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フィアナ、無事クエストを達成する

「あとは任せて」

「フィアナちゃん?」



「1発で終わらせるから」


 身体中に力が漲ります。

 それは支援魔法の効果でもあり、それ以上に……、


(ああ、これがパーティーを組むってことなんですね)


 やっぱり王都に来てよかったです。


(技を借ります――アル爺)


 私は、体内でマナを練り上げます。

 身体強化魔法──内的魔法とも呼ばれるその技術は、通常、体内のマナだけを使うものですが、


(集中、集中!)


 私はそれに加えて、大気中のマナも体内に取り込みます。

 大気中のマナも身体強化に転用することで、通常ではあり得ないレベルの莫大なマナを身体に取り込み、圧倒的な身体能力を得るという力業――ルナミリアでも使い手は、私とアル爺しか存在しない大業です。


「ここからはずっと私の番です――闘華乱舞!」

 

 イメージするのは、最強の自分です。

 1歩間違えれば身体が爆発する危険な試みですが、健康な肉体の暴力で、何度も死にそうになりながらどうにか習得に成功したのです。


「そんなものは、こけおどしだ! まさか、まだ我に勝てるとでも――」

「遺言は、それでいいですね」


 私は、魔法で剣を生み出します。

 地面を強く蹴り、一瞬でドラゴンに肉薄。そのまま剣を一閃。


「――ハア?」


 そんな間抜けな声――それがドラゴンの発した最後の言葉になりました。

 次の瞬間、ドラゴンは頭から尻尾にかけて、真っ二つになっていたのですから。



「――エリンちゃんのバフ、凄いですね」


 ドラゴンが吐き出した魔石を拾いながら、そう私は呟きました。

 生半可な刃物では、傷ひとつ付かないはずのブラックドラゴンの鱗――それをバターのように切り裂いてしまうのですから。




***


 ボス部屋を出た私たちは、そのまま転移陣で入り口に戻ってきました。


 さすがにドラゴンとの死闘を経て、私もエリンちゃんもへとへとに疲れていたからです。

 私が、心地よい疲労に身を委ねていると、


「フィアナちゃん、最後のアレは何ですか!?」


 エリンちゃんが目を輝かせて、そんなことを聞いてきました。


「何って、普通に身体強化魔法をかけて斬っただけですよ?」

「普通に――斬った!?」


「むしろ驚くべきは、エリンちゃんが使ったわけの分からない魔法です! 見たことも聞いたこともありません――なんですか、アレ?」

「えへへ――奇跡、ですかね?」


 エリンちゃんも満更でもないのか、にこにこと笑いました。

 パーティーを組む前の、こそこそ周囲の様子を伺っていた内気な姿とは別人のようで――良い傾向だと思います。



「あ、そうだ。はい、エリンちゃん」


 私は、ブラックドラゴンの魔石をエリンちゃんに手渡します。


「本当にいいんですか?」

「もちろん。エリンちゃんのクエストを手伝うために来たんだし、エリンちゃんが居なかったらあいつは倒せなかったからね!」

「ありがとうございます。――この恩は必ず」


 やけに熱っぽい視線で、エリンちゃんは私を見てきます。


「恩なんて大袈裟だよ。またパーティー組もうね」

「はい!」


 私の誘いに、エリンちゃんも嬉しそうに頷き、



(やった! パーティーメンバーゲットです!)

(このままクエストを一緒に受けて、何日も一緒にお泊りする遠征にも行って、ついでに死線もくぐり抜けて――いつかは友だちになってみせます!)


 私も内心で、ガッツポーズを決めるのでした。




***


 その後、冒険者ギルドで、私たちはクエストを報告します。


「クエストクリアおめでとう、エリンちゃん!」


 パチパチと手を叩いて、受付嬢はエリンちゃんを祝います。


「えへへ、ありがとうございます」

「どう? 光魔法のきっかけ、何か掴めた?」


「はい、バッチリです!」

「へえ。あなたが、そこまで自信満々ってのも珍しいわね」


 エリンちゃんは、胸に手を当てながら、


「はい。私、自分を卑下するのは辞めたんです。私よりもずっと凄い人が、私のことを凄いって――そう言ってくれましたから」

「……?」


 こちらを見ながら恥ずかしそうに微笑むエリンちゃん。

 ちょっぴり照れるエリンちゃんも可愛くて、まさしく天使――目の保養というものです。


「それで魔石は?」

「これです!」

「……なにこれっ!?」


 エリンちゃんが取り出した魔石を見て、受付嬢はギョッと目を見開きます。


「何って?」

「ボスの魔石ですよ?」


 きょとんと首を傾げ合う私とエリンちゃん。


「――そういうことにしておくわ」


 受付嬢は、そうため息をつくのでした。


(そういうことも何も、ただの事実なんだけどな――)


