【エリシュアン学園 / 特進クラスにて】
「スクープ、スクープですわ~!」
そんな一部始終を、こっそり聞いていた少女が1人。
「例の子、ワタクシたちの特進クラスに入ってくるのですわ~!」
少女――セシリアは金色の髪をなびかせ、そのスクープを持ち帰るべくパタパタ走りながら教室に走り去っていく。
エリシュアン学園の特進クラス――そこは名だたる名家の人間や、そうでなくても極めて珍しい才能を持つ一部の特例だけが所属することを許されるエリートクラスだ。
そんな国の未来を背負って立つ少年少女が集まる教室に、
「例のあの子、ワタクシたちのクラスに入ってくるみたいですわ!」
突如、そんな素っ頓狂な声が鳴り響いた。
ドヤァっと誇らしげな顔で、顔の前に手を当てて、教壇の前でポーズを決める不思議な少女。
名はセシリア――体育館前で、フィアナと邂逅を果たした少女である。
「例の子って、いびりのマティを、さいっこうに、一方的で、フルボッコにしたという……、あの噂の……?」
「ええ、さいっこうに、一方的で、フルボッコにした挙句、あれは紙一重の勝利だったと謙遜してみせる……、あれほどの強さを持ちながら、決して驕らない美しい心の持ち主であるフィアナさんのことですわ~!」
「あれでギリギリの戦いだったなら、本気を出したらマティの野郎はどうなっちまうんだ!?」
「それはもう――木っ端微塵ですわね!」
「「木っ端微塵!!!!」」」
――フィアナの噂は、本人が危惧した感じに広がっていた!
ちなみにセシリアという少女に、一切の悪気はない。
ただ己が目にしたものを感動のままに喋って回っていたら、そんなことになっていたのである。
「なんと早い情報網、さすがはセシリア様ですわ!」
「いいえ。ワタクシ、学園長室に張り付いて実際に聞きましたの!」
「えっ……!? それって、ただの盗――」
「人聞きの悪いことを言わないで下さいまし! ワタクシは、こっそり学園長室に忍び込んで、最終面談の結果をこの目で見てきただけですわ!」
「アウトォ!」
突っ込みに、ピシャリと言い返すセシリア。
何を隠そうセシリアは、学園長室への潜入に成功。
気配を殺しながら、一連のやり取りをしっかり聞いていたのである。
確かな技量に裏打ちされた、令嬢としては無駄以外の何ものでもない謎技術。
そんな腕前を見せつけたセシリアに、派閥の少女たちは……、
「完璧な腕前ですわ!」
「さすがはセシリア様ですわ!」
「お~っほっほっほ、ワタクシの手にかかれば朝飯前ですわ~!」
その腕前を、迷いなく褒め称えた!
ヨイショでも、馬鹿にしている訳でもない。
純度100%、心の底からの称賛である!
「フィアナさんを派閥に引き入れることに成功すれば、セシリア派は一気に大躍進しますわ。皆さま、早速フィアナさんをワタクシの派閥に取り込む作戦会議を始めますわよ!」
「「「はい、セシリアさま!」」」
ワイワイ、ガヤガヤと始まる作戦会議。
ちなみにセシリア派を名乗る人間は、全生徒でたったの3人――派閥は愚か、部活動すら結成できないぐらいの人数しかいない。
そんな彼女たちには、クラスメイトから「またいつもの奇行が始まったか」と生暖かい視線が注がれていた。
セシリア・ローズウッド――彼女は、旧4大貴族家の長女だ。
ローズウッド家は、かつては国王を補佐する重要なポストに就いており、その影響力は測り知れないものであった――が、そんな栄光も今や昔。
勢力争いに敗れ、今では寂れた領地を持つだけの閑職に追いやられていた。
セシリアの目的は、ずばりお家の再興である。
エリュシオン学園で、自身の派閥を学園一の派閥に育て上げることで、権力を取り戻す足がかりにしようと企んでいたのだが……、
「フィアナさんが入れば100人力。吹けば飛びそうな我が派閥も、一躍、トップ派閥の仲間入りですわ~!」
「セシリアさま、その意気です!!」
――計画は、まるで進まず。
クラスメイトからのセシリアへの評価は、善良で優秀。
だが、だいぶ変なお嬢様……、というものに落ち着いていた。
だとしてもセシリアは、めげない。挫けない。諦めない。
家の復興も、派閥作りも。難しいのは覚悟の上。
両親の期待に応えるため。
セシリアは、ただ前だけを向いて突き進んでいるのである!
「これで我が派閥も安泰。ワタクシ、セシリア・ローズウッドは、皆さまの将来を、必ずや保証しますわ!」
「「「セシリアさま、万歳。ですわ~!」」」
「そのためにも、なんとしてでもフィアナさんを派閥に加えますわよ!」
「セシリアさまのため! フィアナさん捕獲大作戦、スタートですわ~!」
…………そんなやり取りすら実のところ日常風景の一部。
特進クラスの生徒たちは、特に気にせず談笑を続けていたのであった。
教室で1番うしろにある窓際席にて。
「はぁ――、同じ平民で。学園中の話題を、1人で集めて。いったい、どんな子なんだろう」
1人の少女が、寝たフリをしながら静かにぼやく。
青空のように美しいライトブルーの髪を、短く切り揃えた小柄な少女だ。
少女の名前は、エリン――特進クラスでは、ただ1人家名を持たない平民の生まれで、地方の貧しい農村出身の少女である。
世界でも数人しか使い手がいない光属性のマナに適性があったため、エリシュアンへの入学を許されたのだ。
「羨ましいなあ……」
例の模擬戦後、学園はフィアナの話題でもちきりだった。
同じ平民でも、持って生まれた才能がまるで違うのだろう。
初級魔法すら発動できない自分とは大違い。
惨めな気持ちになったエリンは、くっと唇を横一文字に結び、
「……トレーニング、行こ」
始業までは、まだ時間がある。
今日こそは言う事を聞かない光のマナを制御できると信じて。
エリンは時間を惜しむように、トレーニングルームに足を運ぶのだった。
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次回、「フィアナ、挨拶でやらかす」
ドタバタ学園編がはじまります。
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