第三十五話 先輩と漫才
私たちは、先輩の家の近くにあるスーパーへ出かけた。
正直、あの冷蔵庫の中身では、お夕飯は無理だからだ。
「先輩、お夕飯は何にしますか?」
「何でもいいよ」
それって、一番困るんですけど?
そう思いながら先輩を見つめたら、慌てて付け足してきた。
「だからさ、私は自炊はしないんだって」
「だから、伺っていますけど?」
「じゃあ、肉がいい」
何ですか、それ?肉って、鶏肉?豚肉?それとも牛肉?意表をついて、マトン?
ああ、面倒だ。
「分かりました。お魚にします」
先輩がぶつぶつつぶやいていたので、一応今後の為に言っておかないとね。
「先輩、言いたいことがあるなら、ちゃんと言ってください」
「仮にだよ、いいかい、仮にだよ。だから、仮だからって、そう言ってるじゃないか!」
何だろう、表情がころころ変わるなあ。先輩の特技ですか?
「私、まだ何も言っていませんけど?」
「言いたいことがあれば、おいおい整理して伝達するようにします」
「なんですか、それは?」
「さあ?」
「とにかく、言いたいことは包み隠さずに、私に言ってください」
「何で?」
夫婦になれるかどうか分からないけど、私にとって先輩は、もう私の家族なんですから。
家族に、秘密は無しです。
ああでも、私の秘密は、いつかお話します。
今は、ちょっと。
でも、秘密があるオンナって、大人のオンナって感じしません?
「必要だからです」
「そうですか」
「そうです」
「そうでしたか」
「先輩?」
「もう!君は私に、どうして欲しいんだ」
「別に、いつも通りの先輩でいいですよ」
「頼むから、怒らないでくれ」
「先輩、私は怒ったことはないですよ」
「え?」
「私はいつも、先輩がしっかりしてくれるように、お願いをしているだけです」
「ああ、そうですか」
「はい、そうです」
「疲れたから、もう帰らない?」
「先輩、まだお買い物の途中ですよ?」
「ああ、そうでした。早く終わらせましょう」
「ええ、そうですね。混んできましたし」
私と先輩は、色々と買い込み、帰宅することにした。
私と先輩の、マイスイートホームに。
でも、何でだろう?
先輩、全然嬉しそうに見えないけど?
そうか、まだ私のサービスが、足りないってことね。
頑張ろう!
翌日、私は家に帰ることにした。
さすがに、3日も家を空ける訳にはいかないから。
着替えも無いし、お洗濯もしたいしね。
先輩は私を送ろうかと言ったくれたけど、大丈夫ですと言ったら、ああそうと返ってきた。
空気読めよ。
「先輩、建前と本音って、ご存知ですよね?」
「知りません、生まれて初めて聞きました」
「先輩?」
「私はそういう人間なんだから、私に合わせてください。お願いだから」
「仕方が無いですね、先輩」
「分かってくれましたか?」
「じゃあ、先輩。駅まで送ってください」
「ええ?」
思わず、先輩の頭をコツンと軽く叩いた。
先輩は痛そうなふりをしたけど、痛くはないはず。
いいなあ、こういうのって。
実は、憧れてたんだ。
夫婦漫才って。
駅まで送られていた時、先輩はどことなく嬉しそうだった。
私はちょっとムッとしたので、一応念を押すことにした。
「もちろん、先輩はこんなカワイイ後輩が帰ってしまうのを、残念に思っていますよね?」
「え?何で?」
はあ?
「うが!」
運転中だけど、つい手が出てしまった。
先輩ごめんなさい。死ぬなら一緒ですよ。
でもね、悪いのは先輩ですから。
「すみません、つい」
今何か、先輩がぶつぶつつぶやいたので、一応確認することにした。
それなりに、優しくね。
「いまなにか、言いましたか?」
「いえ、別に」
でも、先輩って本当に面白いなあ。
今まで出会った、どの男たちとも違う。
どうしてなんだろう?
先輩だから?
私以外の人には、先輩はどう接しているんだろうか?
母には、どう接していたんだろうか?
何で母は、先輩と別れたんだろう?
私には、それが分からなかった。
だって、こんなに楽しいのに。




