様、玉一発の価格を一円に抑えた〝一円パチンコ〟、ヲタク層を狙ったアニメの版権台等といった新機軸を導入した。安全対策として、駐車場の定期巡回を行う事で、乳幼児の車内放置も激減した。

 それでも時代の波には逆らえず、同業者の倒産や自主廃業が相次いでいたのだ。

 鉞観光はどうにか持ちこたえ、閉店した同業者の客を吸収する事で、むしろ以前より賑わっていた。しかし、決して先行きが明るいとは言えなかった。



 高校二年のある日。親父(編注:当時の社長、現会長の一八かずや氏)は夕飯の席で、経営の打開策を俺に尋ねてきた。


「十代の若者の代表として、お前から意見を聞いてみたいんだよな」

「俺、まだ未成年だぞ? パチ屋の事なんて聞いて大丈夫か?」

「将来はお前も経営陣になるんだから、会社を潰したくなければ何か考えてみろ」


 今の調子なら、親父の引退までは持ちこたえるだろうが、俺の代でババを引くのは勘弁願いたい。あくまで参考意見なのだろうし、言いたい事を言ってみる事にした。


「率直に言うけどな。パチ屋に行きたい若者なんていねえぞ? 店は整理して、跡地は賃貸マンションにでもしちまえ」

「却下だ。取り壊しと新築にもカネがかかる」


 黒字の内に撤退するという発想はないらしい。賃貸マンション業で悠々自適という安楽人生の夢は、瞬時に潰えた。


「じゃ、テコ入れ策か、軽いリフォームで済む様な転業の二択しかないと思うぜ」

「だから、そういうアイデアがないか聞いとるんだろうが」


 少し考えた末に思いついたのは、ここ数年で普及した、電車の女性専用車両だった。ああいうのを、うちでやってみたらどうか。


「女性専用店とかどうよ」

「同業者がやった事があるけどな。確かに女性客はある程度開拓出来たが、既存の男性客を切り捨てる事になっちまう。チェーン全体の評判が下がったとかで、結局やめちまったな」


 同じ事を考えた商売敵は既にいたらしい。常連のオッサン連から見れば、出禁も同然だから、反発されるのも解る。


「いまある店でやれば、来てた客から文句は来るだろうけどよ。別店舗でブランド変えればいいんじゃね?」

「当たるかどうか解らんアイデアで、新規出店する博打を打つのか?」

「同業者が閉める店を、救済の体裁で引き取りゃ安上がりだろ。そういう話、結構あるんじゃね?」

「なら、丁度いいのがあるな。うちの既存店の近くで、メリットが乏しいから二の足を踏んでいたんだが…… 少し考えてみるか」


 その話題はそこで終わったのだが、翌年の、受験を控えた高三の夏。俺がすっかり忘れていた頃に、親父は再び話題に出してきた。


「以前お前が出した、女性専用店の件な。半信半疑でやってみたら結構好評なんだが、ちと困った事になってな」

「本当に始めたのかよ…… で、何があった?」


 未成年という事もあって、俺の方からは家業の状況を積極的に聞いていなかった。まさか、素人の思いつきで話した事を、本当に実行するとは……


「試験営業用に押さえた店、トマホークというんだけどな。サウナが併設だったんだが、パチンコだけでなくてそこも女性専用にした。で、最近、急速に宿泊施設が不足してるだろ。連日大盛況でな」


 都市部のパチンコ店は、サウナを併設している場合があり、押さえた店舗もそうだった様だ。また日本のサウナは簡易宿泊施設を兼ねている事が多く、むしろ、そちらの機能の方が重視されているのだが、終電を逃したサラリーマン向けで、男性専用が大半だ。

 なる程、女性向けの宿泊可能サウナなら、人気が出てもおかしくないだろう。


「いい事じゃないか。何が問題なんだよ」

「日本観光ブームで、客がほとんど外人なんだよな。店員に、外国語の対応が出来る奴がいなくて、困ってるという訳だ」

「今はどうしてるんだ?」

「店長だけは英語が出来る。後は、スマホの翻訳アプリでどうにかな。だが、同タイプの店舗を他にも出すなら、いつまでもそれじゃいかんだろ」

「で、俺にどうしろと?」

「英語が出来る女性店員を集めるには、どうしたらいいかと思ってな」


 そう来たか。ただでさえ最近は人手不足なのに、語学力のある人材を、イメージの悪いパチンコ業界に引っ張ってくるのは難しいだろう。


「奨学金と寮付きで、留学生をバイト募集するとかどうだ? 新聞奨学生みたいな感じで」

「それはいい。店のイメージも良くなるだろうしな」


 またもや、親父は俺の思いつきを採用するつもりの様だ。

 気になって、後で「トマホーク」の評判をネットで確認すると、驚くべき事が判明した。何と、女性の底辺ギャンブラーが集う魔窟として、日本観光の裏穴場と化してしまっているというのだ。

