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フィアナ、ジューシーな晩ごはんにかぶりつく

「ねえ。ジューシーなお肉、食べたくありませんか?」


 きょとんとするエリンちゃんに、私はそう微笑みかけるのでした。



 そもそも私としては、食料を3日分あらかじめ配っておく意味が分かりませんでした。


 それこそ森で生き残る訓練というのであれば、食材の調達まで込みで練習するべきだと思ったからです。

 実際、ルナミリアで何度か似たようなトレーニングをしたときは、私は自力で食料は確保してましたし、その経験を通じて身についた知識もいっぱいあります。


 例えば……、


(ワイバーンのお肉が、1番採りやすくて美味しいとか!)


 野外での活動において、食は何よりの娯楽です。

 味気のない保存食だけで済ませるなんて、健康な身体への冒涜そのものです。



 そんな訳で私は、美味しそうな獲物――ケフン、安全に倒せるモンスターを探すために、木によじ登って遠見の魔法を使い、周囲の様子を探っていました。


「フィアナちゃん、無茶はしないで?」

「任せて下さい! 故郷ではよくやってましたから――あ、ジャイアントホーンですね。美味しそう――危険地帯ですが、採ってきても大丈夫ですかね?」


「駄目です、失格になっちゃいます」

「む~……」


 残念、と私は唇を尖らせます。


 ――ちなみにジャイアントホーンはAランク指定の難敵で、立入禁止になった原因そのものだったりするのだが……、その事実にフィアナが気づくことはなかった。




 私は、しばらく獲物を物色した後、


「プチプテラくん、君に決めた!」


 そう宣言しながら、木から飛び降ります。

 プチプテラ――それは全長数メートルの巨大な鳥で、鉄製の鋭いクチバシが脅威となるモンスターです。取るべき戦術は至ってシンプル――殺られる前に殺る、すなわち死角からの不意打ちが非情に有効です。


「えっと――要は、禁止区間に入らなければいいんですよね?」

「それは、そうだと思いますが――」

「ならここから撃ち落とします!」


 私は、数百メートル先にいるモンスターに意識を集中し、


「ファイアッ!」


 射出したのは、直径数十メートルほどの鋭く尖った岩の槍。


「よし!」

「す、凄い……!」


 遠目に見えていたモンスターを穿つ魔法を見て、エリンちゃんは目をまん丸にします。


 これが第1段階。

 食べるためには、どうにかして回収しなければなりません。


「要は、入らなければ良いんですよね?」

「…………」


 物言いたげなエリンちゃんの視線を、私は華麗にスルーすると、


「ゴーレムで運搬します!」


 最近、何かと活躍してくれているゴーレムです。

 そうして生み出したゴーレムは、見事に私たちの元へ、プチプテラ(私たちのお昼ごはん)を持ってきてくれるのでした。




※※※


 その後、私はテキパキとモンスターを捌いていきます。

 食べづらい頑丈な翼やクチバシを剥ぎ、胴体の部分を串焼きにすれば1丁上がり。


「ジャ~ン、プチプテラの丸焼きです!」

「こ、これ……。食べられるんですか?」

「味は保証しませんけどね」


 そう言いつつ私は、プチプテラのモモにかぶり付きます。


 野営で食べる食材は、新鮮さが命。

 食堂で食べるのとは、違った美味しさがあると思うのです。


「うん、良い焼き加減。久々に食べましたが、やっぱり美味しいです!」


 頬をほころばせる私を見て、エリンちゃんもおずおずとかぶり付き、


「……美味しいです!」


 そう目を輝かせます。

 それから、がっつくようにお代わりを所望し、


「あ……、ごめんなさい。食べすぎました」

「気にしないで。また採ってくれば良いですから」


 エリンちゃんは、巨大なプチプテラをぺろり完食――バツの悪そうな顔をしていました。

 さすがは、フードファイターのソウルを持つエリンちゃんです。


 満足気な顔をしているエリンちゃんを見て、私はひらめいてしまいます。


(これ、もしかして狩りに誘うチャンスなのでは!)


「エリンちゃん、これ美味しかったですよね?」

「はい、最高でした!」

「今度、ドラゴン狩りに行きませんか?」


 私は、そう言いながら美味しさをアピール。


「採れたてのドラゴン、とっても美味しいんですよ! レッドドラゴンは口の中で弾けますし、グリーンドラゴンは栄養素満点。イエロードラゴンは、口の中でパチパチ弾けて面白い食感ですし……ブラックドラゴンは、硬すぎるので例外です」

