第四十五話 結婚の理由
私は衣装のレンタル店に案内され、当日着る衣装のサイズを合わせることとなった。
正直、こんな派手な格好は好きではないけど、鏡に映る自分の姿を見たら、ちょっとドキッとした。
先輩、喜んでくれるかな?
「勝呂さん、きっと喜ぶよ」
え?
もしかして、顔に出てたのかな?
「そうですか?」
「そうよ。花嫁さんの綺麗な姿を喜ばない花婿なんて、この世にいないわよ」
この世ときたか。でも、先輩さん。その花婿さんと、別れたいんですよね?新しい出会いが、欲しいんですよね?
それとも先輩さんは、花婿さんにとっておきのウェディングドレス姿を、見せなかったんですか?
「後は、お店でリハーサルをしよう」
「すみません、何から何まで」
「気にしないで。私だって、ここに賭けているんだから」
ああ、そうですか。そうだと思いましたよ。
頑張ってください。表立って、応援出来ませんけど。
何か問題があっても、私、無関係ですから。
「おかえり~、お疲れさん」
家に帰ると、先輩が玄関まで迎えに出てくれた。
しかも、なんとエプロン姿で。
何て、レアな格好なんだろう。
「どうしたの?」
「いえ、た、ただいまです」
身体の内側から、何かが湧き上がってきた。溢れそうだ!
キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい。キスしたい・・・・・・・・・・・・・。
殺したいほど、私はキスしたいんです!
落ち着け、私。
とりあえず、先輩に気付かれないように深呼吸をしよう。
「お風呂にするかい、それとも、ごはんにするかい?」
まずい、胸の奥からまた何かが、湧き上がってきた。あ、ダメだ、溢れてくる!
「さ、咲良さん?」
押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい、押し倒したい・・・・・・・だから、私は押し倒したいんです!
そんで!先輩をメチャクチャにしたいんです!!!
落ち着け、私!
このままだと主導権、先輩に取られるだろう!
深呼吸、深呼吸と。
「何でもありません。ごはんを先にしましょう」
ふ~。落ち着いた。もう、どうしようかと思った。
先輩は私をこんな気持ちにして、いったいどうする気ですか?
責任取ってください。
「うん、分かったよ。ああ、でも大したもんじゃないよ」
「先輩に一度だって、期待したことはありません」
嘘です、思いっきり、期待してます。色んな意味で。
まずい、オヤジか私は。
「一度ぐらい、期待してよ」
「努力します」
逆です。これ以上、私に期待させないでください。
このままだと、私、どうにかなってしまいそうです。
本当に簡単なものだったけど、やっぱり男の人の手料理って、どうしてこんなに嬉しいんだろう?
顔に出てないよね?
「私が片付けますので、先輩がお先にどうぞ」
先にお風呂に入るように、私は先輩に促した。
「え?」
「なんですか、その顔は?」
「ええっと、じゃあお先に」
先輩がお風呂に入っている間に、態勢を立て直そうと思う。
少しでも気を緩めると、顔がにやけてしまいそうだから。
はあ~、ダメな私。
片づけを終えたら、私もお風呂に入ることにした。
興奮が収まったら、ちょっと疲れた。だから、髪はもういいや。
私は脱衣所で着ている衣類をすべて脱ぎ捨て、浴室に入ることにした。
何でか分からないけど、先にお風呂に入っていた先輩がびっくりしていた。
「失礼します」
「え?」
何ですか?その、えっ?は。
「何ですか?」
「もう、片付けは終わったの?」
「あとは、食洗器の仕事です」
「ああ、そうだったね」
私は身体をシャワーで軽く流し、先輩が入っているバスタブに入ろうとしたら、先輩が出ようとした。私は先輩の腕を、むんずと掴んだ。逃がしませんよ。
そもそも私たちは新婚なんだから、何を遠慮しているんですか?
寂しいじゃないですか。
一応、こう見えても新妻なんですから。
「どうしたんですか?」
「ええっと、ほら、またのぼせたら悪いから」
「また、介抱しますよ。今度は、お望みの浴衣姿で」
そうは言ったモノの、私は浴衣を持っていない。
だから、いざという時の為に、浴衣を用意しておかないと。
しまむらでも、浴衣を売っているかな?今度、買いに行こう。
先輩、どんな浴衣が好みなのかな?やっぱり、派手なのがいいのかな?
「じゃあ、お願いしよっかな」
「そうです、最初からそう素直でいてください」
「そうだねえ」
「ホント、先輩って、面倒ですよね」
つい顔がにやけてしまうけど、先輩は明後日の方向を見ていたので、きっと気が付いていないだろう。
今日の私は、本当にダメダメだ。
そんな私だから、先輩の肩に、もたれ掛かることにした。
いいでしょう?
夫婦なんだから!
