フィアナ、ダンジョンを突き進む
「エリンちゃん!? どうしよう、なんか鳴りだしました!」
「えっと……、この警報音は――」
慌てた様子で考え込みんだエリンちゃんですが、
パシュッ!
その結論を待つことなく、私めがけて壁から矢が放たれました。
「フィアナちゃん!?」
悲鳴のような声をあげるエリンちゃんをよそに、
(こんな仕掛けが――王都のダンジョンは、面白いですね!)
ボタンが仕掛けと連動して、矢を射出するような仕組みなのでしょうか。
私は、飛んできた矢をサッとキャッチ。
注意深く矢を眺めてみましたが、特に面白いものもなさそうなのでポイッと投げ捨てます。
「フィアナちゃん。今の罠、知ってたの?」
「ううん、初めて見たよ。でも矢が飛んでくるのが見えたから」
「飛んでくるのが見えた!?」
そんなこと可能なの……!? とエリンちゃんは、あんぐりと口を開けていましたが、
「だとしても――」
エリンちゃんはおずおずと口を開き、
「ダンジョンの中で油断は大敵です。未知の罠を、無警戒で踏み抜くなんてもってのほか――命がいくつあっても足りません」
真面目な顔で、そう注意してきます。
(た、たしかに……、初めてみる王都のダンジョンに浮かれてました)
(反省です――)
「その通りです。初めて見る場所で、ついついはしゃいじゃいました」
私は、ぺこりと頭を下げます。
「こちらこそ生意気言ってすみません」
「生意気って……。私たちはパーティーメンバーだもん。思ったことがあれば、遠慮せずにどんどん言ってね」
「やっぱりフィアナちゃんは、良い人ですね。今までのパーティーメンバーは、役立たずが口を挟むなって、何を言っても聞いてもらえなかったのに」
それは今までのパーティーが、酷すぎただけだと思いますが……。
「あ、それなら早速」
「はい、なんでしょう!」
「授業中に居眠りをするのは良くないと思います!」
「うへえ、善処します……」
もんにょりした顔の私を見て、微笑みを浮かべるエリンちゃん。
そんなことを話しながら、私たちは順調にダンジョン奥へと歩みを進めるのでした。
***
ダンジョンをしばらく進み、私たちは地下2階に歩みを進めます。
ちなみに第1層は、地下4階まであるそうです。
第1層の最深部(地下4階)にいるボスを倒すとその階層はクリアとなり、転移陣を使って次の階層に進めるとのことでした。
(なんだか、ゲームみたいです!)
エリンちゃんの説明を聞いてワクワクする私。
いったい、どんな仕組みの魔法が使われているのでしょう。
そんなことを考えていると、エリンちゃんが不思議そうに首を傾げました。
「今日は順調ですね。まったくモンスターに会いません」
「なるべく、モンスターの足音を避けながら進んでるからね」
「モンスターの足音を避けながら歩く!?」
私の答えに、エリンちゃんはポカンと口を開きます。
「そんな馬鹿な……。同じことを探知魔法でやろうとしたら、第3冠レベルの風魔法じゃないと出来ないはずなのに――」
「これでも私、耳は良い方なんですよ!」
えっへん、と胸を張る私。
そんなことを話しながら進んでいると、
「ッ! 気をつけて下さい。ゴブリンです!」
前方からモンスターの集団が現れました。
(しまった! 話すのに夢中で、警戒が疎かになってました!)
キーキーと耳障りな声で鳴く人型モンスターであり、手には棍棒を持っています。
(初めて見るモンスターです!)
ルナミリアでは、見かけない相手です。
何をしてくるか分からず、私は警戒心を上げてモンスターの挙動を観察します。
じりじりと睨み合うゴブリン集団と私。そんな沈黙を破ったのは、
「行きます!」
威勢のよい声をあげたエリンちゃんでした。
杖を振りかぶり、エリンちゃんは果敢にゴブリン集団に突っ込んでいきます。
そのまま手にした大杖をフルスイング──その一振りで、ゴブリンはミンチになりました。
(ぇええ!?)
ギャーギャーと悲鳴をあげ、ゴブリンは続々と仲間を呼びます。
しかしエリンちゃんが杖を振るうたびに、モンスターは物言わぬ肉塊へと姿を変えていくのです。
(これは……、殴りプリースト!)
予想もしていなかった戦い方に、私が目を瞬いていると、
「……よし。行きましょうか、フィアナちゃん」
「いやいやいやいや、待って!?」
思わず突っ込む私。
「そうですよね。魔法使いなのに、こんな泥臭い戦い方――全然役に立たないですよね。ごめんなさい、でも私にはこれぐらいしか出来なくて――」
「これぐらいって!? モンスターの集団、一瞬で殲滅したのに!?」
驚く私ですが、エリンちゃんは杖を持ったまま恥ずかしそうに俯いています。
とても可愛いのですが、その顔は返り血で真っ赤に染まってホラー状態。
「私、魔法が使えません。それでも何かできることはないかって考えてたんです」
おずおずと話し始めるエリンちゃん。
「魔法使いとして役に立たないなら、せめて前に出ようって。杖を使ってぶん殴るぐらいなら、私でもできますから」
「う、うん。そだね……」
話している最中も、杖についたゴブリンの肉塊が、ぼとりと杖から落ちました。
グロいです。
「でも、前に出ようとしても、邪魔すんなって怒られて。それでも冒険者としてできることは、やっぱり前衛ぐらいで――ソロの期間は、ずっとこうやってたんです」
「クラスを変えることは考えなかったの?」
「何を言ってるんですか」
エリンちゃんは、諦めたような表情で、
「私がエリュシオンに入学することを許されたのは、光属性に適性があったから――魔法使いとしての腕を見込まれたからですよ?」
「あ……」
「だから変えるなんてこと。許されるはずがないじゃないですか」
エリュシオンの特待生として、入学を許された理由。
それは光属性の魔法への期待の裏返し。
「な~んて、こんな恥ずかしい話。せっかくパーティーメンバーになって下さったフィアナちゃんに、話すべきじゃなかったですね。
こんなことが出来るようになっても意味がない……、それなら最初から騎士科に行けば良いって皆の言葉も、本当にその通りで――」
「ううん、それは違うと思う」
自嘲するように言うエリンちゃんに、私は言葉を重ねます。
「少しでもパーティーの力になりたくて、自分なりのやり方を練習して――それで、その強さを手に入れたんだもん。誇ることはあっても、恥ずかしがることなんてないよ」
「フィアナちゃん?」
私の言葉に、エリンちゃんはハッとした様子で顔をあげます。
「少なくても何もしないで馬鹿にしてきた奴らより、エリンちゃんは偉いと思う」
「ありがとう……、ございます」
戸惑った様子で、おずおずと口を開くエリンちゃん。
「そんな風に言ってもらうの――初めてで」
「普通はそう思うよ。エリンちゃんの元パーティーメンバーは、見る目がなかったんだね」
ぷんすかと怒る私を見て、エリンちゃんは嬉しそうに、
「私、フィアナちゃんとパーティーを組めて良かったです。本当に、ありがとうございます」
そう言いながら深々と頭を下げてきます。
良い子だなあ――とは思うけど、それは望んでいた関係とは少し違って……、
「エリンちゃん、その言い方は違うよ。敬語もなし――私が、エリンちゃんと、パーティーを組みたかったんだからさ」
「……うん!」
柔らかい笑みを浮かべ、エリンちゃんは元気よく、そう頷くのでした。