「行きます! 採れたてのモンスタージビエ、最高です!」


 そうエリンちゃんと約束を取り付けたところで、


「とりあえず魔石1つゲット。チェックポイントも1つ通過しましたし――順調ですかね?」


 私は、現状を確認。


「はい! でも気を抜かずに頑張ります!」

「とはいえ、初日から無茶するのも厳禁ですね。今日は魔石を集めながら移動して、南にある第7チェックポイントで野宿――というのはどうでしょう?」


「賛成です。晩ごはんも楽しみですね――」

「美味しそうなモンスターは、適宜、捕まえながら移動しましょう!」

「お~!」


 気の抜けた声で、気合いを入れるエリンちゃん。

 そうして私たちは、順調にチェックポイント巡りを進めていくのでした。




【セシリアサイド】


 一方、セシリアチームは、フィアナたちとは逆方向に進んでいた。

 この課題は、チェックポイントを通過する順番まで計画に入れ、負担の少ないルート構築を選ぶべきだとセシリアは考えていたからだ。


 西側のエリアは、勾配が多く、禁止区間とも隣り合っている。間違いなく高難易度のコース――万が1を考えるなら、後回しにするべきとセシリアは判断したのだ。


 セシリアは、疑うことなき優等生だ。

 それはひとえに努力によるもので、だからこそセシリアは決して己の実力を過大評価しない。


 モンスターとの交戦も最低限に抑えながら、無事、東部の第6チェックポイントに到着。

 順調な進行を見せていた。

 しかしながら順調な進行をよそに、セシリアの表情は暗い。



「あそこで止められなければ、私たちはモンスターを3体は狩れましたわ!」

「そうですわ、セシリアさん。平民の顔色ばかり伺って……、あなた、少しばかり臆病すぎるんじゃありません?」


 不満を口にしていたのは、今回、新メンバーとして迎えた少女たち――モンタージュ派の少女たちである。


 名は、カトリーナとレイラ。

 最大派閥のモンタージュ派に属する彼女たちは、長いものには巻かれろな典型的な貴族であった。

 彼女たちは、お家復興のために叶わぬ夢を追いかけ続けるセシリアのことを内心では馬鹿にしていた。



「何度も言わせないで下さいまし。序盤は、余分な消耗は抑えるべき――魔石集めは、あくまでボーナス要素。あくまで最優先はチェックポイント集めだと考えるべきですわ」


 セシリアは、チームメンバーの選出に早くも不安を感じていた。


 優秀なメンバーは、優秀なメンバー同士でチームを組みたがるものだ。

 その点、セシリアは優秀な魔術師であり、彼女だけならいくらでも優秀なチームに勧誘されただろう。


 しかし、セシリア派閥の少女――ヘレナとマーガレットは、どちらかというと落ちこぼれグループに属するというのが実情。

 セシリアにとっては、己の派閥に入ってくれた2人を裏切るという選択肢はあり得なかったのだ。



 かといって3人チームでは、人数の問題でそれだけで不利。

 だから普段はやり取りのない相手とでも、仕方なくチームを組むことにした訳だが──それが正解だったのかは、かなり怪しいとセシリアは感じていた。


「フィアナさんの言うことが正しかったのかもしれませんわね――」

「セシリアさま?」


「何でもありませんわ。ヘレナさんにマーガレットさん――ワタクシはあなたたちの将来を、ローズウッド家の名にかけて保証するべき立場。何も心配なんて要りませんわ」

「いえ、そのことは今は良くて――」


 そう言っても、ヘレナとマーガレットは心配そうにセシリアを覗き込んでおり、


「いけませんね。シャキッとしないと――」


 いついかなる時も、頼れるリーダーでなければならない。

 派閥のリーダーとして、弱ったところなんて見せられないのだ。


 そう気合いを入れ直したセシリアは、



「そろそろ例の爆弾、爆発した頃ですかね?」

「えぐいことするよね、カトリーナ。平民たちの料理にヘドロの呪いをかけるなんて」


「いえいえ。むしろあの泥料理が、平民にはお似合いなんじゃなくて?」

「くくく、違いないですわね」



「どういうことですの?」


 聞き捨てならない言葉が耳に入り、思わず聞き返すセシリア。


「今、フィアナさんたちの料理に呪いをかけたって――」

「ええ。これで奴らの保存食は台無しに。私たちの勝利か、間違いなく近づきましたね」


 悪びれることもなく、そう返してくるカトリーナ。


 陰湿な手口――否、この程度の行為は、邪魔者を蹴落とすための妨害にも入らない。

 そう言いたげな視線。



「何を怒ってますの?」

「そうですわ。気弱なあなたに変わって、ライバルを潰す手伝いをしてあげただけですわ。どちらかというなら、感謝して欲しいぐらいで――」

「カトリーナも、レイラも、ワタクシのチームでこれ以上の好き勝手は許しませんわよ。これ以上好き勝手するなら――ワタクシのチームからは、出て行ってもらいますわ」



 セシリアは、ピシャリと言い切った。

 セシリアという少女は、とにかく曲がったことが嫌いなのだ。


 どんな場面でも愚直に、まっすぐに――自身のチームから、姑息な妨害を行う人間が現れたなど、断固として許せなかったのである。


「なっ!! 何の権限があって、そんなことを!」

「一時的的なチームとはいえ、特別演習の資料に、きちんと記載がありますわ。これは最後の警告ですわ――余計なことはしないで、チームリーダーのワタクシの指示に従うこと。反則行為は全面的に禁止。良いですわね?」


 セシリアが、本気で怒っているのが分かったのだろう。

 レイラとカトリーナは、不服そうにしながらも静かに頷くのだった。

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