「ところで先輩」
「ええ、何かな?」
何で妻からの問いかけに、いちいちそんなにビクッとするんですか?まるで私が、鬼嫁みたいじゃないですか?
「新婚旅行ですけど、どこがいいですか?」
「ハワイかグアムかな?」
「先輩?」
「だって、新婚旅行って言ったら、ハワイかグアムが定番じゃない?」
「一泊って、言いましたよね?ハワイかグアムって、一泊で行けるんですか?」
「ああ、無理っぽいなあ」
「そうですよ。そういえば、前の奥様との新婚旅行は、どちらに行かれたんですか?ハワイですか?それともグアムですか?」
「まさか、熱海で一泊だよ」
「ハワイかグアムじゃ、ないんですか?」
「仕事があるしね。当時は今と違って、中々休めないしね」
「ふ~ん、なら熱海にしますか?」
「熱海か。それもいいな」
「じゃ、熱海で決まりですね」
「箱根も捨てがたい」
「はい?」
「でもなあ、草津も行った事がないからなあ」
「先輩?」
「ああ、そうだったねえ。熱海でいいよ」
「今回は熱海で、次にどこか行くなら、箱根か草津に行きましょう」
「ああ、ありがとうね」
「予約は私の方でやっておきますから、先輩は変な仕事を振り向けられないようにしてくださいね」
「ああ、分かったよ」
「先輩、そろそろあがります。背中を流してください」
髪はいいけど、背中ぐらいはいいですよね?
先輩の手の平って、気持ちいいんだもん。
先輩は、どうかな?
私の手の感触は、どうなんですか?
「先輩?」
「いえ、喜んで」
「居酒屋ですか?」
「そういえば、居酒屋も随分行ってなかったなあ」
「帰りに、行かなかったんですね?」
「そりゃあ、君に悪いと思って」
「先輩のそういうところが」
「そういうところが?」
「気持ち悪いです」
嘘です。顔が赤くなるぐらい、心の奥から嬉しいです。
「ええ?なんで?」
「先輩はもう少し、我儘でいいと思いますよ」
「そうなの?」
「もちろん、女性がいるようなお店に行ったら、覚悟してください」
「大丈夫だよ、そんな店を接待に使えるような身分じゃないし」
「分かりませんよ」
「まあ、そういう時は、きちんと断るよ」
「先輩、代わります」
「え?いいよ」
「遠慮なく。こう見えても、不肖の妻ですから」
「ああ、そう」
私は先輩の後ろに、回り込んだ。つくづく、この家のお風呂は大きい。ひとりで入ると、寂しいと思うぐらいに。
そうか、先輩は母と別れてから24年間ずっと、一人でこの大きなお風呂に入っていたのか。
寂しくは無かったのだろうか?
それを思うと、ちょっと胸が痛くなる。
すべて、母のせいだ。
「先輩の背中って、意外に大きいですね」
「そう、咲良さんの背中は、意外に小さかったよ」
「一応、女子なんで」
「一応って、なんだよ」
「ところで先輩」
どうして先輩は、いちいちビクッとするんですか?益々、いじりたくなるじゃないですか?
「さっきのお話ですけど、女性がいるお店に行けない理由を、相手にどう説明するんですか?」
「え?」
「誘われたら断るって、そう言っていましたけど?」
「ええっと、妻が怖いから?」
はい?
思わず、先輩のお背中に爪を立ててしまいました。
だって、先輩が悪いんですよ。
こんなカワイイ新妻を、怖い何て言うんだから。
「妻が怖いって、具体的にどう怖いんですか?」
「い、いえ、どう言えばいいのか」
否定しないんですね?
「だったら、何で私と結婚したんですか?」
「だって、君がかわいいから」
はい?
どう反応したらいいのか、私には分からなかった。
バスタブに逃げるのは、ちょっと負けたような気持になる。
だから、先輩の背中にもたれ掛かった。
「先輩」
「はい」
「キモイです。そういうのは、やめてください」
「ああ、よく分かっているよ」
「分かってません」
「努力するよ」
努力しなくていいです。
先輩は、そのままでいいんですから。
出来の悪い私は、先輩に対して素直になることも出来ずに、ただ先輩に甘えてしまうことしか出来ない。
だからずっと、私のそばに居てください。
先輩は私が離れるまで、そのままの姿勢で居てくれた。
それが私には、嬉しいけど気分が悪いんですけど。
少しぐらい、何か言って下さい。
でも、何も言わないでください。
ホント、私って面倒だ。
先輩、こんな女でごめんなさい。
「先輩、お休みなさい」
私は先輩の顔を見ることが出来ずに、さっさと休むことにした。
「おやすみ、いい夢を見てね」
先輩こそ、いい夢を見てください。
それが、私の望みですから。




