第Ex話『謎の少女』
人間が嫌いだ。
自分のために利用できる人を探して、いつも私も値踏みしてくる。始めに親切を見せてもそれは囲い込もうと取り繕っているだけで、腹の中では私を道具のようにしか思っていない。それで使えなくなるか邪魔になったら、囮として切り捨てて、自分らが生き残ることしか考えない。
とりわけ男は下心さえ隠さずに近づいてくる。身体が小さいから抵抗できないと思われているのだ。完全に舐められている。そういう奴には軽く圧をかければすぐに目の前から消えてくれる。
集団で囲ってくることもあった。逃げ場を無くせば言いなりになると考えたんだろう。それでも従わなければ手を出してくる。そういうときは一人二人の指を切り落とせば、恐れをなして皆逃げていく。残るは私と爪が赤い指だけである。気持ち悪いから拾うことはしなかった。
やりすぎだとは思っていない。事実ギルドから警告を出されたことはない。当たり前だ、全て相手から蒔いた種なのだから。大人は都合の悪いことを隠す汚い人間だ。
その点、子供は幾分かマシだと感じる。殆どは無知蒙昧で隠すことを知らない。大人のように損益で行動しないし、邪な考えを持つ者はまずいない。だが裏表のない行動と興味は、却って接し方を悩ませる種になっていた。純粋すぎる心は私には毒過ぎた。だから子供も得意ではなかった。
私の向かい側に座るレインという奴は、どちらかといえば子供っぽい。背丈は私と変わらないが、恐らく歳は私よりも下だろう。ところが強引な一面がある。やられた腕を見て有無を言わさず掴んできたし、突き放すような言葉を並べても私についてきた。恐らくもっと仲のいい奴らがいたのにも関わらずだ。そこだけは子供っぽくない。どちらかというと、私の嫌う大人像だ。
でも不思議とレインから嫌な雰囲気を感じない。そこらの大人より確かな実力を持っているし、そこに何か裏があることも間違いない。ただそこから黒いものが見えない。それも子供っぽいからだろうか。けれど、子供のような毒もあまり感じない。
彼女は人を疑うことを知らない。初めて会ったときの夜、レインは私の目の前でぐっすりと眠っていた。鉱山から出る時、その力を私が利用するかもしれないのに、レインは自分の力を晒した。世間知らずが過ぎる。
南の地平線から海が見えてきた。レインは静かに窓に顔を近づけて、夢中になって覗いていた。左の潤った瞳には微かに空と海と陸が層になって見える。輝いているようだった。
…海を見たことがないのか?そんな馬鹿な話あるか?海を見たことがない冒険者なんて、フォークナー出身しかありえない。だがあの国は入国も出国も厳しい規制を敷いているはずだ。一人で抜け出せるとは到底思えない。レインの性格を考えたら尚更だ。
一体何者なんだ…?
頭の中でその関心を追い出そうとする。前にも同じ疑問にぶち当たった。他人のことを気にする必要なんてない。相手を知ったところで、最後はどこかで別れることになる。
だが釘打ちされた興味は、いつまでたっても頭から消えることはなかった。




