フィアナ、詐欺を暴く
翌日の朝。
(真っ青な空――絶好のお出かけ日和です!)
パチリと目を覚ました私は、そのまま城下町に繰り出します。
ワクワクして30分ほど早く目的地に到着してしまった私でしたが、
「遅いですわ!」
「あれ、フィアナちゃんももう着いたんですね!」
エリンちゃんとセシリアさんは、当たり前のように先に到着していた様子。
セシリアさんの目には、薄っすらと隈が出来ており、
「セシリアさん、あんまり寝れなかったんですか?」
「なっ!? そんなこと、ありま――」
「えへへ、私もです」
勝負ごとならまだしも、この3人で出かけることはありませんでしたからね。
「フィアナさん、あなたは本当に――」
セシリアさんは、毒気を抜かれたようにそうため息をつき、
「それじゃあ行きましょう!」
「「おー!」」
私たちは、城下町の散策を始めるのでした。
王都レガリア――そこは、20万もの人が暮らす大都市です。
人間以外の種族も王都で商いを始めることもあるようで、
「ねえ。向こうで売ってるのって、ハニカム・メロディースじゃありません?」
セシリアさんが、興奮した様子でとある屋台を指差しました。
大通りから少し外れた場所にある小さな屋台であり、看板にはでかでかと「これ1本で、エルフの魔法が使える!」(……かも? 超小文字)と書かれていました。
見るからに胡散臭い印象を受けましたが、
「やっぱり、これはエルフ印のハニカム・メロディースの新作ですわ!」
「はにかむ・めろでぃーす?」
ぽかんとする私に、
「フィアナさんは、こういうことには疎いんですわね。良いですこと、ハニカム・メロディースというのは、王都で新進気鋭の魔道具ブランドで――」
「私も聞いたことがあります。なんでも精霊に好かれやすい鉱石で作られた宝石だとか――」
エリンちゃんも、そう補足してくれました。
精霊魔法の難しさは、ルナミリアで身をもって知っている私です。聞くだけで胡散臭いと思う私でしたが、セシリアさんはすっかり信じ込んでいる様子。
一応、アクセサリに精霊の加護を与えて、キーフレーズを唱えることで精霊魔法を発動させる技術も存在すると聞いたことはありますが、
「セシリアさん、ちょっと待ってて下さいね?」
それは技術の集大成。
こんな王都外れの露店に、ポンと並んでいる筈がありません。
(十中八九、偽物です!)
(私のお友だちを騙そうとするなんて――絶対に許せません!)
詐欺師には天罰を!
私は、ツカツカと屋台に近づきます。
お店には、複雑そうな魔法陣を刻んだいかにも怪しげな御札か大量に並んでいました。
私が、魔道具を物色するフリを始めると、
「お嬢ちゃんは、精霊魔法に興味があるのかい?」
「はい、ものすごく!」
店主が、にこやかにそう話しかけてきました。
私たちが身にまとっているのは、エリシュアンの制服です。大方、貴族のお坊ちゃまたちがネギを背負って飛び込んできた――なんて思っているのでしょう。
「お嬢ちゃんは、何の魔法が使いたいんだい?」
「光か闇が使いたいです!」
「なるほど。じゃあ、こちらのブラックオニキスや、ダイヤモンドがおすすめだね」
勧められるままに値段を見て、
(き、金貨100枚!)
前世換算、100万円相当といったところでしょうか。
強力な精霊魔法を、本当に使えるようになるなら安いところでしょうが、
「おばちゃん、この闇魔法の産地はどこですか?」
「へ? 産地?」
「はい! 私、エルフの友達がいるのですが、精霊魔法を宿すときは、必ず宝石の産地と契約精霊を記すのが義務になっていると教わりました!」
――半分は嘘です。
それはエルシャお母さんの友達であるドワーフの鍛冶師の言葉です。
精霊魔法を宿したアクセサリ――その神秘は、エルフとドワーフの2種族が力を合わせて、初めて形になる秘奥そのものとのことで、
(大変なんですよ、アレ!)
(あくどい詐欺師の金儲けに使われるのは、ちょっと気に食わないですね)
ルナミリアでは、アクセサリ作りを手伝ったことがある私なのです。
「えーっと、産地っていうのはよく分からないけど……」
「なら契約精霊は? 微精霊ですか? それともオリジン?」
「??」
これもエルフと取引したことがある人間なら、確実に答えられるはずの質問です。
ちんぷんかんぷん、といった様子の店主を見て、
「やっぱり、この魔道具は詐欺だったんですね! よくも、私の大切なお友だちを騙そうとしてくれましたね!」
「い、言いがかりも甚だしい! この商品が偽物だって証拠は?」
「今はありませんけど――いいんですか? 騒ぎになれば、”本物の” ハニカム・メロディースさんに検査してもらうことになるかもしれませんよ?」
私は、不敵にそう笑います。
「お、何の騒ぎだ?」
「ここで売られてるアクセサリが偽物だって、ここのお嬢ちゃんが――」
「ッ! この子、エリシュアンの魔王って噂の!」
「そ、それは人違いかと!」
思わず律儀に突っ込む私です。
周囲には騒ぎを聞きつけて、続々と屋台の近くに人が集まってきていました。中には冒険者として活動する中で顔見知りになった人もおり、
「く、くそっ。覚えてやがれ!」
本当に検査が入ることになれば、困ったことになるのでしょう。
詐欺店のオーナーは、捨て台詞とともに一目散に逃げ出していくのでした。
「す、凄いですわ! 一目見て、あれが偽物だと見抜くなんて!」
セシリアさんは、興奮した様子でそう言います。
「まさか、魔導具の目利きまで出来たとはな!」
「あっぶねえ、うっかり騙されるところだったぜ!」
「裏通りのお店は、あんまり検査が行き届いてないしなあ――」
冒険者たちも口々に、そんなことを言い合っており、
「えへへ。ちょっと故郷に、エルフに詳しい知り合いがいたので――」
「はあ、エルフの知り合いですの? フィアナさんの故郷、いったいどんな場所ですの?」
そう聞かれて、私の脳裏に真っ先に浮かんだのは、
「う~ん。ドラゴンがよく取れる場所……、ですかね?」
「そんな場所、聞いたことがありませんわよ!!」
――セシリアさん迫真の悲鳴が、王都に響き渡るのでした。