 私は、受付嬢の反応を不思議に思いつつ、エリュシアンの宿舎に戻るのでした。




【冒険者ギルド視点】


 魔石――それはクエスト達成の証。

 エリンから渡されたそれを眺めながら、


「いやいやいやいや……、これ、どう見てもS級以上のモンスターじゃん」


 受付嬢――アリッサは、恐れおののいていた。

 魔石のサイズから推定すると、間違いなく推定S級――数年に1度現れ、破壊を撒き散らす災厄級モンスターと考えるのが自然。


「これを新人2人が取ってきた?」

「いや、ありえねえだろ。どっかで買ってきたんじゃねえか?」

「しかも片方は魔法すら使えない落ちこぼれだっていうんだろう? S級モンスターなんて、ここにいる冒険者が束になってかかっても秒殺されちまう」


 テーブルの上に置かれた魔石を見ながら、何人かの冒険者が囁きあっていた。


「あぁん? てめぇ、姉御がズルしたっていうのか!」

「そうだそうだ、姉御ならS級モンスターごときワンパンするに決まってる!」

「どうどう、モヒカンたち。話がややこしくなるから黙っててね」


「けっ、俺が従うのは姉御だけだ」

「フィアナちゃんに言いつけますよ?」

「すいませんでしたぁ!!」


 フィアナが聞いていたら「何で!?」と涙目になるようなやり取りをしつつ、


「資格欲しさに、闇市で買ってきた? それはあり得ないのよ」

「何でそう言い切れる?」

「だって、このサイズの魔石。入手しようとしたら間違いなく時価――それこそ何ゴールドかかるか分かったものじゃない。到底、割に合わないわ」


 受付嬢のアリッサは、集まった冒険者たちにそう説明していく。


 魔石を買うぐらいなら、教官に賄賂でも渡した方が手っ取り早い。

 そもそも2人は、地方出身の平民だったはず――金に物を言わせた解決策とは考えづらいのだ。


「そう考えると、学園ダンジョンに本当にS級モンスターが現れた。そしてあの2人は、それを倒してきた――そう考えた方が自然なのよ」

「そんな馬鹿な……」

「私も、にわかには信じがたいけど――」


 仮にそうだとしても、今度は別の疑問が出てくるのだ。

 あの2人は帰ってきた後、ケロッとした顔で「ボスを倒した」とだけ報告してきたのだ。


 冒険者ギルドは、クエストの難易度を適正に設定して提示する義務を負う。

 初心者用クエストに、S級相応のモンスターが居た……、それは高確率で死亡事故に繋がる事態であり、報告があれば、ギルドは多額の補償金を支払う必要があった。


 普通なら絶対に報告した方が得な場面なのだ。

 にもかかわらず2人は笑顔のまま、想定外のモンスターを話題に挙げすらしなかったのだ。

 そこから導かれる結論は、


「フィアナちゃんは、人知れずイレギュラーを処理してくれた? 何のために?」

「ヒャッハー! 真の強者は、功績を誇ったりしないってことッスね!」

「ヒュー! やっぱり姉御は、漢の中の漢だ!」


 喝采を挙げるモヒカン3人衆。

 一方、受付嬢は顔に手をあててじっと考え込み、


「弱みを握って損はないってこと? 次はないって脅し? いいえ、あの子は圧倒的な実力を持ちながら、伸び悩んでいたエリンちゃんのことも優しく導くお人好し。そんな腹芸を好むような子でもない……、か」


 考えれば考えるほど、ドツボにはまっていく。



 ――まさかフィアナたちが「標準的なボス」を知らず、そもそも異変に気がついてすらいないとは、想像もしないアリッサであった。


「フィアナちゃんたちの”善意”を無駄にしないため――急いで学園ダンジョンの管理体制を見直しましょう。まずはシリウス教頭に報告して、定期的な見回りのスケジュールも見直して――ああ、死傷者が出る前で本当に良かったわ!」


 これから忙しくなるぞ、とアリッサは腕まくり。

 そうしてアリッサから、報告を受け取ったエリュシアン学園の職員室では、


「はぁ!? 例のフィアナが、単身でS級モンスターを蹴散らした!?」

「一躍、有名冒険者の仲間入りを果たした!?」

「ま〜た、あいつか……!!」


 などと大騒ぎになっていたが……、




「初心者ダンジョン相手に手こずるなんて、私もまだまだですね。エリンちゃん、これから頑張りましょうね!」

「お~!」


 当の2人は、呑気にそんなやり取りをしていたとかいないとか。

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