 世界各地から集う女性客は、滞在期限ギリギリまで、開店から閉店までの間、パチンコにひたすら興じるのだという。

 女性専用で治安の心配がなく、閉店後に泊まれるサウナが隣接している事が人気の理由らしい。うちの経営ではないが、隣にイートイン付きのコンビニがあるので食事に困らず、ATMでクレカのキャッシングが出来るのも資金調達に都合がいい様だ。


「国際パチンカス天国かよ……」


 元はと言えば俺の思いつきが原因なのだが、すってんてんになるまで観光客が遊んでも自己責任だ。地元民ではないから、さして良心も痛まない。国が計画を主導している観光客向けカジノだって、似た様な物だろう。

 むしろ、海外観光客をメインにした店が成立するなら、パチンコ離れで先細る業界にも光明が見えるという物だ。

 ただ、世界に悪名がとどろいている状況で、奨学金と住まいを用意しても、はたして店員希望の留学生が来る物かどうかが不安だった。

 とりあえず、俺は自分の目先の課題である、大学受験に専念する事にした。



 受験を終え、どうにか第二志望の地元公立に合格を決めた頃。採用活動の成果を親父が報告してきた。


「留学生の件な。採用が決まったぞ。今はネットで面接とか出来るから便利だな」

「何人だ?」

「二十人。競争倍率は三倍もあってな。うちみたいな所に応募してくれて、全く有難い事だよ」

「どんなのだ?」


 個々のプロフィールを見ると、全員、国籍は米国。顔写真を見ると、白人も黒人もいない。アジア系でもないし、ヒスパニックとも何か違う。

 個々の住所を細かく見ると、全員、先住民保留地の出身だ。


「別に人種はどうだっていいけどよ、何で全員、インディ…… やべ、アメリカ先住民なんだ?」

「アメリカの先住民保留地は自治権が強くて、規制が厳しい州でもカジノが造りやすいんだと。で、パチンコのノウハウを学んで、地元に持ち帰りたいそうだ。心意気が気に入って、そういう姉ちゃんを優先的に採用する事にした」

「いいかも知れないな、それ」


 将来の為、うちの店でノウハウを身につけたいというなら、仕事も単なるバイトでは無く、前向きだろう。確かに、そういう人なら採用したくなる。


「で、お前、四月からトマホークで副店長な」

「ええ!? 俺、大学が……」

「半分はお前と同じ大学に行くんだし、姉ちゃん達も働きながら学ぶんだから、お前も経営者候補としてきっちり働けい。店長がいるから、何の心配もいらん」

「店長って、確か元は族のレディースで、女子少年院上がりの……」

鬼首おにこうべ君は立派に更生しとる。少年院で英検一級を取った才女だぞ」


 鬼首店長の名前や経歴、強面のカリスマ女店長として畏怖されているという事は、ネットで店の風評を調べた時に初めて知った。特攻服に脱色した長髪という、レディース時代の写真もネット上で観た。無論、俺と直接の面識はない。

 確かに、そういう人物でもなければ、国際パチンカス女共の集う店を切り盛り出来ないかも知れないが……

 ともあれ、不安材料が増えた。パワハラあふれる職場になるのではないか。俺は店長と留学生店員達との間で、凄まじいストレスがかかりそうな気がする。


「姉ちゃん達は週末に中部空港へ着く予定だから、出迎えの準備を鬼首君と打ち合わせろ」

「いつ?」

「今日だ。鬼首君は、ここに呼んである」


 ちょうど、インターホンの呼び鈴がなった。


「押忍。鬼首、参上しました!」


 ドスの効いたアルトで威勢のいい声が、スピーカーから響きわたった。

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[一言] 【タイトル】正直なところ、タイトルだけだと「ウシジマくん」みたいな内容を想像して、あまり読みたくない。 【あらすじ】タイトルから受けた印象と大分違った雰囲気のあらすじだった。一番情報量の多い…
[一言] タイトル: 女子を養成する?? 儲かる?? どゆこと?? あらすじ: パチンコの話だったよ!!(ことばをしらないにけらった) ひと言感想: すごーい。時代を見てアイデアを出し、経営してい…
[良い点] 面白かったです 書き出しの書式やパチンコというテーマも独自性がありながらしっかりとネタに昇華されてて良かったです あとメインテーマに対し原因と対策をきっちり言語化していた辺りが個人的な読…
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