第三十一話 先輩とお風呂
私はバスタオル姿のままでいたけど、先輩はどうも気になったらしく、私にジャケットを掛けてきた。
ちょっと嬉しかったけど、出来の悪いこの私は、少々意地になっていました。
つまり、無視しました。
はい、私は悪い子ですね。
私は着る気がないので、ジャケットはそのままずり落ちてしまったけど、先輩は一応拾ってまた掛けてくれた。
何か言えばいいのに。
私がそのままでいたので、ジャケットがまたずり落ちた。
先輩、落ちましたよと目で訴えたら、呼び掛ける声がした。
「お風呂が沸きました」
というアナウンスが流れたから、先輩は私にお風呂に入るように促してきた。
私は仕方がなく、このゲームを終わりにすることにした。
もちろん、落ちたジャケットを拾うことも無く、何なら踏んでしまったけど。
先輩は私の自慢の足を見るでもなく、私に踏まれて無残な姿になったジャケットを見ていた。ちょっと、いじわるが過ぎたかな?
「じゃ、5分したら来てください」
とは言え、5分ではなく10分にすれば良かったと思った。
下着を脱いだ痕が、今頃になって気になってきたからだ。
私は急いで身体を洗い、済ました顔でバスタブに浸かった。
さりげなく、下着の痕を揉んで消そうとしたけど、何だかどうでも良くなってきた。
「はあああああああ~。くつろぐなあ」
思わず、いっい湯っだっな、あははと歌いだしそうになった。
そういえば、無意識に歌っているけど、これは何の歌だろう?
「入るよ」
ちょっと、ドキッとした。今の、先輩に聞かれたかな?恥ずかしい。
でも、先輩のそのお姿に、私は抗議することにした。不公平ですと。
「何で、服を着たままなんですか?」
「君の、髪の毛を洗うだけだよね?」
「ええ、そうですけど?」
「なら、何も問題は無いと思うけど?」
「私が無防備な裸で、何で先輩が服を着ているんですか?」
先輩は私の当然の疑問を無視して、バスタブに近づいてきた。
ちょっとではなく、かなりドキドキしてきた。
私、何をやってるんだろう。急に恥ずかしくなってきた。
「ほら、頭をこっちに向けなさい」
ああ、そうだよね、先輩って、そういう人だよね。こんなカワイイ女子が、無防備な裸で居るのにね。
私は先輩の言うがまま、バスタブの中でくるりと反転し、先輩に後頭部を向けた。
ホント、広いバスタブだよ。どんな豪邸だよ。これなら、ふたり並んで入れるじゃん。
「じゃ、やるよ」
私は手を頭の後ろに回し、髪留めを外した。
すると、私の髪がはらりと解けた。
実は、一度やってみたかったんだ。大人の女って、感じでね。
先輩、どう思ったかな?グッときたかな?ドキッとしたかな?
「坂上さん、君、ロングヘアだったんだね?」
どういう意味ですか?もしかして感想って、それだけですか?
綺麗な髪だねとか、素敵だねは無いんですか?ああ、そうですか。先輩って、そういう人でしたね。はいはい。
「ええ、そうですけど。知らなかったんですか?」
「だって、いつも髪は纏まっていたから、ショートヘアかと思っていたよ」
どうしたら、ショートヘアに見える?私ってそんなに、ボリュームのある髪ですか?
「表層しか見ないからです。だから先輩は、仕事でよくミスをするんですよ」
「反省します」
「本当ですよ」
先輩はいきなりシャンプー液を出そうとしたので、私はダメ出しをすることにした。
というか、女性の髪をなんだと思っている?
髪は女の命って、知ってますよね?
「いきなり、何をしますか?」
「え?髪の毛を洗うんだよね?まさか、石鹸で洗うのかい?」
「馬鹿ですか?本当に馬鹿なんですか?」
「ええっと、何か間違えましたか?」
「女性の髪を、洗ったことは無いんですか?」
「はい、ありません」
ということは、先輩にとって、私が初めての女って、そういうことですよね?
