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第一章

ただただ好きな子を主人公にしています。

下調べも何もなしでつらつらと書いています。

誤字や設定に無理があるかもしれません。

でも私はこの子たちが幸せになることを願います。

リーファが望む進路に進むことを私は応援したいです。

 私の太陽は今日も兄妹を見つめている。


昔むかし、あるところに、とっても元気いっぱいで明るい少年がいました。

「彼」のそばにはいつもみんながいました。みんなの中心。何をするのも「彼」がリーダーでした。そんな「彼」のそばにいるのが「僕」でした。

「僕」は勉強、運動、音楽なんでもできました。でも「僕」はみんなの中心にはいませんでした。

それでいいと「僕」は思っていました。

「僕」の望みは「彼」の望みをかなえることでした。だから「僕」と「彼」はいつも一緒でした。どこに行くのも、何をするのも一緒でした。「僕」は「彼」の望みをなんでもかなえました。


例えば。

「頑固で傲慢な店主から値切ってリンゴを買ってくる」「家族にばれないように一日家を空ける」「家の人にばれずにおやつをとってくる」など。


子供のいたずらの延長戦のようなものばかり。「僕」と「彼」は二人でそんなことばかりしていました。まわりの大人は、そんなことがおこっていることすら気づきません。それは、「気づかないように」という「彼」の「僕」への条件でした。だれにも気づかれないように、「彼」の望みをかなえること。「僕」はその条件もちゃんと考えてかなえていきました。「彼」の望みによって付帯条件としてついてくるすべてに、あわせていく。二人は成長してもいつも一緒でした。変わらず「僕」は「彼」の望みをかなえました。成長に合わせて、「彼」が望むことが変わっていきました。

少しずつ少しずつ難しいこと、大きなことになっていきました。


それでも、「僕」はかなえました。

変わらず、「彼」のつける付帯条件もちゃんと。


完璧なまでに。


そんなある日。「彼」はいつものように「僕」に望みました。しかし、その望みはとても難しいことでした。今までの比にならないぐらいに。

「僕」は考えました。どうしたらいいのかを。

「僕」は悩みました。「彼」の望みをかなえたいという気持ちは変わりません。かなえられないわけではないからです。

けれど、その方法は「彼」の「付帯条件」に外れてしまいます。「彼」はいつだって、どんな願いだって、かならずつける「付帯条件」がありました。


それは「法にふれない」。


「僕」はその条件があるから、「彼」の望みをかなえてきたのです。「彼」がその「条件」をつけてくれたから。だから「僕」は「僕」として「彼」のそばにいることができました。  

けれど「僕」と「彼」の望まないかたちで、その望みはかなってしまいました。


 「僕」がこわれた瞬間でした。


 その日を境に、「僕」と「彼」の関係が変わりました。


 「すべて俺のせいにしてくれ。君はのぞむことすべてかなえてくれた。その代償はすべて俺が背負う」


 その言葉に「僕」は盲目的に「彼」に仕えることに決めました。これまで通り。「彼」の望みをかなえ続けることにしたのです。


 自分の罪から目を背けるために。



第一章

 いつものように、執務室で作業をするセリカを待ちながら、窓の外を眺めた。

「今日も王はいないんだね」

 振り返らずいう私に、作業の手を止めることなくセリカが返してくれた。

「家業はお忙しいみたい。特に急ぎの物もないし、彼にも確認しなくてはいけないことは共有しているわ」

 ここ最近見かけないもう一人のこの部屋の主。

 まあいないから私はここにいられるんだけど。

「それに彼は引継ぎないから」

 ……。

 とても当たり前のことなのに。なんだか寂しく聞こえたのは気のせいだろうか。

 現在の王は学年が一つ下だから、まだ任期がある。

 今年は緑の姫、赤の王、青の王と姫が任期満了。というか卒業による代替わりしか基本的にはない。

「入れ替わり人数が多いから、残る側としてすることもあると思うけれど?」

「王も二年目だからね。青の姫はまだ一年目だからいろいろと学んでいるところのようだけれど。大丈夫よ。とても優秀な方だから」

 学園史上最優秀生徒といわれるセリカがいうのだから、王も優秀と。ということは知っているけれど。

「姫に仕事が偏ってないのであれば、私としては問題ないけれど」

 この子が大変な思いをするのは違うと思うから。

 まあ……この子はどんなことであれ、大変だなんて感じないのだろうけれど。

 ん?

