第一章 生まれてきたことが罪なのか
第一章 生まれた事が罪なのか
――――人から避けられることには慣れている。
西浦章一は、自分の醜い外見が人に不快感を与えることは承知していた。
福岡を発ってから早や九日が経つ。
ついに広島にまで到着した。
このペースでいけばあと十日もあれば大阪にでもつくだろうか。
自転車のタイヤの空気をどこかで入れておきたい。
人に、避けられるのには慣れている。
しかし、大阪に着いてからはどうしようか。
アテはない、コネもない。
誇るべき学歴はないし、職歴もないし、資格もない。
どうにかこうにかしないといけないが、とかく世間は世知辛い。不況だし、氷河期だし、絶望的だし。
鬱鬱としていると、悪霊が寄ってきた。
おどろおどろしいが、所詮コイツらは実害がない。
悪霊の実体化は精神健康のバロメーターぐらいに思えばいいのだ。
「なんで、広島に悪霊が実体化?」
こんなものが実体化するのは政令指定都市だけに限られる。
確か広島は精霊指定都市じゃなかったはずだけど………
「ああ、そういえば今年から指定されたんだっけ」
記憶をたどり、現実とすり合わせる。
しかしなんだか街の様子がおかしい。
悪霊以上に騒がしい妖精が能天気に遊びまわる姿が見られるはずなのに、どこにもいない。
手入れをしていないので伸び放題になったヒゲを触る。
昔、修学旅行で来た時にはもっと人がいたような気がしたのだが、どうしてこんなに少ないのだろう。
「おじさん、悪霊に取り込まれる所でしたよ」
巫女さんだった。うわー巫女さんだ巫女さんだ。ナマ巫女さんだよリアル巫女さんだよ。三次元の巫女さんだよ、紅白のコントラストが神秘的にいやらしく感じるよ。
「お、おじさん!?こう見えてもまだ18なのですが」
………いや、失礼、この格好では確かに老けこんで見えるわ。
「別に死ぬなら死ぬでも良かったのですが」
「旅の途中でしたら、早めに広島を抜けた方がいいですよ。今、広島は大変ですから」
「一体、なにがあったんですか?」
「しらないんですか?」
目を大きく見開く巫女さん。
「ええ、ここ十日近く自転車で旅をしてたので、ニュースには疎いもので」
「精霊が………暴走したんです」
「十八番目の都市精霊、『広島』が」