フィアナ、順調に攻略を進める
私たちは、順調に課題を進めていました。
ちなみに地図の測量は、私は早々に諦めていました。
だいたいの地形さえ分かれば、座標と照らし合わせて現在地の把握はできますし、近くにたどり着ければチェックポイント探しは魔法に頼った方が早いからです。
しばらく進むと、モンスターが現れました。
最初は体力を温存するため、モンスターの気配を探りながら進んでいたのですが、途中で私たちは方針転換。
最短距離を移動しながら、現れたモンスターは蹴散らす方向に舵を切りました――またの名を、脳筋戦法とも言います。
現れたのは、緑色のぶよぶよした球体のモンスターです。
「モンスターですね! ふむ……、見たことがない相手ですね――」
それはルナミリアには生息していない不思議なモンスターでした。
「あれはスライムですね。今回は、私が行きますね!」
「スライム……! こ、これが数々のRPGで、最弱の名を欲しいままにしてきたという、伝説のあの”スライム”なんですね……!」
謎の感動に打ち震える私。
そんな私を見て、エリンちゃんは不思議そうに首を傾げていましたが、気を取り直したように杖を振りかぶって突撃。
杖を振り下ろし、1撃で相手をミンチにします。
「さすが、エリンちゃん!」
「えへへ、まあスライム相手ですからね」
エリンちゃんは、えへへと照れたように笑います。
にっこり微笑むエリンちゃんは今日も可愛らしいのですが、ローブにはスライムの返り血――ならぬ返り破片が、べちょりとこびりついており、
(うん、エリンちゃんを怒らせないようにしよ――)
私は、密かにそんなことを決意するのでした。
それにしても見慣れないモンスターは、それだけで好奇心をくすぐられるものです
私は、次に現れたスライムをまじまじと観察してみます。
ぷるんぷるんと震えていて、見た目はゼリーのようで美味しそう。
「――な、何をしてるんですか!?」
手を近づけて、攻撃を誘発してみます。
いったい、どんな攻撃をしてくるのでしょう。
「何って? とりあえず攻撃を食らってみようかなって」
「なぜ……?」
「ほら、攻撃を解析すれば新しい発見があるかもしれませんし――あっ、この子、面白いですね。どうやら、こちらを飲み込もうとしてますよ!」
「いや、呑気に解説してないで!?」
うにょ~んと伸びて、こちらを飲み込もうとしてくるスライムくん。
残念ながら、魔法とかは持っていない様子。
「危険です……、ふんっ!」
「あぁぁぁ、スライムが木っ端微塵に~!」
エリンちゃんが杖を振り抜き、哀れスライムは一瞬で粉々になりました。
キラリと輝く魔石が、スライムくんの存在の証。
「なんだか儚いモンスターですね……」
「どこがですか――」
ジトーっとした目で、私を見てくるエリンちゃん。
「(フィアナちゃん、やっぱり放っておくと危ないです)」
「ん?」
「何でもありません!」
エリンちゃんは、ズイズイと進んでいき、
「あ、新手のモンスターですね。えっと――」
「フィアナちゃん、ここは私がやります!」
ボコッ!
そう言いながら、またしても杖で粉砕。
モザイクが必要そうなモンスターの死体が、その場に1つ出来上がりました。
「はい、魔石です。運が良いですね、これで5つです!」
「順調ですね! あ、あっちにもモンスターが……!」
「ふんっ、成敗!」
再び、杖を振り抜くエリンちゃん。
哀れなモンスターは、次々と肉塊へと姿を変えていきます。
「えーっと……。エリンちゃん、なんだか過保護じゃない?」
「(だってフィアナちゃん、放っておくとすぐに危ないことするし――)」
「え??」
首を傾げて聞き返す私に、
「もう……、何でもありません」
エリンちゃんは、ふいっと首を横に振って、そのまま先陣を進むのでした。
***
そのまま私たちは、順調に2つ目のチェックポイントまで歩みを進めます。
結局、移動中にも大量のモンスターを倒し、集まった魔石は全部で6つ。
周りのチームの進捗は分かりませんが、なかなか幸先の良い出だしではないでしょうか。
「順調ですね。魔石がこんなに集まったのは予想外でした」
「はい。この辺には、あまり強いモンスターも現れないみたいですね」
キラキラと輝く小さな結晶を、エリンちゃんは丁寧に袋にしまっていきます。
砂粒のようなサイズでも、1つは1つですからね。
私たちは地図を見ながら、明日の計画を話し合います。
「明日は、このまま反時計回りにチェックポイントを通って、一気に北東砦のチェックポイントまで行っちゃおうと思うんだけど……、エリンちゃんはどう思う?」
「一気に4つも回るの? 結構、ギリギリになりそうだけど……」
「最終日には余裕を持っておきたいからね。それに――」
「それに?」
「向こうに美味しそうなプチサウロスが見えたんです!」
首を傾げたエリンちゃんを見ながら、そう力説する私。
「プチサウロス、すごく美味しいんです!」
「なるほど……! いや、でももっと安全性を取るべきな気も――」
「エリンちゃん?」
私は大真面目な顔で、
「食事って、大事だと思いませんか?」
「思います!」
「なら、行きましょう。第4チェックポイントまで!」
う~ん、う~ん、と葛藤していたエリンちゃんですが、
「あ。そろそろお鍋、食べられそう」
エリンちゃんも、また同士。
「待ってました!」
「フィアナちゃん、味見はもう禁止です!」
瞬く間に興味は、グツグツ煮えるお鍋に移っていくのでした。
ちなみに調理担当はエリンちゃんです。
最初は私が料理番をしていたのですが、味見をしていたらなぜか量が減っておりエリンちゃんに交代を言いつけられたのです。
不思議ですね。
「いい匂い」
「えっへん、グレートボアは煮ても焼いても美味しいんですよ!」
今日の夕飯は、魔法で生み出した土鍋を使って鍋パーティー。
メインディッシュは、ぐつぐつと煮えているイノシシ型のモンスターでしょうか。
私は、鍋をよそって口に運ぶと、
「エリンちゃん天才! すごく美味しいです!」
カッと目を見開いて叫びます。
シンプルな味付けながら、不思議なダシが効いていて、それこそ奇跡のような美味しさで――、
ん……?
「エリンちゃん、これどうやって味付けました?」
「塩と――後は、奇跡を少々?」
そう微笑むエリンちゃんの手からは、光のマナがわずかに漂っており、
「エリンちゃん、料理に光魔法は禁止。なんだかやばそうな中毒性があります!」
「む~……、せっかくの光魔法なのに――」
「奇跡の無駄遣いすぎます!!」
美味しいですけどね!
「それなら、ちゃんと野菜も食べてくれますか?」
「そ、それとこれとは話が別です!」
「じー…………」
「分かりました! 食べます、食べますから!」
そうして無事、エリンちゃんの料理With奇跡は封印されたのでした。
 