 門のあたりに生徒がいる?

 中等部と高等部の一次帰宅組が落ち着いてきたあたりのはず。時間的には。あと残っているのは部活動の子たちぐらいか。

「あれは……」

 幼等部?

 当の前に帰っているものなのに。迎え待ち?

 というかもう一人って。

「何か見つけたの?」

「ああ。幼等部の子二人。門のところにいるからお迎え待ちなのかなって」

 目を離さないまま答えた。

「あら。大丈夫かしら」

「なにが?」

 私の横に来た。

「先日。学園近くで生徒に学園のことを聞いてきた不審者について連絡を受けたの。何も答えない対応をしたようなんだけれど。相手は中等部の子だったからそれで済んだみたい。幼等部の子だとそれは難しいと思うのよね。でも一人ではないから大丈夫かしら。学園に敷地内のようだし」

 そういう目はとても優しくて、ふわっと笑っている。

「まああの子ならうまく対応するだろうけれど」

 って。

「対応お願いしてもいいかしら」

 影から人が出てきて、声をかけている。

 あれがその人だということはセリカの声色でわかったからすぐに動いた。

 敷地には入ってきていないけれど、後ずさりして逃げようとしているのがわかる。

 ……大丈夫といったけど、それでも見ちゃうとダメよね。

 後ずさり……か。

「行ってくる」

「先生に声をかけてくるわ」

 廊下にでて二手に分かれて。

 すれ違う生徒たちには急いでいることを気づかれないように。

「こんにちは」

 少し後ろから声をかけた。

 私の声にびっくりしたのか、顔が上がって一歩足をひかれた。自分たちから意識が変わった、いいタイミングで一人が手を引いて私の後ろにかくれた。


 いい判断。さすが。


「いかがなさいましたか」

 にっこりと笑う。

「き。君もこの学園の生徒さんだね。学園について聞きたいことがあったから声をかけたんだよ」

 ぎこちない笑顔に震えている声。

 別に怖く感じられるようなことはしていないつもりなのだけれど。

「そうでしたか。アポイントメントはおとりで?」

「いえそういうわけでは」

「広報とはお話をしてあるのでしょうか。でしたら担当をお呼びいたしますが」

 つかまれているすそから震えが伝わってくる。


 ……怖かったよね。


 なんで学園のことを知りたいのかはどうでもいいとして。生徒に不用意に声をかけないでほしい。ましてやこんな小さい子に。

「いえそういうわけでは……」

「では。どういったご用向きでしょうか。本校の生徒に何かございますでしょうか」

「で。っですから。学園について」

「学園について。ですか。学園についてどのようなことをお聞きになりたいのでしょうか」

「どのようなと言いますか。……お答えいただけるんですか」

「ご用向きの確認です」

「は?」

「どうしましたか」

 先生が来てくださった。

 適当なことを話していたのはただただその場しのぎ。

 その後ろにセリカがにっこりと笑っている。

 セリカの姿にさすがに幼等部の子も知っているみたいで、パッとかけよっていった。

「本校の生徒に御用でしょうか。お約束はありますでしょうか。どういったご用向きで」

 一方的に先生が笑顔で話しかけていく。