それで、いいですよね?やだ、ちょっと嬉しいかも。
私は髪の毛の洗い方をレクチャーしたら、先輩からこんな感想が戻ってきましたよ。
「ええ、面倒くさい」
ちょっとだけ、殴ろうかな?それとも、一緒に入ります?頭だけ。
「何か、言いましたか?」
「いえ、何でも。勉強になります」
先輩は私の髪の毛を、シャワーで丁寧にすすいでくれた。
今度はシャンプー液を、私の髪に直接掛けようとした。
ここも教えないと、ダメなのか。
ホント、先輩って、面倒。
「シャンプーは、手で泡立てるんです。やったこと、無いんですか?」
「ああ、はいはい」
「はいは、一回」
「ああ、はい」
先輩は私の言う通り、シャンプー液を手に取って泡立て、私の髪の毛に付けてくれた。
「頭も、ちゃんとマッサージしてください」
「はいはい」
「だ・か・ら」
「ああ、はい」
「よく、洗い流してください」
「了解」
「トリートメントはありますか?」
「何それ?」
一応、シャンプーの容器の隣に並んである容器を手に取って見たら、トリートメントと書いてあった。
先輩にしては、やるじゃんと思った。いや、たまたまだろう。
「これがトリートメントです。無かったら、先輩を沈めてやろうかと思っていましたよ」
先輩はせっせと私の髪の毛にトリートメントを付け、頭をマッサージしてくれた。
「坂上さん」
「何ですか?」
「疲れたよ」
「そうです、女性の髪の毛を洗うのって、結構大変なんですよ」
女性は、大変なんですよ。分かってますか?全部、先輩の為なんですよ?キレイになろうって、女心を分かっていますか?
「頑張ってください。後で、ご褒美をあげますから」
髪の毛を洗い終わり、先輩は浴室から出ようとした。
「先輩、服を脱いできてください」
「何で?」
「お背中を、お流ししますよ」
「い、いいよ。悪いし」
何だろう、先輩はすっかり動揺しているけど。
私に裸を見られるのが、そんなに嫌なのかな?
「髪の毛を洗ってくれた、お礼です」
「いいって」
「それって、私なんかにお背中を流してほしくないって、そういうことですか?」
ちょっと傷つくんですけど。乙女が勇気を出しているんだから、少しぐらい男気を出してください。いえ、先輩がどんな身体をしているのか見たいだなんて、私は微塵も考えていませんよ。
「分かったから、ちょっと待ってて」
脱衣所でバタバタする音がして、しばらくすると先輩が入ってきた。
前を、タオルで隠しながら。
「隠すことないのに」
「みっともないモノを、これ以上晒したくありません」
「先輩に、みっともなくないものって、なにかあるんですか?」
「はい、ありません」
「ほら、背中を向けて」
私は先輩の、意外に大きな背中を流すことにした。
手にボディソープを付けて、手のひら泡立てながら背中をなぞり始めることにした。
一度、やってみたかったんだ。
「坂上さん、あれ使って」
先輩は洗体タオルを指し示したけど、私は丁重にお断りしました。
「いいです、肌が荒れるので」
「くすぐったいんですけど?」
「我慢してください」
何だろう、結構楽しいかも。
「痒い所、ありませんか?」
「痒いです。早く終わってください」
ムッとしたので、ちょっと引っ掻いてやりました。
これも、一種のマーキングかな。
これ、私のですと。
「ほら、洗い終わりましたよ。前は、自分でやってください」
私は再度バスタブに入り、先輩に次の指示を出すことにした。
「じゃ、次は私の背中を流してください」
「いや、ほら私がやるとね」
「丁寧にお願いしますね。私の背中を傷つけたら、どうなるか分かってますよね?」
「ああ、はい」
私を傷物にしたら、責任取ってくださいね。
先輩なら、いくらでも傷つけていいですから。
だって、その分やり返しますので。
ホント、私って悪いオンナ。




