プロローグ
――――ゆらら、ゆらり
我が身から 離れて浮かぶ 蛍火を
――――ふわら、ふわり
身体から 少しずつ離れゆく、淡く、幽かな、幻灯を
闇夜に光、まろびいでて、浮かび上がる……自然現象による発光ではなく 、科学技術による発光でもなく、怪異なる光 されども、どこか優しい光を。
恐れながら、敬いながら、崇めながら……祈りながら、願いながら何万もの人々が、慰霊の地広島平和記念公園で見守っていた。
待ち望んでいた、この日、この瞬間。
この日の為に、帰ってきた市民もいる。東京から、大阪から、日本の方々から、広島の発展の為に、広島の新たな歴史が生まれる瞬間を目撃するために。
木々から、草花から、川から、海から、山々から、街灯から、ビルから、工場からも、光が、人々の祈りが、集まり、凝縮し、物質化され――――受肉する。
どんな『子』が産まれるのだろうか、と人々は期待で胸を膨らます。
どんな『広島らしさ』を表現してくれるのか、人々は卵か、繭のような光の珠を見つめながら、想像を巡らせる。
広島市民人口114万の人々の生命を、広島の地と川と海と人口建造物の諸々をほんの僅かずつ戴いて
―――そして、『それ』は産まれた!
だが、しかし―
それは、望まれていたものとは、違っていた。