「あ。えっと。あ。いえ……。失礼します」

 さっきまでの空気とは打って変わって。完全に負け空気で、バタバタとどこかに行ってしまった。

 ……あまり感じよくないな。

「リーファさん」

 あ。……こっちにきたか。

「はい」

 にっこりと笑って首を傾ける。

 何でしょうというように。

「どうして一人でむかったのですか。姫が我々を呼ぶのを待つことはできませんでしたか」

「私がお願いしたのです」

 セリカが二人を背中にして。

「誰か入れば空気が変わるかと思って。彼女に」

「はぁあ。姫。そういったことは控えてください。何かあってはいけませんので。……ですが確かにその子たちに様子からにその判断はよかったようですね」

 まだセリカの服をつかんで、涙目になっている生徒をみて、深く息をはいた。

「リーファさん。二人をお願いできますか。姫に少しお話があります」

「わかりました。校舎にはいってます。……大丈夫? いこっか」

 多分さっきの人前科アリだわ。あの感じ。先生も知ってる顔って感じだったし。

 手を差し出す私に、一人がつかんで、それをもう一人が真似するようにしたから、私の両手がちゃんとふさがった。

「お迎えをまっていたの?」

 気持ち声のトーンをやわらかく。

 目線があうように下に意識をもつ。

「はい。いっしょにまっていました」

「そっか。……姫がきて驚いたぁ?」

「……はい」

 答えてくれるのは一人だけ。

 もう一人はまだ震えている。

「よし。ここでまってようか」

 校舎に入ってすぐのところ。

 ここからなら門は見える。


 というか話している姿が見えるなぁ……。

 ええーっと。……さすがに読唇術で読むには無理があるか。


 すっと視線を落としてにっこり笑う。

 目が合うとは思ってなかったのか一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに笑い返してくれた。

 まったく。この子は本当によく見ている。

「お迎え。……きたみたいね」

 話が終わったタイミングよく来てくれたのが確認できた。

「ありがとうございました」

 二人とも私とセリカに頭をさげて、門のところでお迎えの人と話をしている先生のもとにかけていった。

「気をつけてねぇ」

「はい。気をつけて」

 大きく手を振る私に対して、小さく手を振りほほ笑むセリカに、少し顔赤らめてたなぁ。

 きっと帰ったらこのこと話すんだろうなぁ。で姫の評価が上がると。

「何考えているの?」

「ん? なんでもないよ。先生はなんて?」

「先ほどの方について簡単な説明を受けたわ。空気で感じたと思うけれどあまりよい印象を学園側は持っていないようなのよね。致し方ないことだけれど」

「ああ。先生のあの態度はなかなかだったね。あの人が話になった人?」

「そう。とってもタイムリーだったわね。ああぁ。ありがとう」

「ん?」

「私のお願いを聞いてくれて」

「あぁ。別に大したことはしてないよ。あなたより少しだけ先にあの場にいっただけのことよ。その判断だってあなたがしたわけだし。先生としてもそれが正解だったみたいね。私としては満足」

