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私の先輩  作者: せいじ
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第四十三話 誓い

 ブタ野郎とは、示談が成立した。

 慰謝料も結構貰えるので、先輩のお家のリフォーム費用に充てようと思った。

 お風呂などの水回り以外は、あまり手を入れていないようだから。


「先輩、土曜に荷物を運びこみます」

「え?もう?」

「遅いぐらいです。私、早く先輩のおうちの、あの大きいお風呂に入りたいんです」

「いつでも、入りにくればいいじゃないか?」

「あのですね、私、結構忙しいんですよ?色々と手続きがあって」

「ああ、そうだったね。悪かった」

「でも、先輩のおうちのお風呂って、何であんなに大きいんですか?」

「前にも言っただろう。夫婦と子供二人の四人が、妻の、彼女の夢だったて」

「それって、四人が一緒に入れるようにする為に、大きいお風呂にしたということですか?」

「この家を購入する、決め手になったしね。四人で背中を流し合うのが、夢だったそうだ」

「メンヘラですか?」

 母らしい。これはもう、病気だな。

「メルヘンって、言ってあげてよ」

「だって、それでタネ無し野郎ですよ?」

「それだけ、家族の思いが強かったと、そういうことなんだろうね」

「私には分かりません。でも、先輩の家のお風呂は好きです」

 私に分かるのは、母のあの家にいる奴らは、頭がおかしいということだけだろう。

「前のは古くなったから、今のは新しいのに替えたけどね」

「ジャグジーも付いていましたもんね」

「使っていたのは、最初だけだけどね」

「私、使いますから」

「いいよ、その為にあるんだから」

「一緒に、お風呂に入りましょうね」

「いいけど、髪は自分で洗ってね」

 何のために、一緒にお風呂に入ると思ってるの?

 私の髪を洗いたくないんですか?

 ねえ、先輩?

「わ、分かったから、洗います、洗わせてください」

「分かればいいんです」

 これも、以心伝心かな?

 言葉が無くても、通じ合うって、素晴らしいなあ。

 夫婦って、最高!



 私が総務に顔を出したら、先輩と古参OLさんが仲良く話しをしていた。

 ちょっと、ほんのちょっとだけ、気分を害しましたけど。

「ああ、勝呂ちゃん」

「坂上でいいですよ。社内では、それで通しますから」

「そうなの?ねえねえ、お祝いしようよ」

「いいですよ」

 私は先輩の方を、少し見た。

 私の居ない所で、この女とどんな話をしたんですか?

 すると、先輩はどこか弾んだ声でお祝いをすることに同意をしてくれたけど、私に同意したんですよね?この女じゃないですよね?

「いいんじゃないかな?せっかくだし、やってもらおうよ」

 まあ、いいや。後で、たっぷり聞こう。

「結婚式は、やらないんだよね?」

「はい、親を呼びたくないので」

 滝川さんや柿田さんは、さすがに迷惑かな。

「じゃあ、レストランを貸し切って、そこでお祝いをしようよ」

「そんな、大げさですよ」

「いいじゃん。これを機に、いい男と出会いたいと思っている女子もいるしね。ついでに私も」

「ご結婚されていますよね?」

「いい男がいたら、即離婚だよ」

 やめてください。

 母を思い出すので。



 先輩のお家に引っ越したら、別々で寝ようと提案してきた。

 私たちって、まだ新婚ですよね?倦怠期は、いくらなんでも早くないですか?

 いい度胸ですねと私が言ったら、先輩は黙ってしまった。

 ちょっと、凄み過ぎたかな?

 これじゃあ、可愛いお嫁さんじゃないのかな?次は、もっと可愛くやろうっと。



 ある時、先輩が私に聞いてきた。

「私のどこを、気に入って結婚しようと思ったんだい?」

 言葉に出来ない。

 どう言葉にしようとしても、それが心からの言葉ではないような気がする。

 ただ、先輩をひとりにしたくない。

 先輩の側に居る女は、私以外に考えられない。他の女なんか、ありえないと。

 でも、それは言えない。

 だから、ちょっと思い出したことを伝えることにした。

「先輩がお茶を貰いに、給湯室に行った時です。その時、先輩が片手にお茶を持ちながら、ゆっくりと席に戻る時なんですけど、先輩は猫背だったんですよ。その時です。この人、いいなって思ったのが」

 何と言うか、ガツガツしていなくて、ほんわかしてたんですよ。

 そんな男の人って、先輩以外に居ないから。

 というか、何で先輩はそんなにがっかりしているんですか?

 褒めてるんですよ?

「先輩こそ、何で私なんですか?」

 何て、言ってくれるだろう?

 カワイイ?

 美人?

 何だろう?

「何だろうね。なんと言うか、君が側に居ない時って、何か不自然だなあと感じたんだよ」

 どういうこと?もしかして、哲学ですか?

