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フィアナ、初のボス戦に挑む!

 ドラゴンは巨大な翼をはためかせ、悠々と空を飛んでいます。

 漆黒の鱗を持つ黒竜種――通称ブラックドラゴン――竜族の頂点に立つ最強の種族でした。



(ず、随分と久々に見ますね)

(王都のダンジョン――恐るべしです!)


 部屋の中を飛び回っていたブラックドラゴンですが、やがては私たちに気がつき、


「来ます!」


 激しい咆哮とともに、こちらに飛んでくるエネルギー弾。

 私はエリンちゃんを抱えて、さっとジャンプ――その攻撃を回避します。


「ご、ごめんなさい。腰が抜けちゃって――」

「ううん、大丈夫」

「フィアナちゃん――」

「任せて」


 申し訳なさそうなエリンちゃんをそっと床に立たせ、私はドラゴンと向き合います。


 ドラゴンは、人間とは比べ物にならないほど大きな生き物です。

 それでも私は、たしかにドラゴンと目と合ったのを感じます。



「ブラックドラゴン……、随分と久々だね」

「ほう。小さきものよ――我に挑まんとするか」


 私がぽつりと呟くと、地の底から響くような声でドラゴンがそう答えました。


(ドラゴンの中でも、ブラックドラゴンだけが人語を介する知識を持つ。記憶通りだね)


 最後に見たのは、数年前になるでしょうか。

 当時はアル爺や、エルシャお母さんの戦いを後ろから見守るだけでしたが、



「それじゃあ手合わせ、お願いしますか」

「ふん、人間ごときが我に挑んだことを後悔させてやろう」


 渦巻く魔力の本流が、ドラゴンの口元に集まっていきます。

 またしてもドラゴンブレスの予兆。


(ようやく訪れたリベンジの機会です)

(せっかくですし”例のアレ”、解析してみたいですね)


 私は、エリンちゃんを庇うように立ち、


「えいっ!」


 両手にシールド魔法を貼り、ブレスを真正面から受けてみることにしました。


 数年前なら、試そうとも思わなかった危険な行為。

 下手すると黒焦げになってしまう危険もありますが、今を逃しては次がいつになるか分かりません。

 そんな興味に突き動かされた私でしたが、


「あっつ!?」


 ジュワッと腕を焼かれ、思わず顔をしかめます。


 痛みの中、どうにか意識を集中してシールド魔法を展開。

 それでも勢いは殺しきれずに、私はそのまま壁に叩きつけられました。


「フィアナちゃん!?」

「あたたた――ちょっと油断しました」


 エリンちゃんの悲鳴のような声。


(いたたた――でもドラゴンブレス、ラーニング完了です!)

(いずれじっくり使い方を考えるとして。今は、ここをどうにか乗り切らないとですね)


 片腕が焼け焦げ、ぶらりと力なく垂れ下がるのみ。

 ちょっと高級なポーションを飲まないと、そう簡単には治らなそうです。


(むう……、困りましたね)

(ドラゴン相手に、魔法の撃ち合いは不利。いつもなら接近戦で、一気に仕留めにいくところなのですが――)


「ほう、今のを耐えるか。だが、その腕ではもう何もできまい」

「どうでしょうね? これでも私、健康な身体に生まれましたからね!」


 腕は焼き焦げ、全身のダメージも馬鹿にできない危険な状態。

 しかし私を包んでいたのは、不思議な高揚感でした。


 久々に強敵を相手にした興奮――自然と私は、笑みを浮かべていました。

 模擬戦でも味うことができない命を賭した真剣勝負。

 こんな感情は、声を大にして言えたことじゃないけれど――、


(楽しいんですよね、こういう戦いが!)

(生を実感できて……!)


 私は、手をまっすぐにかざして、



「氷霊よ――穿て! 氷柱アイスニードル!」


 氷でできた巨大なツララを、ドラゴンに向かって射出します。

 その本数は、全部で6本――そのいずれもが、眼などの急所を狙っています。


「小賢しい!」


 とはいえ敵もさるもの。

 巨大な翼を一振りする風圧だけで、あっという間に氷の柱を撃ち落としてきました。

 ――ですが、そこまで狙いどおり!