「ありがとう」

「どういたしまして」


 だめだ。笑ってしまいそう。

 この会話おかしいでしょ。なにこれ。

 ああぁ。ほんとやめてほしい。


「……おい。おまえたち」

 あの子たちのお迎えがきたから私たちも帰っている最中。

 後ろからかけられた声は、さっきの人の声で。

 とってもトゲのある声。

「おまえたちのせいで話ができなかったじゃないか。せっかく話してくれそうだったのに。それになんだよあの態度。あれがこの学園の」

 ついてきているのは気づいてたけど、どうでもよかったから無視してたのに。

何がいいたいのだろうか。

 まるで私たちが邪魔をしたような……。

 いやそれはそうか。邪魔はしたな。

「きけよっ!」

「離していただけますか」

 私の肩をつかんで無理やり振り返らせてきた。

 それに対して、セリカがその腕をつかんで。

「なっ……。なんだよ……」

 ああぁ痛そうな顔。

 かなり強く握ってるのかな。

 というかセリカ怒ってるからやめてほしいのだけれど。

「おっおまえ姫ってやつだろ? こんなことしていいのかよ……。姫ってみんなの手本……なんだろ……」

 震えた声で言ったところでなんの意味もないのだけれど。


「姫とは」


 にっこりと笑っている。


「学園の秩序と平穏を守ることを第一責務としています。それは生徒を守ることです」


 さらに笑みを深めて。


「離していただけますか」


「……ちっ!」

 にらむだけにらんで今度こそどこかへいった。

「……こわいよぉ。手大丈夫?」

「あら。そんなそぶり一切しなかったじゃない? 手は問題ないわ」

「バレてた? あの時こっちに対してあんまりいい印象もってなさそうだったし。なにより姫がきたこと目ざとく見てたなぁって。多分突っかかってくるって思ってた」

「言葉遣い。あまりよくないわね」

「二人なんだからいいじゃない」

「ふふっ」

「私としてはセリカの方が怖かったけれどね。怒っているの伝わってきたわ」

「あらあら。私もまだまだね」

「いやいや。相手も怖かったと思うよ。あんなきれいな笑顔なのに、まったく笑ってない声で。しっかり力入れてにぎっていたし」

「必要なことでしょう。姫は……。私の思う姫はそうあるものだから」

「ありがとう」

「何がかしら?」

「怒ってくれて」

「あら。当たり前じゃない」

 今度こそ心からの笑顔をうかべて。

「私の大事な家族が怖い思い、嫌な思い、傷つくようなことがあれば。私は心から怒るわよ」

 ……。

 そういってまた前を向いて歩きだすセリカに、私は心から嬉しかった。

 私の好きなセリカの笑顔だった。

 やっぱり。

 この子は誰よりも家族を愛している。

 そして私は。

 そんなこの子を愛している。


「おねえさま」

 聞こえてきたのは末の妹の声。

 私たちは一緒に振り返った。

「セリカおねえさまっ。リーファおねえさまっ」

 駆け寄ってくるのは声の主であるスノー。その後ろをレミファが追いかけている。

「あらあら。どうしたの?」

 ゆっくりスノーに向かって歩くセリカのあとをついていく。

「っおねえさまっ! あのね!」

 大好きな姉が自分に向かってきてくれている。

 それがうれしくて、速度があがって。

「スノー!」

 レミファの大きな声が響いた。

 レミファがスノーを抱き上げて、セリカに抱きつく前に捕まえられてよかったわね。

「ありゃ?」

「失礼いたしましたお姉様方。……スノー。元気に走るのはいいけれど、こけてしまいますよ。気をつけて」

「レミファおねえさま!」

 姉の小言など聞こえていないようで、いつも遊んでくれる姉に抱きかかえられ、うれしいのか首に抱きついている。そんな妹に困った笑みを浮かべている。

「お姉様方にごあいさつ」

 レミファはスノーをゆっくりおろして、服を整えた。

「セリカおねえさま。リーファおねえさま。おかえりなさいっ」

「お姉様方。おかえりなさいませ」

 元気のいい声と落ち着いた声でそれぞれ私たちを迎えてくれた。

「ただいま。スノー。レミファ」

「帰ったよ。ありがと二人とも」

 レミファに笑いかけ、スノーと視線を合わせるために、しゃがみ込み。

「レミファのいう通りよ。とてもうれしいけれど、怪我をしてしまっては痛くてつらいわ」

 セリカが頭をなで、笑いかけると、スノーはレミファとセリカ、両方を見て、シュンとうつむいた。

「ごめんなさい……」

 より小さくなる末の妹に愛おしい視線を向けるセリカとレミファ。

 一方で私は。

「スノー! 私はいいと思うよ。怪我さえなければどんどん走るといい」

 スノーを抱きかかえて腕の中に迎え入れる。おでこを合わせてぐりぐり。

「っうふふ。リーファおねえさまっ。くすぐっ……たいです」

