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フィアナ、筆記試験に挑む

 体育館に残された私は、改めてエレナ学園長と向き合っていました。


 エリシュアン学園は、国内でも有数のエリート校のはずです。

 ただの1生徒の編入試験を、わざわざ学園長が見に来た理由が、本当に分かりませんでした。


「やれやれ、マティ君も優秀な魔術師ではあるのじゃがな。暴走しがちなところを除けば、教育者としても悪くはないんじゃが――」

「いや、それは教育者としては致命的なのでは……」


 思わず突っ込む私に、


「まったく、彼の平民嫌いには困ったものです」

「えっと……、あなたは?」

「失礼、申し遅れました。俺は、この学園の教頭――シリウス・モンタージュと申します。以後、お見知り置きを」

「ひえ~、また偉い人!?」


 エレナさんの後ろに立っていたメガネの男が、私に頭を下げてきました。


 紳士服をバッチリ決めた細身の男で、エレナさんの後ろに控えていました。てっきりエレナさんの執事か何かかと思いきや、実は教頭だったとのこと。ビックリです。


 これで学園のツートップが、ここに勢揃いしている事になり――私は、ひっくり返りそうになりました。


「お主らは、フィアナ嬢を宿舎に送り届けておくれ。順番が前後してしまったが、明日は筆記試験を行うでな」

「…………え?」


 そんなことを言い出すエレナさんに、私は思わずギョッとします。


「なんじゃ、お主。筆記は苦手なのか?」

「ええっと……。はい、まったく自信がありません」


「まあ、肩の力を抜いて気楽に受けるが良い。筆記試験は、実技がどうしても苦手になりがちな子への救済策を兼ねておるでな。一般常識さえあれば、楽勝なのじゃ」

「それ、1番不安なやつです!!」


 悲鳴をあげる私を見て、エレナさんが不思議そうな顔をします。


 ルナミリアでは出発前に「常識を教え忘れてた!?」とか「今からでも詰め込むだけ詰め込むぞ!!」とか、散々な言われようをしていた私です。

 救済策どころか、最難関の障壁まであります。


「はっはっは、やはりお主は、面白いやつじゃな。本当に心配は要らないさ。なにせ実技で歴代最高得点――これほどの才能を取り逃すのは、我が学園としても大損害じゃからな」

「言いましたね! 筆記試験、0点でも合格ですからね!」


 念押しする私を見て、エレナさんが苦笑します。


(私にとっては、まったく笑い事じゃないんですけどね!?)




***


 体育館を出た私は、模擬戦を見守っていた生徒たちに取り囲まれることになりました。

 模擬戦を行った場所は決闘スペースと呼ばれており、観戦スペースでは、期待の新人が現れたと大勢の生徒が見守っていたそうで――そんなことを聞き、私は涙目になります。


「マティの野郎をあそこまでコテンパンにするなんて! すげえスカッとしたぜ!」

「えっと、ありがとうございます?」


「感動しました! その魔法は、いったいどこで?」

「ルナミ――じゃなくて、田舎にある故郷です!」


(あ、あわわわわわ――)

(なぜか人に囲まれてます!? 王都、怖いです!)