「かかりましたね、ここは私の間合いです!」


 一瞬の隙をついて、私はドラゴンに急接近。

 地を蹴り飛び上がり、そのまま魔力を込めた蹴りを食らわせます。


(さすがに固いですね!)


 少し前に倒したグリーンドラゴンであれば、その蹴り1撃で決着が付いていたでしょう。


 しかし今戦っている相手は、竜の王――ブラックドラゴン。

 全力で蹴りを入れても少しよろめいただけで、すぐに体制を立て直されてしまいます。


(うう……、決め手に欠けますね)

(腕が無事なら――もどかしいです!)


「ええい、ちょこまかと小賢しい!」


 ブラックドラゴンの大ぶりな攻撃は、もう私に当たることはありません。

 しかしこちらの攻撃も、なかなか相手にダメージを与えられず――そうして訪れたのは、互いに決め手に欠く膠着状態でした。

 そして膠着状態を嫌う程度に、人語を介するブラックドラゴンは狡猾でした。



「いいのかな、お友達を守らなくて」


 その言葉は、完全に私の意識の外側から繰り出された精神攻撃でした。

 ブラックドラゴンの瞳には、エリンちゃんが映っており、


「気づいたか、ほれ。きちんと守らんと死ぬぞ!」


 ブラックドラゴンは、ブレスを放つ仕草を見せ付けてきました。


(エリンちゃんに手出しはさせません!)


 気がつけば、身体が動いていました。

 庇うようにブレスの射線に出た私を見て、


「馬鹿め、かかりおったな!」


 ブラックドラゴンは、勝ち誇ったような顔で咆哮をあげ、特大ブレスを打ち込んできました。


「――しまっ、シールド!」


 即席で結界を起動し、どうにか身を守ろうとする私。



(あ……、これ、まずいかも――)


 マナを、そこまで注げなかったせいでしょうか。

 ブレスの勢いを殺しきることもできず、


「ふぎゃっ」


 私は、勢いよく壁に叩きつけられてしまいます。

 幸い怪我自体は大したことありませんでしたが……、


(これは本格的にまずいですね)


 これまで私は、戦うときは基本的に1人で戦っていました。

 このように誰かを守りながら戦うという経験は皆無――だから、こういった絡め手には全然対応出来なくて。


 1対1なら、まだやりようはあります。


「エリンちゃん、隙を見て逃げ――」


 エリンちゃんに先に逃げてもらおうと口を開き、ようやく私は異変に気が付きます。




「――何より大事なのは、信じる心。奇跡を起こすのは、人の願い」


 杖を握りしめたエリンちゃんから、濃厚な光のマナが溢れ出しているのです。

 そのあまりの濃度は、エリンちゃんだけでなく、ボス部屋全体が薄っすら真っ白な光に照らされて見えるほどで――


「フィアナちゃんは、こんなところで死んでいい子じゃないんだから!」


 そう叫ぶエリンちゃん。

 ――次の瞬間、起きたのは紛うことなき奇跡と呼べる現象でした。



 幻想的な光が私を包み込み、瞬く間に怪我を癒やしていきます。

 しばらくは使い物にならないだろうと思っていた腕も、すっかり元通りになっていました。

 残った光のマナは、そのまま盾を形作り、私の周囲をくるくると浮遊し始めました。


「そんな、こけおどし――我がブレスで粉砕してくれよう!」


 戦況が変わったことを察したのでしょうか。

 ブラックドラゴンは、再びブレスを吐き出しましたが、


「させない!」


 エリンちゃんは、素早く盾を横にスライド。

 白銀に輝く盾は、歪み1つなく最強のドラゴンのブレスを受けきりました。


「エリンちゃん! すごいです、回復と支援魔法――使いこなしてます!」

「そんなことより――フィアナちゃん、大丈夫?」


「はい、ピンピンしてます! エリンちゃんの魔法のおかげです!」

「良かった~!」



 グッとVサインする私に、エリンちゃんは泣き笑いで飛びついてくるのでした。


(心配かけちゃったな)

(もっと、もっと強くならないと――)


 ちょっとした油断に、明らかな不意打ちに――今日の私は駄目駄目です。

 エリンちゃんに愛想を尽かされないために、少しぐらいは良いところを見せないといけませんね。


「あとは任せて」

「フィアナちゃん?」



「1発で終わらせるから」

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