「あらあら。ところでスノー? どうしたの?」

 私たちを見つけて声をかけてきたときに何かを言いかけていたスノーに、セリカが優しく問いかける。

「さっきはありがとうござました。おねえさまたちが来てくれて、とってもうれしかった」

 本当についさっきのことだ。

 幼等部の二人のうち、一人は私たちの妹。目の前にいるスノーだった。

 だから大丈夫と思ったし、危ないと思った。

 私たちは最低限の護身術を身につけているからこそ。この子なら対処できてしまうから。

「何もなくてよかったわ。学園側で今後対応がされるようだから安心して過ごしてほしいわ」

「はい! おねえさまが姫なのでこわくない!」

 とってもかわいい私たちの妹は、姫の姉がつくる学園が好きなよう。

 それが全身から感じられて、セリカがとても嬉しそうで。

「あ。あとね。こんどね。がくえんのお出かけでバラを見にいくの。お出かけはレミファおねえさまとごいっしょするのっ!」

「あぁっはい。スノーのいう通りです。学園のカリキュラムで、年に二回ほど、他学年との交流として、学園外にお出かけしています。……お姉様方には説明不要でした。失礼いたしました」

 スノーがパアと笑顔の花をさかせてレミファを見た。そんなスノーにはにかみながら、恐る恐る私たちに補足してくれた。

 ここの子たちの大半が気づいている、学園のカリキュラムの本当の意味。

「たのしみですっ!」

 元気のいい笑顔。

「よかったわねスノー」

 心から嬉しいという笑顔をセリカも浮かべている。


 自分のしたことがどういった形で兄妹に影響を与えるのか。予想はできても、実際そうならないとわからない。そのことにセリカは不安をもっていた。

 この笑顔なら大丈夫。

 私もうれしい。


 あっ。

 スノーが私の腕から抜け出して、私たちの周りをくるっと一周した。

「おねえさま。いきましょ」

 パッと駆け出して、屋敷の裏に向かっていった。

「あっ。スノー!」

「あらあら」

「失礼しますっ」

 私たちに一礼して後を追いかけた。

「あわただしいね」

「元気がよくていいわ」

 顔を見合わせて、笑った。


 スノーは一番下の子で、ひときわ幼くお転婆さん。レミファがいつも一緒にいて、あんなふうに追いかけて、捕まえているのをよく見る。


 姉妹の仲がいいのはうれしいことだ。

 二人の後ろ姿が完全に見えなくなって、屋敷に入ろうと向きを変えようとしたとき。

「セリカ。リーファ」

背が自然と伸びた。

「お母様」

 振り返り、一礼。

 セリカと声も動きもそろった。

「ただいまもどりました。お母様」

「ただいま。リーファです。お母様」

「ふふふ。あなたたちは本当に動きがよくそろうわね。おかえりなさい。スノーから聞いたわ。ありがとう。私たちの娘を守ってくれて。緑の姫に感謝いたします。……セリカ。書斎に。リーファ。当主がお庭でお呼びよ」

 お母様の静かな声に、一礼をされて顔をあげられていつものお母様の微笑みに、私たちの動きも静かになる。

「承知いたしました」

「はい。お母様」

 お母様のあとをついてお屋敷に入るセリカの姿がドアで見えなくなってから、スノーたちが通った道をいく。

 どんどん声が近づいてくる。……庭で遊んでいる子たちがいる?

 スノーとレミファは確実。帰宅ができている子たちは……。

 フリージア。アルバ、エミリアーノ、レオン、ライラ。カーネリア……かな。

 聞こえてくる子たちに声は楽しそう。何をしているのかな。お父様はどこに……あぁおられた。ベンチに座って兄妹たちを見ている。

「ただいま。お父様。リーファです。お呼びでしょうか」

 この家では音もなく歩くことも、衣擦れの音もさせないのが当たり前。そうして近くに立ったとしても、お父様もお母様は驚かれることはない。

「ここに座りなさい」

 私のほうを見ることなく、お父様の眼は遊ぶ子たちに向けられたまま。

「失礼いたします」

 促された通りお父様の横に座る。

「今日あったことの報告を」

 お父様はこちらをみない。……私はお父様の方に体を向けて一礼してから始めた。

「学園内にてライラ、レオンとお話をしましたが、カリキュラムのおかげで、カラーも学年をこえて交流をもつ生徒が増えているので、特別目立ったということはなさそうです。また。学園門にて不審者に生徒が声をかけられていたため、姫と対応いたしました。その生徒の一人がスノーでした。姫のお話によると学園側で見回りを行うそうです。帰宅後、スノーとレミファに会い、二人がカリキュラムによって一緒にお出かけをするようで。……スノーがとてもうれしそうに話してくれました。カリキュラムについてはセリカがよく知っていますが、レミファが遠慮ぎみに説明してくれました」