 何を隠そう私は、同年代と会うのは初めてなのです。

 こんなに同時に話しかけられたら、完全なるキャパオーバー。

 ぐいぐい詰め寄られ、私が目をぐるぐるさせていると、



「こっちですわ!」


 ぐいっと手を引っ張られました。


「まったく、どいつもこいつも野次馬根性丸出しで――同じエリシュアンの生徒として恥ずかしいのですわ」


 私の手を引いたのは、エリシュアンの制服に身を包んだ1人の少女。

 長く伸ばした金色の髪が、太陽に反射してキラキラと輝いていました。


「えっと、あなたは――」

「ワタクシの名前は、セシリア・ローズウッド――あのローズウッド家の長女にして、今は栄えあるローズウッドグループのリーダーを務めていますわ!」

「ほえ~」


 たぶん、すごい人っぽい。

 私の手を引く金髪美少女――あらためセシリアさんは、スイスイスイっと人混みを魔法のようにくぐり抜け、


「ジャ、ジャーン! ここが、エリシュアン学園が誇る学生寮……、ですわ!」


 あっという間に宿舎にたどり着きました。

 ドヤァ! と効果音が出ていそうな得意げな顔で、セシリアさんは寮の入り口を指差します。


「ワタクシ、今日の戦いには感動しましたの! 嫌味なマティさんを、あそこまで一方的にボッコボコにするなんて!」

「い、一方的にボッコボコになんてしてませんよ」

「いえいえ、ご謙遜を。さいっこうに、一方的で、フルボッコでしたわよ!」


(人聞きの悪いことを言わないでくれませんかね!?)


 キラキラ輝く目を向けてくるセシリアさん。

 彼女に悪気は無いと思いますが、学園でそんな噂が広まるのは困るのです。


 もし、そんな噂が広まりでもしたら、


「あの編入生、気に入らない試験官をノシて入ったらしいぜ(ヒソヒソ)」

「さいっこうに、一方的で、フルボッコだったらしいぜ!(ヒソヒソ)」

「こっわ、近寄らんとこ……(ヒソヒソ)」


 …………なんて、遠巻きにされる未来が見えます!


「セシリアさん、訂正を。訂正を求めます!」

「なんですの?」


「私、マティさんとの模擬戦は、ずっと押されっぱなしでした。つねに防戦一方で、それでもなんとか1瞬の隙を付いて1撃だけ入れたのです。そうして最後には、マティさんの温情で実技試験の合格をいただきました――いいですね!!」

「へ……? いや、あれは誰がどう見ても試合にすらなっていない、一方的な蹂躙劇じゃありませんこと?」


(い、一方的な蹂躙劇!!)


 まずいです。

 表現がどんどん恐ろしい方向に向かっています!


「試験はギリギリでした! い・い・で・す・ね!」

「はい……、ですわ?」


 こくこくと頷くセシリアさんを見て、私はふうとため息を付きます。


(っと、こんなことをしている場合じゃない!)


「セシリアさん、道案内ありがとうございました! それでは私は、明日の試験の一夜漬け――じゃなかった、復習があるのでこれで!」

「また会える日を楽しみにしてますわ。頑張って下さいまし!」


 セシリアさんに見送られながら、私は宿舎に入りました。




 与えられた部屋は、前世を基準にしても綺麗で快適な空間でした。

 ぽふんと布団に飛び込み、私はエルシャお母さんお手製の常識ノートを開きます。


「国王陛下の名前は――ブルターニュ・マーブルローズ。ブルターニュ、マーブルロース。ブルターニュ・マーブルローズ……」


 う~ん、う~ん、と唸りながら反復学習。

 暗記科目は苦手なのです。それでも晴れてこの学園に通うためには、ここは大切な勝負どころ!


 パチンと顔を手でたたき、気合いを入れ直します。

 せめて今日ぐらいは、本気で試験対策に取り組もうと決意した私は……、


「5大国家は、我らがマーブルロース王国、エルフ率いるレスタンティーレ、獣人たちのメラディオン(……スピー、スピー)」


 ――気がついたら夢の中に旅立っていたのでした。

 不思議ですね。




***


 そうして迎えた翌日。

 空き教室に案内された私は、


(うわぁぁぁ……、ぐっすり眠っちゃった! 私のバカ!)

(えっと、国王陛下の名前は――ええっと……、ええっと――終わった!!)


 ちょこんと座りつつ、頭の中はお通夜ムード。


 たくさん眠って、頭はスッキリ。

 記憶の方も、サッパリ消去。

 外の天気は、清々しい快晴です!(現実逃避)


「試験時間は120分です。えっと……、肩の力を抜いて――それでは、はじめ!」


 私はぺらりと答案用紙を開き、ペラペラと問題をめくっていきます。


「(これなら行けそう!)」


 ポイポイッと、パッと見て分からない問題を投げ捨てること数回。

 ようやく馴染みのある魔法陣に関する設問を見つけ、私は鼻歌混じりにペンを動かすのでした。


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