「よく分かりませんけど?」

「私だって、よく分からないよ。男と女なんて、そんなもんじゃないのかな?」

「そうですか」

「まあ、私だってよく分からない」

「じゃあ、前の奥様とはどのような、なれそめですか?」

「いま、ここで聞く?」

「そうですね、お風呂で聞きます。どうせ、髪を洗うのに時間が掛かるでしょうから」

 でもね、その髪、とってもキレイだけどさ、もう少し短くしない?洗うの、ホント大変なんだけど、と独り言のように先輩はつぶやいた。やけにはっきりと。

 私に聞かせる為かな?でも、そろそろ切らないと。忙しくて、美容院に行くヒマが無かったし。

「そうですね、そろそろ美容院に行こうかと思っています」

 先輩がびっくりした顔をしたので、一応説明しました。

 口に出していましたよと。

「先輩、時々独り言のようにつぶやいていますよ?もしかして、自覚がないとか?」

「え?マジで?」

「はい、マジです」

「ああ、気を付けます」

「独り言を気を付けるって、先輩って、ホントおかしいですね」

 先輩って、本当に可愛い。



「先輩、早く片付けてください。お風呂にしますよ?」

「お風呂、また今度にしない?」

「先輩?」

「分かってます、ハイ、本当に心から思っていますよ」

「もう、面倒掛けさせないでください。明日は、指輪を買いに行くんですから」

「そう、咲良さんはお買い物なんだ。行ってらっしゃい」

 はあ?何で、そうなる?先輩だから?私の教育の至らなさですか?

 とりあえず、私は先輩の鼻をつまんだ。

「あのですね、先輩も一緒に行くんです」

「ろ、ろうひて?」

「結婚指輪です。買ってくれないんですか?」

「はひはふ、はひはふ」

「先輩、何を言ってるか分かりませんけど?」

 先輩は、私の手をポンポンと叩いた。どうも、息が出来ないようだ。

「それならそうと、最初に言ってくれないかな?私は、そういうのは疎いんだから」

「察しが悪すぎです。先が思いやられます」

「悪かったって。それで、どこに行くの?ティファニー?」

「何で、ティファニーなんですか?」

「知らないよ、指輪なんて。そういうのは、もう三十年以上も前の話だし」

「まあ、なんでもいいですけど」

「長く使うモノなんだから、いいモノにしないと。とは言え、予算もあるし」

「そうですね、少し、キッチンも手を入れたいので。あまり高いのは、避けようと思っています」

 ブタ野郎から貰った慰謝料はたっぷりあるけど、エコキュートや太陽光パネルを購入したり、外壁も手を入れたいので予算は無尽蔵にある訳ではないから。

「何するの?」

「ガステーブルを交換します。さすがに、古いですよ」

「ええっと、無くても困らなくないかな?」

「先輩」

「すみません、必要ですよね。まったく、そうですね、確かに。いっそ、IHにしようか?」

「そうですね、太陽光パネルとかエコキュートとか、色々と節電出来るようにしないと」

 将来を考えたら、投資は早い方がいい。

「安心してください。私にだって、貯金ぐらいありますから」

「そう、安心したって、いやいや、君に頼る訳にはいかないよ」

「先輩、富める時も貧しき時もですよ」

「まだ、誓い合ってないけど?」

「そうですね、では」

 私は居住まいを正し、先輩に真正面から向き合った。

「汝、勝呂純は、咲良が健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、咲良を愛し、敬い、共に助け合うことを誓いますか?」

 なんで、ポカンとしているんですか?

「ほら、先輩」

「ち、誓います」

 待っていても、いつまでも先輩はダンマリだった。

 時々、首を傾げて。

 先輩らしい。

「今度は、先輩が私に言う番です」

「そんな、覚えられないよ」

「仕方が無いですね。では、私が言いますので、そのまま真似をしてください」

「ああ、お願いね」

「汝、咲良は、汝の夫たる勝呂純が健やかなる時も、病める時も、ほら」

「汝、咲良は、汝の夫たる勝呂純が健やかなる時も、病める時も、ほら」

「ほらは、余計です。喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、ほら」

「喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も」

「勝呂純を愛し、敬い、共に助け合い、その命ある限り、尽くすことを誓いますか?」

 先輩が、きょとんとしていた。

 だって、これは私だけの誓いだから。

 私が先輩の為だけに行う、宣誓でもあるんだから。

「先輩?」

「ええっと、勝呂純を愛し、敬い、共に助け合い、その命ある限り、尽くすことを誓いますか?」

「はい、心から誓います」

 私は、唇を突き出した。

 いくら察しが悪い先輩でも、これぐらいは分かるでしょう。

 いや、分からなかったみたい。

 きょとんとしているし。

 はっきり言わない、私が悪いのか。

 ホント、先輩って面倒。

「先輩、誓いのキスです。早くしてください。私だって、恥ずかしいんですよ」

「ああ、そうだったね」

 先輩は私に近づき、私の唇に先輩は自分の唇を、そっと重ねてくれた。

 びっくりするぐらい、先輩の唇は柔らかかった。

 私の、初めての口づけだった。

 良かった。他の誰でもない、先輩で。


 先輩と離れた時、私は先輩の手を取り、誓いの口づけをした。

 とこしえに、あなたの側に居ます。

「え?何?」

「別にいいんです。気にしないでください」

「ああ、そう」

「それよりも、早く片付けましょう。これじゃあ、終わりませんよ」


 

 私は急に、恥ずかしくなってきた。



 とりあえず、先輩をいじろうと思う。

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