 レミファは自分に自信がないのか、困ったように笑うし、他の兄妹たちに遠慮しているところがある。


 セリカはそれが歯がゆいといっていた。

 レミファはこの家の家業に最も向いていて、あの子自身も楽しんでいるのに。


他の兄妹の評価が耳に入ってくるからだろう。

比べる必要などないのに。

「学園のカリキュラムとして運用されてもう二年がたつのか。うまく進んでいるようでなによりだ。……お母さんは少々顔をしかめていていたようだけれど、うまい方法をとったようでなにより。あの子の腕の見せ所といったところだったからな」

 セリカが姫に任命されたとき、私に宣言した政策。


 それが、他学年との交流。

 学園の寮はカラーごと。学園行事はクラス単位。それは、家を学園に持ち込まないため。この学園は、広く開かれているとはいえ、圧倒的に名家、豪家が多い。生徒の家柄で序列ができてはいけないということで、家名で呼ばれることは決してない


 それはこの家にとって好都合。

 私たちは兄妹であることはこの屋敷に住んでいる人しか知らない。

 私たちは全員孤児。お父様とお母様が私たちを引き取られ、この屋敷に連れてきてくれた。

 だから家名はないに等しい。

 この屋敷を一歩でれば、私たちは赤の他人。それがこの家のありかた。だから、学園であったとしても、最低限の接触だけ。学年が違えば尚の事。

 けして、「おねえさま」とは呼ばれない。


 ……それは寂しい。


だれも口にはしないけれど、そう思っている子たちはいた。私自身そうだ。あの子たちと一緒にいられる数少ない場所なのに。

「学園側は子ども同士のつながりが、家につながることを好ましく思っていなかったようですが、何事も考え方次第。家のつながりではなく、個人のつながり。この学園の生徒たちの個人の未来の繁栄のために」

 学園側は子どもたちのことを信じていないからね。……姫と王さえも、ただの人気投票になってしまっていた。ただの形だけの存在になりさがっていた。

 生徒の自主性を重んじているにも関わらず、自治のトップとなる存在が形だけで、威厳もなにもなくなっていた。……個人の点数稼ぎのようなものになりさがっていた。そんな状態により、子どもたちの必要以上の関わりは、家のためと行き過ぎた考えになるのが、家をよく知る大人は考えのようだ。


 それがセリカには耐えられなかった。

 だからそんなものになりたいなどあの子は一度も考えなかったと言っていた。そんなセリカが姫候補としてあがったとき、悩んでいた。

 姫になって、何ができるのか。……下手なことをすれば、それは職権乱用。姫と王を崇高なものとしているセリカにとって、赦されざること。


「あの子たちの様子はどう見える」

 お父様の眼に映る子たち。に私も目を向ける。

 影で休んでいる子や走り回っている子。

 下の子たちの面倒を見ている上の子たち。

「アルファーラとして見ることはできるか?」

 その言葉に目を変える。

 アルファーラとして。か。

 私の主人の子どもたち。

 いつかこの家を出て、当時の親も兄妹も変わっていっても、この家を家族と呼ぶ。

 私同様にアルファーラになるかもしれない子たち。

「私は、主人の望みを叶えることが務めです。主人が愛するあの方々は私にとっても、愛する方々です」

 主人が私に一番最初に願ったことだ。

「家族でありますが、同時に仕える方の子どもです。……アルファーラとして見ることはできます」

 私の声が震えないように、左手を右手で抑える。

 お父様に見られないように、不自然にならないように。

 口角をあげて、目をさげて。

 アルファーラとしての笑顔を浮かべる。

「無理をするな。この場合、切り替えるのは難しいだろ。しばらくは混ざる」

 お父様は私に目を向けてくださらないけれど、声と空気はとても優しい。

 お父様はあの日から、私と目を合わせてくださらなくなった。

 私がこの道を選んだから?

「それがよさだから。無理になくす必要はない。それも含めたあり方を考えるといい。そして、何があっても主人を愛しなさい」

 ……どういうこと?

 セリカを愛する? そんなのきまって……。

 違う。お父様の言葉の意味はそうじゃない。そう直感した。

 この愛は兄妹に向けるものではなく、主人に対するもの。

 ……アルファーラとしての愛?

 歴代のアルファーラは、外に出て自分で探して選んだ方を主人にしている。

 なら私は?

「望むアルファーラの姿はあるのか」

 お父様の問いかけに、一呼吸置く。

 この質問は、道を願った時にお父様にされている。

 その時の回答は、及第点をもらえていない。

「……私は、セリカを愛しています。お母様の手をとったときからずっと。一番近くで。私は、セリカを見てきました。……リーファとしての望みは、あの子が笑っていることです。あの子の愛するものに囲まれて、あの子が生きていることです」


 取り繕ったそれらしい回答はだめ。

 お父様の望みは、私の本心を聞きたいのだ。


「あの方が姫に選ばれた時、あの方のアルファーラになることを願いました」


 あの子の名前が選挙で当選したとき。

 あの子が姫の証を身につけたとき。

 今も輝く緑色の鳥たち。


「それまでは、漠然とアルファーラになりたいと思っていました。現役のアルファーラの皆様にお会いし、お話をさせていただいたあの日からそう思っていました」


 7年に一度。アルファーラの皆様が当主にご挨拶される。

 私たちも2度お会いしている。

 皆様とても美しかった。


「お姿。立ち居振る舞い。言葉選び。視線。どの角度でいつ見ても、言葉では言い表すことができないほどで。皆様、自身の主人を心から敬愛されているのを感じました」


 私はそこに名前を連ねようとしている。

 それがどれほどのことか。


「私は誰を主人とするのか。あの方がたのようになれるのか。そう考えたとき、セリカが姫の証を身につけて、私たちの前に立った時。その瞬間に」


 そう。あの時のセリカは一番輝いていた。

 強く、確実に。家族のために。


「私はセリカが当主の道を選ぶと思いました」


 私の世界があの子の色で染まったの。


「誰よりもこの家を愛しているセリカだから。この家のために生きるだろうって」


 穏やかな色。


「それがどれほどのことか……。私には想像もできない。それぐらいセリカの歩む道は険しくて、大変でむずかしい。私はあの子の力になりたいんです。この家のために私も生きたい。一番大切な人のそばにいたい」


 声が大きくなっていくのがわかる。


「私はあこがれていた。ずっと」


 一番近くにいた。

 私の目標。


「学園でも、家でも。みんなのお手本で。いつだって敬愛する姉であり、自慢の妹であり、崇高なる姫。だれよりもアルファーラにふさわしい。でもあの子が選んだのは、当主。きっと私なんかがいなくてもちゃんと当主として、セリカはやっていける。それでも」


 私の願い。私がほしいもの。


「それでも。私も同じ景色をみたいって。望む景色をつくりたいって」


 私の望み。

 私がなりたいアルファーラの姿。

 何度も寝物語で聞いた、話した。諳んじることができる「僕」のように。


「私が望むアルファーラの姿は」

 お父様はそれでも私を見ない。

 それが私をアルファーラとして見ているからだと気づいた。

 ああ。

 そうだよね。

 だってアルファーラは家族じゃない。

「盲目的に、主を愛します。そして。誰よりも主に敵意を持ちます」

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